表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する  作者: すずの木くろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

195/415

194話:時間よ止まれ

 反省会が終わり、一良、バレッタ、リーゼは外に出た。

 ナルソンたちは明日からの行軍予定を組むとのことで、もう少し会議を続けるらしい。

 外は真っ暗で、野営地はしんと静まり返っている。

 起きている者はほとんどいないようで、見張りの者がちらほら見えるだけだ。

 ところどころに配置された篝火が、野営地をぼんやりと照らしていた。


「はあ、かなり疲れたな……今日はリポDゴールドを飲んでから寝るか」


「ゴールド? いつものやつとは違うの?」


 肩をコキコキと鳴らしながら言う一良に、リーゼが顔を向ける。


「うん。いつものやつより、効き目が強いやつ。栄養とか、疲れが取れる成分が多めに入ってるんだ」


「そんなのがあるんだ。私も飲んでみたい」


「別にいいけど、リーゼたちだとあんまり違いが実感できないんじゃないかな? 普通のやつを飲んだだけでも、体力全快って感じなんだろ?」


「そうだけど、飲んでみたいじゃん。なんかこう、すごいことになるかもしれないよ?」


「すごいことって何だよ……バレッタさんも飲みます?」


「あ、はい。いただきます。カズラさんは、気分は大丈夫ですか? 動画でいろいろ映ってましたけど……」


 撮影した映像にはモザイクやぼかしなどは入っていないため、完全なグロ動画と化していた。

 ナルソンやジルコニアたちは見慣れているのか、顔色一つ変えていなかった。


「大丈夫ですよ。目の前で見るのと、カメラ越しに見るのとではやっぱり違いますね」


「よかった……リーゼ様は、大丈夫だったんですか?」


「あんまり大丈夫じゃなかったけど、じっくりとは見ないようにしてたから。バレッタは平気だったの?」


「はい。動物の解体とか、手術の練習で血は見慣れていたので。なるべく、人間だって考えないようにしてました」


「あー、なるほど。私もお医者さんのところとかに、見学に行っておけばよかったなぁ」


 そんな話をしながら、一良の天幕にやってきた。

 中に入り、一良が木箱の中からリポDゴールドを取り出した。

 ボール箱に入れられた、10本入りのものだ。


「ナルソンさんとかエイラさんとかにも配るか。食事の効果で疲れてないかもだけど、飲んでおいて損はないだろうし」


「そうだね。皆、きっと喜ぶよ」


「カズラさんは休んでいてください。私が配ってきますから」


「あ、私も行くよ。お父様たちのところには私が持っていくから、バレッタは他をお願い」


「分かりました」


 箱を開け、バレッタがリポDゴールドを3本取る。

 エイラ、マリー、ハベルの分だ。

 リーゼは箱をそのまま持ち、2人して天幕を出て行った。


「さて、トイレ行って、身体拭いて寝るか。何だか胃がむかむかするし、胃薬も飲もうかな……」


 用を足すべく、一良も天幕の外に出る。

 トイレといっても、地面に穴を掘って板を敷いただけの簡単なものだ。

 野営地の隅にトイレ用の天幕が作られているので、そこへと向かう。

 すると、野営地を少し出たところに、数人の兵士たちが集まっているのを見つけた。

 その表情から、何やら困っている様子だ。

 なんだろうと、一良も近づいてみる。


「どうしました? 何かあったんですか?」


「あ、カズラ様!」


 兵士たちが、一斉に一良を見る。


「ちょうどいいところに来てくださいました。これの扱いに困っておりまして……」


 兵士たちが振り返り、地面を見る。

 真っ白な長い動物の毛が、山積みになっていた。


「何だこれ。誰が持ってきたんですか?」


「いえ、それが分からなくて……カズラ様もご存じないのですか?」


「え? いや、知りませんよ。動物の毛を持ってくるような……」


 ふと、昼間にバレッタが言っていたことを思い出し、思わず声を漏らしそうになる。

 これはもしかしたら、あのウリボウたちの仕業ではないだろうか。


「カズラ様?」


「いや、何でもないです。捨てちゃうのはもったいないですし、貰っておきましょう。俺も手伝うんで」


