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127話:見えない壁

 2日後の夜。

 一良はグリセア村の入り口で、シルベストリアと話していた。

 隣にはバレッタが控えており、1歩後ろでは、ジルコニアとリーゼ、エイラとマリーがその様子を見守っている。

 当初はバレッタと2人で村に戻るつもりだったのだが、リーゼが「絶対に付いて行く」と強く主張したため連れてきた。

 ジルコニアは元から付いてくるつもりだったようで、特に理由も付けずに当たり前のように付いてきた。

 近頃は何だかんだ理由をつけて、一良が遠出する際には同行することが多くなってきているようにも思える。


「では、少しの間職人さんたちをお願いします。といっても、昼間は村の中で作業してもらうので、ほとんど野営地にはいませんけどね」


「はい! かしこまりました!」


 何やら嬉しそうに、やたらと元気な声で返事をするシルベストリア。

 少し頬が紅潮しており、先ほどからちらちらとバレッタに意味深な視線を送っていた。

 バレッタは所在なさげに、周囲に目を泳がせている。


「さて、俺たちは家に戻りますね。皆さん、また明日です」


「ジルコニア様、リーゼ様、失礼いたします」


 2人がそう言って村に入っていこうとすると、リーゼが一良の服の袖を掴んだ。


「ん、どうした?」


「……置いていっちゃ、やだ」


 消え入りそうな声で縋るようにリーゼが言った途端、シルベストリアが「おおっ」と声を上げた。

 皆の視線が集中し、彼女は慌ててあさっての方向に目をそらす。


「明日の朝になったら迎えに来るって。今生の別れじゃあるまいし」


 そう言いながら、一良は先日のお茶会の席でエイラに言われたことを思い出した。

 ふとエイラに目を向けると、エイラは「どうしましょう」とでも言いたげな困った表情で苦笑していた。

 その隣では、マリーがリーゼとバレッタの顔を交互に見やりながらあわあわしている。


「……うん、ごめんなさい」


「……あの、もしよろしければリーゼ様も家にお泊まりになりせんか? あまり綺麗なところではないですが、お風呂もあるので野営地にいるよりはよく休めると思います」


 しゅんとした様子で頷くリーゼに、その様子を見ていたバレッタが遠慮がちに声をかけた。

 予想外の申し出に、リーゼは驚いた表情でバレッタに目を向ける。


「い、いいの?」


 敬語を使うことも忘れて問うリーゼに、バレッタはぎこちなく微笑む。


「はい。でも、寝具が足りませんので、持ち込んでいただかないと……」


「あら、お風呂があるの? 私にも使わせてもらえない?」


 バレッタが言いかけると、ジルコニアが話に入ってきた。


「あ、はい。大丈夫です。すぐに用意します」


「ありがと。ついでに、私もあなたの家に泊めてもらっても平気かしら? 天幕だと疲れがとれなくて」


「は、はい」


 バレッタが頷くと、ジルコニアはエイラとマリーに用意を命じた。

 寝具だけでなく、着替えや食料品も運び込むようだ。


「ほら、リーゼも用意なさい。あの娘たちだけじゃ大変だから、自分の着替えくらいは運ぶのよ?」


「は、はい!」


「バレッタ、あなたも手伝ってもらえるかしら?」


「分かりました」 


 ばたばたと野営地に入っていく皆を一良がぽかんとした表情で見ていると、ジルコニアがくすっと笑った。

 一良がそれに気づいて彼女に目を向けると、目が合った。


「1つ貸しですよ?」


 そう意味深な台詞を吐き、軽い足取りで野営地へと入っていった。




 数十分後。

