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150話:二つの岸

 ある日の午後。

 一良はナルソン、そしてジルコニアとともに、作業部屋でプロジェクターから映し出される映像を眺めていた。

 様々な鉱物や農作物、薬品、革製品などの生産量と、税金や事業による収益が棒グラフで月ごとに映し出されている。


「鉛、銅、錫、銀、それに油と鉄。よしよし、生産量は順調に推移してますね。街も活気が出てきたみたいだし、いい感じだ」


 月ごとに右肩上がりしているグラフに、一良は満足そうに頷いた。

 どれもここ数カ月で生産量が大幅に増大しており、それに伴って領内の資金も順調に増加していた。

 加えて秋の作物の収穫がかなり多かったため、いつもなら寒さが厳しくなるにつれて徐々に高騰する食糧価格も、いまだに安定している。

 さらには河川工事や新しい農地の開墾、イステリアおよび近隣農村での移民者住居の建築ラッシュに伴う仕事量の増加で、失業率も大幅に低下していた。


「はい、砦の建築と護岸工事もすこぶる順調です。鉄器の導入も始まりましたので、今後はさらに工事の進捗が早まるかと」


「雪の影響はどうです?」


「かなりの大雪で部分的に少しばかり支障が出ていますが、新しい道具の導入と作業員に十分な食事と給与を提供できるようになったため、皆が一生懸命働いてくれるので問題になるほどではありませんな」


 3月に入り、連日の降雪もようやく落ち着いてきた。

 今年の冬は以前ジルコニアが言っていたとおりの大雪となったが、今のところ物の生産や工事への影響は小さくて済んでいる。


「食料や燃料といった生活必需品の価格が安定したことと、失業率の大幅な低下で治安も良くなっています。貧民街での窃盗事件が格段に減ったと報告が上がってきております」


「今はどんな人でも職にありつける状態ですもんね。わざわざ犯罪を犯して危険な目に遭わなくても済むようになったってことか。いい傾向だ」


「そうですな。子供でもできるような簡単な仕事もいくつか出てきているようです。所得の低い家庭では、貴重な収入源になっているでしょう」


 薪と木炭の需要が例年よりも多くなると予想されたため、冬の間に一良の提案で炭団たどんの製造手法を市民に公開した。

 時間的に余裕のある市民は、自分たちで炭団をこしらえて燃料費の節約を行っているようだ。

 また、家庭で出た炭クズを安値で買い集めて炭団を製造し、販売する業者も現れていた。

 従業員には、近場の家庭の子供を雇っている業者が多いとのことだ。

 飢饉の折に代替納入された木材の一部も薪として市場に流したため、昨年に比べて薪と木炭の価格はやや下落している。


「あ、そういった子供の労働環境には注意を払ってくださいね。何かと不当に搾取されやすい層ですから。鉱山で低賃金、重労働とかはダメですよ」


「我が領では鉱山での労働は16歳以上という年齢制限を設けているので、大丈夫です。条件には奴隷も含まれておりますので、ご安心を」


「おお、そうだったんですか。違反に対する罰則はあるんですか?」


「違反した雇い主には罰金刑か強制労働刑、もしくはその両方で、悪質な場合は財産没収のうえ奴隷身分になるか極刑かの二択ですな」


「うお、結構罰が重いですね」


「労働者に過酷な労働を強いて、結託して反乱など起こされてはたまりませんからな。どんな国も、崩れる時は足元からですので」


「なるほど」


 イステール領は一良が来る前から治安維持には力を入れており、違反者に対する罰則もかなり厳しい。

 とはいえ、市民が貧困にあえぐようになると、いくら罰則が厳しくても犯罪率は増加するものだ。

 好景気こそ、犯罪率低下の一番の処方箋なのかもしれない。


「それと、スクリュープレスの導入で豆油の生産量が大幅に増えたおかげで、豆油はもちろん動物の脂の価格がかなり下がりました。一般市民や飲食店を経営する者たちからは喜びの声が上がっているようです」


