123話:殺人兵器
朝食後。
一良はイステール一家を自室に集めると、バレッタを皆に紹介していた。
バレッタは緊張した様子で、手を膝の上で硬く握っている。
「今日から彼女にも仕事に加わってもらいます。彼女には職人の取り纏めと機具の開発指導を中心に手伝ってもらおうと思ってます」
「開発指導ですか。彼女は設計ができるのですか?」
バレッタを見やりながら問うジルコニアに、一良が頷く。
ジルコニアはアイザックからバレッタが面会を希望しているという話は聞いていたが、返事は保留中なのでまだ話したことはない。
人柄や能力についても報告を受けているのだが、面会するにしても先に一良から紹介を受けてからのほうがいいという判断からだった。
「できますよ。図面も引けますし、製材機を再設計した実績もあります。手先もかなり器用ですし、私なんかよりもよっぽど優秀です」
「えっ!? そ、そんなことないですよ! まだまだカズラさんに教えてもらわないといけないことばっかりですし……」
「いやいや、本当のことじゃないですか。仕事のほうは無理そうだったらまた考えるんで、とりあえずやってみてもらえませんか?」
「は、はい」
「……職人の取り纏めっていうと、私に付いてもらうってことでいいのかな?」
2人がそんなやりとりをしていると、リーゼが口を挟んだ。
「ああ、それがいいかな。任せて大丈夫か?」
「うん、任せて。バレッタさん、一緒に頑張りましょうね」
「はい!」
「それで、手始めといってはなんですけど、バレッタさんが考案してくれた鉱石粉砕機っていう機械を職人に作ってもらおうと思うんです」
「鉱石粉砕機……鉱石を砕く機械ですか?」
興味深げに聞いてくるナルソンに、一良が頷く。
「ええ。水車の動きに連動して、地面に設置した石の台座に槌を振り下ろす機械です。今までのように人力で鉱石を砕かなくてもよくなるので、かなり楽になると思います」
一良はそう言うと、バレッタから受け取っていた図面をテーブルに広げた。
図面には、水車から延びる軸の回転に連動して垂直運動する槌のついた機械の絵が描かれている。
軸に取り付けられた突起が回転すると槌が上方に持ち上げられ、突起が外れると重力で石の台座に落ちるというシンプルな仕組みだ。
砕いた鉱石は熊手のような道具を使って回収するので、誤って手や足が潰されるといった事故も起きにくいだろう。
「そういえば、鉱石の採掘量はどうですか? 順調に増えてますかね?」
「はい。手押しポンプのおかげで排水が上手くいくようになったので、いくらか採掘量は増えております。思ったほど劇的には増えませんでしたが……まあ、こんなものか、といったところです」
「ふむ。一応は結果良好ってことですかね?」
「そうですな。それなりに採掘量は増えているので、良好といってよいかと思います。閉鎖した鉱山の再採掘準備も行っていますので、そちらが始まればもっと採掘量は増えるかと」
手押しポンプは製作に手間がかかるので生産数はかなり少ないが、少しずつ数は揃い始めている。
完成した端から鉱山と開墾地に優先的に設置され、その性能をいかんなく発揮していた。
盗難防止のために四六時中警備をつけたり、1日の作業終了後には撤去したりしているので人件費はかさんでいるのだが。
「それと、鉱山に関連してもう1つ相談があります。青銅に代わる、新たな金属の開発についてです」
「新たな金属、ですか?」
「ええ、鉄という金属で、青銅よりも強くて安価な金属です。おそらくですが、バルベールはすでに鉄を開発しています」
一良の言葉に、ナルソンとジルコニアの顔色が変わった。
以前より耳にしていた、バルベールにおける錫の枯渇と木材生産量の増加の情報がとっさに頭に浮かんだからだ。
「鉄という金属は、銅や錫とは比べ物にならないくらい安価です。錫の枯渇や軍制改革などの情報を照らし合わせて考えると、まず間違いなく鉄の開発に成功しているのではないかと」
「その鉄という金属は、加工は容易なのですか?」
「青銅と比較すると難しいですね。鉄は青銅よりも硬くて溶かしにくいので、加工技術も高度になります」
「安価というのは、銅や錫に比べて採掘しやすいということですか?」
「そのとおりです。埋蔵量がくらべものにならないので、容易に調達できます。現に、北西の山岳地帯にも鉄の大鉱脈が存在しています」
「なんと、そのような鉱脈が領内にあったとは……バルベールにも大鉱脈があるのでしょうか?」
「それは分かりませんが、資料に載っていた木材の生産量を鑑みると、あちらにも鉱脈があると見て間違いありません」
説明を聞き、ナルソンの表情が険しくなった。
「むう……青銅の代わりに鉄を使えば、兵士の装備を全て支給することも可能ということですか。まさかそのようなものをバルベールが開発しているとは、夢にも思いませんでした」