 バリン邸の居間では、一良とバレッタとバリン、そしてリーゼとジルコニアの計5名が囲炉裏を囲んでいた。

 一良とバレッタだけが帰って来ると思っていたバリンは、突然押しかけたリーゼたちに緊張している様子だ。

 エイラとマリーは野営地に戻っており、そちらで寝泊まりするらしい。


「突然押しかけちゃってごめんなさいね。少しの間お世話になるわ」


「いえいえ! こんな小汚いところで申し訳ございませんが、好きに使っていただければと!」


 バリンが緊張しきった声で答えると、ジルコニアはにっこりと微笑んだ。


「ありがと。世話になりっぱなしっていうのも悪いし、ここにいる間は私が食事の用意をするわね。大したものは作れないけど」


 ジルコニアはそう言うと立ち上がり、台所のある土間へと向かう。

 それを見て、バレッタは慌てた様子で立ち上がった。


「ジ、ジルコニア様! 私がやりますから休んでいて下さい!」


「あら、なら一緒にやりましょうか。料理なんて数年ぶりだから、私があなたの手伝いをしたほうがいいかしら」


「えっ」


「ほら、遅くなっちゃうからさっさと始めましょう?」


「は、はい! お父さん、お風呂の準備してきて!」


「う、うむ!」


 ばたばたとバリンが外に出て行き、囲炉裏の前には一良とリーゼがぽつんと残された。

 特にやることもないので台所に立っている2人の背を一良が眺めていると、隣に座っていたリーゼがちょいちょいと服の裾を引っ張った。

 人の家に上がっているということもあってか、どことなく遠慮がちな様子だ。


「ん?」


「あのさ、あの娘のお母さんが見えないみたいだけど……他に家族はいるの?」


「バレッタさんのお母さんはもう亡くなってるみたいだな。兄弟とかもいないはずだ」


「そう……もしかして、戦争で亡くなったの?」


「いや、俺もそこは詳しくは知らないんだ。そういう話になったこともないし」


「村の中にお墓とかは?」


「俺は見たことないな。墓参りしてるそぶりもなかったし、近くにはないんじゃないかな」


「そっか……」


「どうかしたのか?」


 少し暗い顔をしているリーゼに一良が問うと、彼女はすぐに表情を取り繕った。


「ううん、何でもない。それより、明日はどうするの? 一日中耐火レンガ作りと製鉄炉の見学?」


「うん、そうしてもらうつもりだ。作業はバレッタさんに主導してもらうから、何かあったら彼女に聞いてくれ」


 一良が答えると、リーゼは小首を傾げた。


「カズラは一緒に行かないの?」


「俺は一旦あっちの世界に戻って、肥料とか道具とか色々と補充してくる。すぐに戻ってくるよ」


「えっ! 私も行きたい! 連れてって!!」


 以前のバレッタのように、期待に瞳を輝かせてリーゼが言う。

 その声に気づき、ジルコニアとバレッタが何事かと振り返った。


「どうしたの?」


「あ、その……明日、カズラが神の世界に戻ると言うので、連れて行って欲しいってお願いしてたんです」


「あら、それは楽しそうね」


 ジルコニアはそう言うと、一良に目を向けた。

 その瞳には「自分も行きたい」と書いてある。


「えっと……悪いんだけど、他の人を連れて行くことはできないんだよ。あの雑木林の奥には、俺以外は誰も進めないようになってるんだ」


「進めない? どういうこと?」


 意味が分からない、といった様子でリーゼが問う。


「俺以外の人が一定の地点から先に進もうとすると、一瞬で雑木林の入り口付近に転移させられるんだ。俺と手を繋いでいようが身体にしがみついていようが、何をしても通り抜けることはできない」