 豆油の価格が急激に下がったおかげで、高価なロウソクの代わりに豆油を灯油ともしあぶらとして用いた照明が一般に普及しつつある。

 用途が料理だけでなく照明用としても広がったせいで、動物の脂の価格が豆油と逆転して安く手に入るようになっていた。

 動物の脂の価値が下がった理由は、灯火として用いると煤と臭いがかなり出るため不人気で、ほとんど料理用にしか使われないからだ。

 脂の価格低下と並行して、やや高価だった石鹸(灰と脂と塩で作る半固形状のもの)の値段も若干下がっていた。

 ちなみに、以前屋敷で脱油機を用いて搾った豆油は料理人に「美味しくない」と言われてしまい、すべてが照明用となってしまった。

 搾り方によって、油も味が変わるらしい。


「なるほどなるほど、芋の苗床と屋内での苗の栽培も順調ですし、今年の食糧生産量はかなりの量が見込めますね」


「夏には冷蔵庫を売り出しますし、氷の需要もすごいことになりそうですね。夏になるのが楽しみです」


 本当に楽しみで仕方がない、といった様子で、ジルコニアが微笑む。

 ジルコニアは市民にもかき氷を広めるつもりのようで、夏になったら街の飲食店にかき氷器の売り込みをすると息巻いていた。

 今年の夏は、ジルコニアにとってとても楽しいものになりそうだ。


「塩の製造手法も、そろそろフライス領で発明という形になるように、技術協力として送っている職人さんたちに動くように指示を出しましょうか。質のいい塩を大量生産してもらいましょう」


「そうですね。それにしても、ニーベルがあれから何も仕掛けてこないことが気がかりですが……」


 塩の値段と取引量については、今のところグレゴルン領からはニーベルが言っていたような大幅な縮小の通告はされていない。

 以前の取引量よりも2割減、それも半年間のみという期限付きであり、値段は据え置きとなっていた。

 リーゼとニーベルの間で交わされたやり取りは、どういうわけか何も無かったかのように話は進んでいる。


「うーん、やっぱりハッタリだったんですかね。それか、ニーベルさんのやろうとしていることがダイアスさんにばれて怒られたとか」


「もしそうだとしたら、怒られるでは済まないと思いますけど……」


「うむ、岩塩坑の存在……まあ、それが本当にあればの話ですが、それをダイアス殿は把握しているのかもしれませんな。取引自体も、ニーベルに任せっきりということではないのでしょう」


「どちらにしても、アロンドさんからの報告待ちですね。彼ならきっと真相を突き止めてくれるでしょうから、期待して待ちましょう」


「……」


「ジルコニアさん? どうかしました?」


「あ、いえ、何でもありません」


 ジルコニアの様子に一良が小首を傾げていると、ナルソンが「さて」と表情を引き締めた。


「残る問題は、バルベールからの苦情と損害賠償請求ですな」


 バルベールから『国境付近の村がアルカディア人に襲われた』、という内容の最初の苦情が来てから約2か月。

 さらに5件もの苦情が、ナルソンの下に届けられていた。

 どれも、国境付近の村が襲われた、街の間を移動中の隊商が襲撃された、といった内容のものだ。

 つい10日ほど前には、バルベールの守備軍団長が自ら国境沿いに建設中の砦の前まで訪れて、すさまじい剣幕で苦情を訴えてきたらしい。

 その時に対応したのは、砦で監督官をしているアイザックの父親、イクシオスだ。


「あれって、いったい何がどうなってるんですかね? 守備軍の責任者が出てくるって、ちょっとただ事じゃないですよね?」


「そうですな……あれから私も方々に手を回して状況を確認させたのですが、やはり我が領から何者かがあちらへ略奪に行ったような形跡はありませんでした」


「ナルソン、やっぱり様子がおかしいわ。少数でも構わないから、市民兵の訓練を始めるべきよ」


「ううむ……」


 ジルコニアの意見に、ナルソンは唸っている。

 一良はパソコンに入れてある資料から、苦情と損害賠償請求についてのものを映し出した。

 相手方の責任者の欄には、バルベール第10軍団長、カイレン・グリプスと記載されている。


「確かに、こんな無茶苦茶言ってくるなんて、ちょっと怖いですよね」


「しかし、このタイミングで我々が軍事的な行動を起こすのは……」


「気が進みませんか?」


「はい。たとえ少数でも市民兵を招集するとなれば、市民の不安をあおって経済の成長が急激に減速しかねません。相手がそれを狙っての行動だとしたら、それこそ思うつぼです」