「あ、いえ! それなら私たちだけでもできますので!」


「いやいや、ちょっと身体を動かしたいとも思ってたところなんで、手伝わせてください。あ、その前にトイレ行ってきますね」


 そんなこんなで、一良も兵士たちに混ざって毛を運ぶことになった。

 すぐに終わるかと思いきやかなり時間がかかり、袋詰めを終える頃には30分以上が経過してしまっていた。




「ん? リーゼじゃないか」


 天幕に戻ると、リーゼがベッドにちょこんと座っていた。

 カラになったリポDゴールドの瓶を手のひらで転がし、もてあそんでいる。


「どうした? ……ああ、それ飲んでたのか。味はどうだった?」


「うん、美味しかったよ。でも、私はいつものやつのほうが好きかな」


 そう言ってビンを隣に置き、一良に目を向ける。

 珍しく、少し緊張したような顔だ。


「あのね、お願いがあるんだけど」


「どうした、改まって」


 真剣な話なのかと、リーゼの隣に腰かける。

 リーゼは膝に置いた手に、目を落とした。


「何でも言ってくれていいんだぞ。俺にできることなら、なんだってしてやるから」


「ほんと?」


 リーゼが一良に顔を向ける。

 とても不安そうな眼差しに、一良はしっかりと頷いた。


「おう、任せとけ。何か困りごとか?」


「うん……すごく困ってる」


「何があった?」


「その……」


 リーゼが再び、自分の膝に目を落とす。


「今夜は、一人になりたくなくて……」


「……え」


 言葉を詰まらせる一良の目を、リーゼが横目で見る。


「一緒に、寝て欲しいな……って」


「……」


「ダメ……かな?」


 不安げな眼差しで言うリーゼに、一良が言葉を詰まらせる。

 その時、天幕の入口が揺れて、バレッタが入ってきた。


「あの、カズラさ……ん……」


 ベッドに隣り合って座る2人見て、バレッタが表情を引きつらせる。

 なぜか、手には寝間着を抱えていた。


「……あ! バレッタ、ちょうどよかった! 今、呼びに行こうって話してたところなの!」


「え?」


 先ほどとは打って変わって、リーゼが明るい声で話す。


「昼間の戦い、すごかったじゃない? 何だか夢に見そうで怖くって、皆で一緒に寝たいなって思って。カズラにお願いしてたんだ」


「え、皆で一緒に、ですか?」


「うん。ベッドは1人用だから3人は寝れないし、地面に敷き布引いて寝ることになっちゃうけど……って、バレッタ、何持ってるの?」


 バレッタの持っている寝間着に気付き、リーゼが目を細める。


「えっ? こ、これは……洗濯したカズラさんのお洋服です!」


「カズラの? でもそれ……」


「わ、私も寝間着を取ってきますね!」


 バレッタは慌てた様子で、外に飛び出して行った。

 呆気に取られている一良の横で、リーゼが大きくため息をついた。


「はあ……やっぱりダメだ私。ほんと、どうしようもないや」


「な、何が?」


 リーゼが一良に横目を向ける。


「だって、あの娘のあんな顔見ちゃったら……ほんと、自分が嫌になるわ」


 そう言って、すっと立ち上がる。


「私も着替え、取ってくるね。敷き布、用意しておいて」


 後ろ手に手を振りながら、リーゼは天幕を出て行ってしまった。




 数十分後。

 身体を拭いて寝間着に着替え、3人は厚めに敷いた敷き布の上に寝転んでいた。

 一良を真ん中にして、両脇をバレッタとリーゼが挟んでいるかたちだ。

 ちなみに、バレッタとリーゼが身体を拭く時は、一良は外に出て待っていた。


「えっと、それじゃあ寝るぞ。おやすみ」


「おやすみー」


「おやすみなさい」


「……ぐぅ、ぐぅ」


「「えっ?」」


 10秒せずに一良がイビキをかきはじめ、バレッタとリーゼが同時に驚いた声を上げる。


「嘘、もう寝たの? 冗談でしょ?」


 リーゼが身を起こし、一良の顔を覗き込む。

 ぐうぐうと、気持ちよさそうに寝息を立てている。

 ガチ寝である。


「こ、この男は……こんなにかわいい娘2人に挟まれてるってのに……」


「あはは……きっと、すごく疲れてたんですよ。行軍中ずっと、ろくに眠れてないみたいでしたから」


「あー……それもそっか。ずっと怖い顔してたもんね」


「はい」


 イステリアを出立してからの一良は、ずっと気を張っているといった感じで、常にピリピリしていた。