 一良がそう答えると、リーゼは『信じられない』とでも言いたげな、いぶかしんだ表情になった。

 ジルコニアは特に驚くでもなく、ほうほう、といった調子で話を聞いている。


「それは絶対にそうなるのですか?」


「絶対にそうなります」


「今までに試した人は?」


「バレッタさんと……バレッタさんだけですね」


 一良の答えに、皆の視線がバレッタに集まる。


「私以外にも、過去に雑木林の奥に進もうとして転移してしまった人が何人かいたと聞いたことがあります。最近は試した人は誰もいないはずです」


「そう……カズラさんの力でもどうにもならないのですか?」


「それについては私の管轄外なので、どうすることもできません。申し訳ないのですが、諦めてもらうほかないですね」


「でも、もし通れたら、私も付いて行ってもいいってことだよね?」


 ずいぶんと挑戦的なことを言うリーゼに、一良は困った表情を浮かべた。

 バレッタは少しむっとした表情になっている。


「いやそれは……」


「通れるのなら通っちゃってもいいってことなんじゃないの? ダメな人は戻されちゃうんでしょ?」


「だから、俺以外は誰も通れないんだって」


「でも、やってみないと分からないじゃない。私は通れるかもしれないよ?」


「むう……」


 思わず一良が唸っていると、ジルコニアが楽しそうに口を開いた。


「そうね、やってみないと分からないわね。夕食を食べたら行ってみましょうか」


「え、マジでやるんですか? しかも今夜って……外はかなり寒いですよ?」


 嫌そうな声を上げる一良に、ジルコニアがくすりと笑う。


「そうでもしないと、リーゼが気になって夜も眠れなさそうなので。やらせてあげてください」


「お、お母様! 勝手に話を進めておいて、私のせいにしないでください!」


「あら、あなたが言いたそうにしてたことを代弁してあげただけなんだけど」


 からかうような調子で言うジルコニアに、リーゼが頬を膨らませる。


「なら、私たちだけで行ってきます。お母様はお留守番していてください」


「うそうそ、ごめんなさい。私も気になるから連れて行って」


 そんなこんなで、急遽、『夜の雑木林突入ツアー』が開催されることになってしまったのだった。




 夕食を済ませ、4人は屋敷の外へ出た。

 月明かりに照らされたあぜ道を、散歩でもするかのようにゆっくりと進む。

 一良とリーゼが並んで前を歩き、バレッタとジルコニアがそれに続くかたちだ。

 リーゼは少し興奮している様子で、瞳は期待に満ちていた。


「あんまり期待しないほうがいいぞ。まず通れないと思うから」


「そんなの分からないじゃない。きっと通れるって」


「その自信はどこから来るんだよ……」


 はしゃいでいるリーゼとは対照的に、一良はげんなりとした様子だ。

 以前、バレッタが通り抜けに失敗した時の落胆振りを思い返し、きっと同じようにへこむのだろうという考えが頭に浮かんでいた。


「それにしても、かなり冷えるわね。ストールを持ってきて良かったわ」


 肩に掛けたストールを手で押さえながら、ジルコニアが白い息を吐く。

 11月終盤ということもあってかなり寒いのだが、今夜は特別冷え込んでいた。

 皆が厚手の服を着てはいるが、あまり長く外にいては風邪を引いてしまいそうだ。

 ちなみに、ジルコニアもリーゼも服装は鎧ではなく私服である。

 一応鎧も持ってきてはいるが、作業監督などをする予定はないので使うことはないだろう。


「戻る頃にはお風呂が沸いていると思うので、帰ったらすぐに入って温まってください。お湯の交換は時間がかかりすぎるので、そのまま続けて入らないといけないですが……」


「なら、きちんと身体を流してから入らないとね。洗い場もあるの?」


「はい、モルタルの床の上にゲタを履かせた木の板を敷いて洗い場にしています。お風呂の小屋はなるべく密閉するように造ってあるので、外よりは暖かいと思いますよ」


「それは楽しみね。どんなお風呂なのかしら」


 そんな話をしながらしばらく歩き、件の雑木林に到着した。

 真っ暗なそこはかなり不気味な雰囲気で、リーゼが「うわ……」と表情を引きつらせている。


「それじゃ、行こうか」