「なら、市民兵を使わないで守備を堅めるってことならどうです?」


 一良の言葉に、ナルソンがいぶかしんだ顔になる。


「市民兵を使わずに、ですか? 何か理由をつけて、予備役を招集するということでしょうか?」


「いえ、新しい武器を大量に揃えて、有事に備えるんです。これとか」


 一良はそう言うと、画面に手製のクロスボウの写真を映し出した。

 それを見て、ジルコニアがピクリと眉を動かした。

 以前目にしたバレッタが設計したものと、見た目がかなり異なったからだ。


「これは、クロスボウという武器です。弓のように熟練が必要ではなく、数日の訓練で誰でも使えるようになります。連射はききませんが、殺傷力はかなりのものです」


「む……どれほどの威力があるのですか?」


「距離にもよりますが、薄い盾や鎧なら貫通します。運用法は弓とはやや異なりますが、弓よりも高威力な射撃兵器と考えてもらえれば」


「その、このようなものを授けていだだいて、よろしいのでしょうか? 以前、軍事は管轄外とおっしゃっていたかと思いますが」


「確かにあの時はそう言いましたが、もうそんなことも言ってられない状況ですから。この国が滅ぶような危険が迫っているのなら、手をこまねいているわけにはいきません。私も覚悟を決めます」


 クロスボウの導入に関して、一良は今の今まで踏ん切りがつかないでいた。

 理由は、地球の歴史において、クロスボウの登場が世界にどのような影響を与えたのかを知っていたからだ。

 クロスボウは、わずか数日の訓練で扱うことができるようになるうえに、各パーツを分けて組み立て式にすることで大量生産が可能である。

 矢は溶かした鉄を型に流して生産できるうえに、型は使い回しが可能だ。

 つまり、従来まで育成に多大なる時間を必要とした弓兵の代替品を、この武器を量産することで大量生産することができるのである。

 この恐るべき兵器を作り上げた古代中国のしんという国は、極めて軍事的に特化した国家システムと効果的なクロスボウの運用を用いて、わずか9年で260万平方キロメートルの土地と、2700万人の人々を支配下に置き、文字通り世界の地図を塗り替えた。

 世界で最初に誕生した大量生産射撃兵器であり、次に射撃兵器が大量生産されるのは、それから約2000年後。

 アメリカのスプリングフィールド造兵廠が製造した、マスケット銃まで待たなければならない。


「おお! ありがとうございます! 是非ともよろしくお願いいたします!!」


 立ち上がって握手を求めるナルソンに、一良は困ったような顔でそれを受ける。

 その顔に笑みはない。


「カズラさん、これの製造は、バレッタに一任してはどうでしょうか。あの娘なら、きっと上手くやってくれると思います」


 握手が終わるのを待って、ジルコニアが一良に提案する。


「いえ、武器の製造については、バレッタさんには秘密にしておいてもらいたいんです」


「どうしてです?」


「私の我侭ですが……彼女には、こういうことに関わってもらいたくないんです。知ればきっと、率先して手伝おうとするでしょうから……」


 少し俯いて答える一良に、ジルコニアが目を細める。


「理由をお聞きしても?」


「……彼女、前回の戦争で母親を亡くしているんですよ。それなのに、戦争に使うものを、こんな恐ろしいものを作るのを手伝えなんて、言いたくないんです。彼女に、すごく嫌な思いをさせると思うので」


「……本当に、そう思うんですか?」


 ジルコニアの問いかけに、一良が顔を上げる。


「彼女が嫌な思いをすると、本気で思っているのですか?」


「お、おい、ジル」


 焦ったように静止の声をかけてくるナルソンを無視し、ジルコニアは言葉を続ける。


「カズラさんは、あの娘のことを大切に思っているんですよね?」


「え、ええ、もちろんです」


「あの娘だって、同じはずです。カズラさんのことを、何よりも、誰よりも大切に思っているはずです」


 そう言い、壁に移っているクロスボウの図面へと目を向ける。


「大切な人には、すべてを打ち明けて欲しいと思うのが普通ではないでしょうか。自分のために傷つくことや嫌なことを肩代わりしていたと後で知ったら、それこそとても傷つくはずです」