「確定というわけではないですけどね。ですが、十中八九、鉄を開発したとみて間違いないかと思います。おそらく4年前には鉄を発見し、技術の確立は2年から1年半前かと……」
「こちらもすぐに鉄の採掘を始めましょう。鉱脈の場所は分かっているのですか?」
横から口を挟んだジルコニアに、一良が頷く。
「私は詳しい場所は知りませんが、バレッタさんが鉱脈を発見しました。なので、案内は彼女に……」
「分かりました。バレッタ、アイザックを付けるから、採掘の人員を連れて鉱脈まで案内してもらえる?」
「はい」
「急ぎで悪いんだけど、すぐに準備してもらえるかしら。午後には出発して欲しいの。あと、地図を確認したいから、ちょっと付いてきてくれる?」
「は、はい!」
立ち上がったジルコニアに続き、バレッタも慌てて席を立つ。
「えっ、そんなに急がなくても」
すでに扉へ向かっているジルコニアに一良が声をかけると、彼女は険しい表情のまま振り返った。
「いえ、すでにバルベールに先を越されているというのであれば、一刻の猶予もありません。早急に鉄の採掘を始めなければ」
「それなら私も一緒に……」
「鉱脈の場所を確認して採掘指示を出すだけですから、彼女たちだけでも大丈夫でしょう。それに、カズラさんには鉄を加工する準備をお願いできればと思うのですが」
「そう……ですね。分かりました」
「無理を言ってごめんなさい。よろしくお願いしますね」
ジルコニアはそう言うと、バレッタを伴って部屋を出て行った。
「なんだかあの娘、屋敷に来て早々忙しいわね……どうかしたの?」
難しい顔をしている一良に、リーゼが首を傾げる。
「いや、俺1人で炉を造るのかって」
「私も手伝うよ。それに、人手が足りないならいくらでも集めればいいじゃない」
「そういうことじゃなくて、バレッタさんはもう村で炉を造ったことがあるらしいんだよ。だから、造り方は彼女に聞けばいいやって思ってたんだ」
「カズラ殿は造り方を知らないのですか?」
2人の話を聞いていたナルソンが、驚いた様子で言う。
「いや、造り方は分かるんですが、実際に造ったことが1度もないので上手くできるか不安なんです。バレッタさんは村で炉を造って使ったこともあるらしいんで、彼女に聞きながら造れば問題ないと思ってたんですよ」
「えっ、あの娘、カズラに聞かないで自分で造っちゃったの?」
「うん」
「それってすごくない?」
「正直かなりすごいと思う」
「……」
「どうかしましたか?」
難しい顔で考え込んでいるナルソンに気づき、一良が声をかける。
「いえ、何でもありません。彼女が実際に炉を造ったことがあるというのなら、彼女が帰って来るまでに材料をそろえておくというのはどうでしょうか? 数日あれば戻ってくるでしょうし、製作に取り掛かるのはそれからでも遅くはないかと」
「そうですね、そうしましょうか。製作には耐熱性のある特殊なレンガを使うんで、そちらの準備を先にしておきましょう」
こうして、バレッタが留守の間、一良たちは製鉄の準備を進めておくことになった。
一方、執務室に移動したバレッタとジルコニアは、2人並んで山岳地帯の地図を眺めていた。
バレッタはグリセア村から延びる川を指でなぞり、鉄鉱脈のある場所まで指を這わせる。
「この辺り一帯の岩肌すべてが鉄鉱脈で、川沿いには砕けた鉄鉱石がごろごろしています。岩肌を削って採掘を行わなくても、落ちているものを集めればかなりの量になるはずです」
「ここ一帯がすべて……相当な広さね。よくこんなところ見つけたわね」
「村で狩人をしている方に鉱石の見本を見せて、見覚えがある場所を案内してもらったんです。私1人ではとても見つけられなかったと思います」
「ふーん……村からこの場所まではかなりの距離があるわね。徒歩で行ったの?」
「えっと……はい」
一瞬答えるのをためらった様子のバレッタに気づき、ジルコニアがふっと微笑む。
「あなたたちに祝福の力が備わっていることは聞いているから、隠さなくても大丈夫よ。走って山まで行ったんでしょう?」
「は、はい」
「時間はどれくらいかかったの?」
「……半日くらいだったと思います」
実際は1時間半ほどで鉱脈に着いているのだが、バレッタはかなり誤魔化して答えた。
ジルコニアは驚いたように、少し眉を上げる。
「すごいわね。まるでラタに乗って行ったみたい。私もカズラさんからエイヨウドリンクっていう薬をもらって飲んだことがあるけど、あの疲れ知らずの状態がずっと続く感じかしら?」
「はい、そんな感じです」
「それならずっと走りっぱなしでも大丈夫ね。納得した」
ジルコニアは軽い調子で笑って返す。
特に突っ込んで質問をする様子もなく、バレッタは内心ほっとした。
「でも、屋敷に来て早々に遠出させちゃってごめんなさいね。帰って来れそうだったら、案内が終わったら先に戻ってきちゃってもいいから」
「はい、ありがとうございます。それよりその……ジルコニア様にお話ししたいことがあって……」