 といっても、誰かに当たるといったことは一度もなく、むしろリーゼやバレッタをとても気にしている様子だった。

 2人も一良を気にして、何とか気を紛らわそうとしていたのだが、やはり気持ちをほぐすことはできなかった。

 それが今日、会戦を完勝することができて、ようやく人心地つけたのだろう。


「そういえばさ、さっきバレッタ、寝間着持ってきてたじゃない? どうするつもりだったの?」


 両肘をついてうつ伏せになり、リーゼがバレッタに意地悪な顔を向ける。


「え、えっと……」


「なになに? 怒らないから教えてよ」


 にやにや笑っているリーゼに、バレッタが少し苦笑する。


「カズラさん、昼間すごくつらそうだったじゃないですか。だから、今夜は傍に付いてなきゃって思って」


「……抜け駆けするつもりだったんじゃないの?」


「えっ?」


 予想外の返答に驚くリーゼ。

 対するバレッタは、きょとんとした顔をしている。


「抜け駆けって……ちちち、違いますよ!? そんなことしません!」


 言葉の意味を理解し、バレッタが顔を赤くして起き上がる。


「私はただ、カズラさんをぎゅってして一緒に寝ようと思ってただけですっ! そのまま襲うつもりなんて、カズラさんの気持ちを考えないようなことなんて私は――」


「わ、分かったから、落ち着いて! カズラが起きちゃう!」


 わたわたと手を振りながら騒ぐバレッタを、リーゼが慌てて制する。

 バレッタがハッとして、口を押えて一良を見る。

 一良は相変わらず、ぐうぐうと気持ちよさそうに寝息を立てている。

 起きる心配はなさそうだ。

 二人して、ふう、と息をつく。


「あれ? でも、それならさっき、どうして寝間着のこと言ったら逃げて行ったの? おかしくない?」


「だ、だって、リーゼ様に知られたら恥ずかしいじゃないですか。まるでその……夜這いにきたみたいに思われそうですし……」


「あなた、どんだけ純真なのよ……」


 リーゼがげんなりしたため息をつく。


「バレッタは偉いね。私なんて、自分が心細いからって、カズラに優しくしてもらいたくて来たのに」


「それは別に、悪いことじゃないですよ。あんな戦いの後なんですから。ベッドに2人でいたから、私はてっきり……」


 あはは、とバレッタが苦笑する。


「あ、それ当たってるよ。一緒に寝てくれるようにお願いしてる時に、『あ、これ、もしかしたらいけるかも』とか考えてたし」


「えっ? いけるかもって……カ、カズラさんを襲うつもりだったんですか!?」


「うん。バレッタが来なかったら、たぶん押し倒してた」


「だだだ、ダメですよそんなのっ! そんなこと、絶対にダメですっ!!」


 バレッタが再び、顔を真っ赤にしてまくし立てる。

 リーゼは、べちゃっと身体を伏せて、枕に顎を載せた。


「分かってるって。もうしない。約束する」


「本当ですか!? 絶対ですよ!?」


「絶対しないって。私、あなたに嫌われたら、たぶん耐えられないもん」


「……え?」


 きょとんとした顔になるバレッタに、リーゼが顔を向ける。


「あなたのことが、大好きなの。嫌われたくないの」


「え、えっと……と、友達として、ですよね?」


「当たり前でしょ。何言ってんのよ」


 はあ、とリーゼがため息をつく。


「あなたに会う前はさ、自分に自信あったし、絶対に奪い取ってやろうって思ってた。どんな人が相手でも、実力で奪ってみせるって」


「……」


「でも、カズラのことと同じくらい、バレッタのことも好きになっちゃったの。これ、どうすればいいのかな」


「リーゼ様……」


「……私、あなたともカズラとも、ずっと一緒にいたいな」


 何と答えていいか分からず、バレッタが口を閉ざす。

 バレッタとて、リーゼのことは好きだ。

 だが、この先もずっと、そうあることができるだろうか。

 もし、一良が自分ではなく、リーゼを選んでしまったら。

 そうなったら、自分は――。


「このまま、時間が止まっちゃえばいいのにね」


 そう言って、リーゼが顔を反対方向に向ける。

 その声は少しだけ、震えていた。

 バレッタはしばらく、黙ってうつむいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