「……ジルコニアさん、この武器を見て、これから先に何が起こるのか想像ができますか?」


 一良の言葉に、ジルコニアは怪訝そうな目を向ける。


「たくさん人が死ぬどころの話ではありません。使い方によっては国一つ滅ぼしかねない、そんな武器なんです。戦争が始まる前にこれを大量に揃えてしまえば、バルベール軍を撃退するどころか、相手方の国に攻め込んで蹂躙することすら可能です。この武器は、そんな武器なんです」


 一良が、ナルソンとジルコニアを交互に見る。


「戦争が始まった場合、私はあなたがたにそれをやれと言おうとしているんです。今まで私は、もしかしたら休戦協定の期限切れ後も、戦争にはならずに済むかもしれないと考えていました。ですが、ここ最近のバルベールの動きを考えると、それは甘い考えだったと言わざるをえません。戦いが避けられないのなら、もうやるしかありません。ただし、やるからには徹底的にやります。敵が二度と立ち上がれないほどに、早期に決定的な打撃を与えて敵をねじ伏せるんです。中途半端に終わらせて数年後に逆襲されたり、技術を相手に模倣されて戦いが泥沼化なんてまっぴらごめんです」


 一良の台詞に、ナルソンは壁に映し出されたクロスボウの写真をまじまじと見つめた。

 国一つ滅ぼしかねない武器、と言われても、写真を見ただけでは上手く想像が付かない。


「カズラ殿、この武器は、本当にそれほどに扱いが簡単なのですか?」


 確認するように質問するナルソンに、一良は頷く。


「簡単です。相手に狙いを定めて引き金を引くだけで矢が発射されますから、弓のように高度な技術が必要ないんです」


「ふむ、確かにそれは素晴らしいですな……製造の手間はどうでしょうか。だいぶ変わった形をしていますが、材料はどんなものが必要でしょうか」


「使うのは鉄、木材、革、接着に使う樹液と蝋、それと動物の腱もしくは植物の繊維の紐です。弓部分の加工に手間がかかるので、今から弓職人と大工職人を集中的に投入して数を揃える必要があります。水力製材機をもっと作れば、何とかなるでしょう」


「ううむ、大工職人の集中投入ですか……」


「大量生産できるとは言いましたが、それなりに高度な加工技術は必要ですからね。素人に作らせるわけにもいかないので」


 先日一良が作った実物は、この場には持ってきていない。

 弓部分の曲げ加工と接着が上手くいかず、芯ブレを起こしてしまって使い物にならなかったからだ。


「要は金と生産力さえあれば、高威力な弓兵を大量に揃えることができるというわけですか。なるほど、これはすさまじいですな」


「ええ。ただし、もちろん製造法は秘匿するにしても、時間が経てば敵側に模倣されることは確実です。開戦と同時にクロスボウの大量投入で緒戦の敵を撃破して、速やかに敵国へ侵攻して首都なり大都市なりを制圧して形勢をこちら側に傾ける必要があります」


「となると、都市の攻略戦を行うということになりますな。この武器だけでは敵が都市や城塞に籠って完全に防御に回られた場合、短期での攻略は不可能です。他にも新兵器はあるのでしょうか?」


「あります。大きな石弾を射出する『カタパルト』という大型攻撃兵器を用意しなければなりません。それがあれば、この世界の城壁なら短時間で破壊できるはずです。我々のようにモルタルを使って強度を増した防壁相手だと、そうもいきませんけどね」