 一良は足元をペンライトで照らしながら、真っ暗な雑木林の奥へとずんずん進む。

 それをリーゼは慌てて追いかけると、一良の左腕に自身の腕をからめてしがみついた。


「何だ、怖いのか?」


「こ、これだけ暗ければ怖いに決まってるでしょ。ていうか、何でみんな平気な顔してるのよ……」


 後ろを歩くバレッタとジルコニアは、まったく怖がる様子もなくスタスタと付いてくる。

 バレッタは若干目付きが鋭くなっていたが。


「何でって……慣れてるから、かしら。バレッタは?」


「私も、よく夜の山で炭焼きをしたりしていたので慣れちゃいました」


「うう、何で私だけ怖い思いしてるの……何かお化けが出そうだし……」


 平然としている3人と違い、リーゼは1人で怯えた表情になっている。

 それを見て、一良がからかうような口調で口を開いた。


「あー、そういえばこの間、この雑木林の中でそれっぽいのに遭遇したな。髪の長い女の幽霊で、焚き火が一瞬で消えたと思ったら腕を掴まれて……」


「ちょ、ちょっと! 変な冗談言わないでよ!」


「冗談じゃないんだなこれが……いてっ! 腹を殴るな!」


「怖がらせようとして変な冗談言うからでしょ!」


「だから冗談じゃないんだって。そいつは俺の腕を掴むと真っ暗な林の中を……」


「あーあー! 聞こえなーい!」


 ぎゃーぎゃー騒ぐ2人を先頭に数分歩き、一行は目的地に到着した。

 以前バレッタが通り抜けに失敗してしまった地点であり、少し先にある木には一良が石で付けた目印が彫られている。


「ここですか?」


 辺りをきょろきょろと見渡しながら問うジルコニアに、一良が頷く。


「ここから先は私しか進めません。試してみましょうか」


 一良はリーゼに腕を解かせると、自分だけその印の先に進んだ。


「どうぞ」


 振り返った一良がそう言うと、ジルコニアとリーゼはお互い顔を見合わせた。

 お先にどうぞ、といった空気が双方から発せられる。


「どうした? こないのか?」


 手前にいるリーゼに、一良が声をかける。


「い、行くわよ。行けばいいんでしょ」


「何か腑に落ちない言い方だな」


 リーゼは諦めたように視線を一良に戻すと、足を動かした。

 がさがさと落ち葉を踏みしめながら、怯えた様子で少しずつ進む。

 印の付いた木にまであと数歩というところにまで近づいた時、一瞬でリーゼの姿がかき消えた。


「……えっ」


 若干引きつった表情で、ジルコニアが声を漏らす。


「ね? 言ったとおりでしょう?」


「あ、あの娘はどこへ?」


「雑木林の入り口あたりに戻っているはずです。ジルコニアさんもどうぞ」


「……」


 ジルコニアは黙って頷くと、先ほどのリーゼと同じようにゆっくりと歩を進めた。

 そしてまったく同じ地点で、ふっとその姿がかき消えた。

 一良はやれやれと息をつくと、バレッタに歩み寄る。


「さて、2人のところに戻りますか……どうかしました?」


 一良が声を掛けると、バレッタはにっこりと微笑んだ。

 その表情には、安堵の色が浮かんでいる。


「ふふ、何でもないです」


 バレッタは答えると、一良の横にそっと並ぶのだった。




 数十分後。

 バレッタは風呂小屋の薪入れ口の前にしゃがみ込み、じっと火を見つめていた。

 小屋の周囲は闇に包まれており、パチパチと薪の爆ぜる音だけが時折響いている。

 頭上にある開かれた小窓からは湯気が立ち上っており、中に掛けられているオイルランタンの明かりがぼんやりと漏れていた。


「ねえ、バレッタさん」


 雑木林で転移させられてしまう原因は何なのだろうかとぼんやり考えていると、頭上から声をかけられた。

 見上げると、両手を窓のふちにかけたリーゼが顔を覗かせていた。

 リーゼはタオルで髪を頭に巻いており、少し覗いている肩からはほかほかと湯気が立ち上っている。

 風呂に入るまでは酷く落ち込んでいるように見えたのだが、今は気を取り直したのか元気そうだ。


「あ、もしかしてぬるかったですか?」


「んーん、ちょうどいい温度だよ。大丈夫」


 リーゼはにこりと微笑み、窓枠で両腕を組んで顔を乗せた。

 砕けた口調で話しかけてくる彼女に、バレッタは少し困惑した表情を向ける。