「短期決戦で講和に持ち込むということですか。物資輸送用にラタのハーネスも増産せねば……立地的に、国境沿いの砦を製造拠点とするべきか……」


「それがいいかもしれないですね」


「ふむ……」


 早くも運用法を考えているのか、ナルソンはじっとクロスボウの写真を見つめている。

 一良はふたたび、ジルコニアに顔を向けた。


「兵器の製造手法は私がすべてお教えします。なので、ことが起こるまではバレッタさんには黙っていて欲しいんです」


「しかし……」


「お願いします」


 頑なな一良の様子に、ジルコニアがため息をつく。


「分かりました。どちらにせよ、早い段階で砦に皆で視察に行きましょう。武器の生産拠点にするにしろ何にしろ、カズラさんにも現地を見ていただきたいです」


「ええ、いいですよ。近いうちに、といっても、今後の生産計画を立ててからのほうがいいですかね。他領との連携も考えないとですし」


「そうですね。早急に計画を立てましょう」


 静かに答えるジルコニア。

 その様子に、一良は内心首を傾げた。

 前回グリセア村に戻った時、彼女は復讐のためにバルベール人を皆殺しにするとまで言っていたのだ。

 彼女は自分の中に生まれ始めた迷いを打ち明けてくれたが、復讐をするという確固たる信念は揺らいでいないように感じられた。

 武器製造の提案をすれば、多少なりとも反応はすると思っていたのだが、ナルソン以上に彼女は冷静に見える。


「カズラさん」


 一良がパソコンを操作してカタパルトの写真(書籍に載っていた復元品写真のコピー)を引き出そうとしていると、ジルコニアが声をかけてきた。


「カズラさんと同じように、バレッタもカズラさんのことを考えているはずです」


「……? はあ」


「偉そうなことを言って、ごめんなさい。でも、自分だけ我慢することは、とても簡単です。相手のことは置き去りで、すべて自分の中で完結できますから。最後まで相手に知られずに済むのなら、それもいいと思います」


「ジル、いい加減にしろ。カズラ殿の決めたことだぞ」


「大事なことなの。ちょっと黙ってて」


 鋭い視線を向けられ、ナルソンが口を閉ざす。

 その目付きは、数年前にバルベールへの侵攻案を却下された時のものと酷似していた。

 ジルコニアは再び、一良に顔を向ける。


「カズラさんは、もしかしたら戦争はまだ回避できるかもしれない、そう考えていますよね?」


「い、いえ、そんなことは……」


「違いますか? もしそうなら、今の時点で彼女にも兵器の生産について話して、製造計画はカズラさんが一人で進めると言い聞かせれば済むはずです。いくらバレッタでも、カズラさんが言い切れば反論はしないでしょう」


「……」


 一良は押し黙った。

 ジルコニアの言葉が、図星を突いていたからだ。

 もし、万が一、戦争が起こらないとしたら。

 兵器の製造はおおやけにせず、一部の人間だけが知るに留めておくことができる。

 そうすれば、戦争に使う道具を自分が彼らに与えたということを、バレッタに知られないで済む。

 いずれアルカディアは、自らの利益のためにそれらの兵器を使って他国を侵略するかもしれない。

 むしろ、そうなると考えたほうが妥当だろう。

 しかし、たとえそうなったとしても、彼女に知られるのはまだ先の話になるはずだ。

 バレッタが自分を追ってイステリアに来た日の夜に見せたような悲しい目を、自分に向けることになるのは。


「私は、やつらのやり方を知っています。戦争は回避できません。休戦協定だって、本当に守るのか怪しいものです」


「でも、もしかしたら……」


「避けられないんです」


 一良の言葉を遮り、ジルコニアが言い切る。


「なし崩し的に彼女に知られることになるのか、初めから話して理解を得るかの違いだけです。どちらのほうが彼女を傷付けるか、分かりますよね?」


「……」


「まだ、時間はあります。戦争が始まる前……いえ、武器の生産が始まる前に、カズラさんの口から彼女に話をすべきだと私は思います」


 苦悩の表情をしている一良に、ジルコニアはふっと微笑む。


「大丈夫ですよ。嫌われたりなんかしませんから」


「……えっ?」


 思わぬ言葉を投げかけられ、一良が驚いた顔になる。


「こんなに大切に想ってもらえて、あの娘は幸せね。妬けちゃうわ」


「い、いや、あのですね」


「そろそろ休憩にしましょ。ナルソン、お菓子の用意しておいて。私はお湯を取ってくるから」


 そう言い、ジルコニアは席を立つとさっさと部屋を出て行った。

 プロジェクターの光だけが射す薄暗い部屋の中、ぽつんと男2人が残された。

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― 新着の感想 ―
[一言] カズラの中途半端な甘さと言うか、バレッタに 酷い男だと思われたく無いような感じが読んでて イライラする。
[一言] 展開がイライラする 誰を主役にしたいかわからん
[一言] ジルコニアがカズラに説教してることに違和感
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