「あのさ、どうして私を家に泊めてくれたの? あの時何も言わなければ、カズラと2人きりになれたのに」


「え、その……特に深い意味は……」


「でも、言った後で内心後悔してたでしょ? だから、何であんなこと言ったのかなって」


 その言葉に、バレッタはぎょっとした表情になった。

 それ見て、リーゼは苦笑してみせる。


「あなた、思ってることが全部顔に出るのよ。カズラのことになると特にね」


「う……そんなに分かりやすいですか?」


「うん」


「あうう……」


 頭を抱えるバレッタに、リーゼがくすくすと笑う。


「それで、どうして泊めてくれたの?」


「えっと……」


 答えを迷っている様子のバレッタを、リーゼはじっと見つめる。

 しばらくして、バレッタはおずおずと口を開いた。


「その……リーゼ様がすごく寂しそうだったから……です」


 その答えに、リーゼはきょとんとした表情になった。


「え、それだけ? それだけの理由で誘ってくれたの?」


「は、はい」


「いくらなんでもお人よしすぎるでしょ。早朝訓練の時に嫌われるの覚悟で宣戦布告したっていうのに、やりにくいったらないわよ……」


 呆れたように言うリーゼに、バレッタはぎこちなく微笑んだ。


「あはは……私、バカみたいですよね」


 バレッタはそう言うと、少しうつむいた。


「でも、寂しいのはすごく辛いですよ。我慢なんて、できないです」


「……あなた、優しいのね」


 バレッタが顔を上げると、リーゼは優しく微笑んでいた。

 いつものような大人びた笑顔ではなく、作ったところのない自然な笑顔だ。

 

「リーゼ様だって優しいですよ。私のことなんて遠ざけようと思えば簡単にできたはずなのに、そうしなかったじゃないですか」


「そんなことしたらカズラに嫌われちゃうでしょ。仕方なくよ、仕方なく」


「それなら、私がお屋敷に着いた日に、どうしてカズラさんと2人きりにさせてくれたのですか?」


「それは……」


 リーゼは少し視線を泳がせると、ため息をついてバレッタに目を向けた。


「たぶん、あなたがさっき言ってたのと同じような理由だと思う……自分でもよく分かんない」


「ふふ、やっぱり優しいですよ」


「やってることが中途半端なだけだよ。実際、あなたの部屋だってわざとカズラの部屋から離れてる4階にしたし、引越しの手伝いに行こうとしたカズラを引き止めたりしたし。性格悪すぎでしょ。ほんとやだ」


 リーゼは窓枠に載せた腕に顔をあずけ、深くため息をついた。


「え、そうだったんですか?」


「……気づいてなかったの?」


「は、はい」


 バレッタが答えると、リーゼは再び呆れたような表情になった。


「あなた、鋭いんだか鈍感なんだかよく分からないわ。すごく頭がいいのは分かるんだけど」


「あ、ありがとうございます」


「いや、褒めてるわけじゃなくて……まあいいや。それでさ」


 リーゼはそう言うと、バレッタをじっと見つめた。

 少し真面目な表情で、どことなく緊張しているように見える。


「もしよかったらでいいんだけど、これからはかしこまった態度はやめて、今みたいな感じであなたと付き合いたいなって思うの。……どうかな?」


「はい、分かりました。大丈夫です」


 笑顔で答えるバレッタに、リーゼはほっとしたように微笑んだ。


「よかった。あと、あなたもこれからは敬語使わなくていいから。様付けもしなくていいから、カズラと同じように接してね」


「……え?」


「すぐやれって言っても無理だと思うから、少しずつでいいよ。私も慣れるまで時間かかったし」


「あ、あの、リーゼ様……」


 慌ててバレッタが声をかけると、リーゼの表情があからさまに陰った。


「……やっぱり、ダメかな?」


「だ、ダメじゃないですが、私なんかがそんな……」


「気にしなくていいって。今までみたいに気を使い合いながらずっとやっていくなんて、疲れちゃうもの。これからもよろしくね」


 そう言って微笑むリーゼに、バレッタは戸惑いながらも頷いた。

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