バレッタがそう言うと、ジルコニアはきょとんとした表情を見せた。
「話したいこと? ……ああ、アイザックが言ってた面会の話?」
「はい。もしよろしければ、少し時間をいただきたいのですが」
「ええ、構わないわよ。場所はどこにしましょうか」
「では、私の部屋に……」
バレッタは地図を棚に戻すと、ジルコニアを連れて部屋を出た。
バレッタは自室に入ると、部屋の隅に置いておいた木箱から数枚の紙束を取り出した。
備え付けのテーブルにそれを広げ、ジルコニアとともに覗き込む。
「これは……弓の設計図かしら? 何だか変わった形をしているけど」
「はい。クロスボウという名前の弓です」
広げられた紙は、クロスボウと呼ばれる機械弓の設計図だった。
図面のあちこちにメモ書きがされており、射程や特性について記されている。
ジルコニアは図面をしげしげと見つめると、それをめくって2枚目を見た。
そこには、3点のパーツに分解されたクロスボウが描かれていた。
「組み立てて使うの?」
「そうです。各部位ごとに製作して、実際に使う時は組み立てて使います。使用していて不具合が出た際は、部品の交換で対応できます」
バレッタの設計したクロスボウは、生産性を重視した組み立て式のものだった。
部位は弓部分、胴部分、持ち手部分の3つに区分けされている。
それらの接合部分は鋲と鉤型フックで固定し、金属の棒と金槌があれば容易に分解してパーツの交換やメンテナンスをすることができる。
弓部分は威力と射程を向上させるために大きく歪曲したような形状にし、引きしろを大幅に増大させていた。
紀元前5世紀ごろの中国で使われていた形状のものと、ほぼ同じ構造である。
「どういう武器か説明してくれる? あと、普通の弓との違いは?」
「板のしなりと反発力を動力に用いた武器で、ボルトと呼ばれる太い矢を台座に固定して、弓と同じく弦で矢を発射する武器です。訓練が容易かつ高威力で、誰でもすぐに扱うことができます。ただ、弓に比べると射撃準備に時間がかかるので、連射がききません」
「ふーん……現物はある?」
「あります。今お見せします」
バレッタはテーブルを離れると、部屋の壁際で布を被っている物体に歩み寄り、布をはいだ。
出てきたものは、組み上がった状態のクロスボウと矢筒だ。
バレッタはそれらを手にして戻ってくると、テーブルに置いた。
「これがクロスボウです。少し重いですが、とても強力な武器です」
ジルコニアはクロスボウを両手で持つと、しげしげと眺めた。
「ずいぶんと大きいわね……使い方は?」
「この輪っかに足をかけてから弦をこの止め具にまで引っ張りあげて、矢を乗せます。その後、この引き金を引くと矢が発射されます。持ち方はこうで、狙い方は……」
バレッタはクロスボウを持つジルコニアの手に自らの手を添え、使い方を指導する。
クロスボウには弦を引っ掛ける止め具を流用したアイアンサイト(凹型の照準器)がついており、だいたいの狙いをつけることができるようになっていた。
ジルコニアはバレッタに使い方を聞きながら、クロスボウの先に付いている金属の輪に足をかけた。
弦を引きながら少し顔をしかめたが、そのまま止め具にまで弦を引っ張り上げる。
「矢を番えるのにかなり時間がかかるわね。これじゃあ数射もしないうちに、敵の弓兵や投石兵にやられてしまうわ」
「そこは用兵でカバーできます。兵士を3人1組にして、代わりばんこに射撃を行うんです」
バレッタはそう言いながら、ボールペンを取り出すと図面の端に絵を描き始めた。
丸を3つ縦に並べて描き、一番後ろの丸から矢印を引っ張って先頭の丸の手前に向ける。
「先頭の者が射撃を行ったら、最後尾の者が一番前に出て射撃を行います。その間に、最初に撃った者は矢を番えるんです」
「代わりばんこに撃って隙をなくすってこと?」
「そうです。間断なく射撃を続けながら、少しずつ部隊を前進させる戦法です。クロスボウの矢は非常に強力なので、ちょっとやそっとの鎧なら貫通します」
バレッタは矢筒から鉄製の矢を取り出すと、ジルコニアに手渡した。
矢は鋳造したもので、矢じりから柄まで全てが鉄製だ。
バレッタは再び部屋の隅の木箱に向かうと、中から分厚い板を取り出して壁に立てかけた。
「なるほどね。でも、部品が多くて作るのが大変そうね」
「そんなことはありません。木製の部品は部位ごとに区切られていますから製作は容易ですし、その他の部品は溶かした鉄を型に流し込めば作ることができるように設計してあります。武器職人でなくても製造と修理ができるうえに、大量生産が可能です」
その言葉に、ジルコニアはバレッタに目を向けた。
「歩兵が、殺人兵器になります」
バレッタはそう言うと、ジルコニアからクロスボウを受け取って矢を番えた。
今しがた立てかけた板に狙いを定め、人差し指で引き金を絞る。
鋭い音を響かせて鉄の矢が射出され、板に深々と突き刺さった。
ジルコニアは矢の刺さった板を一瞥すると、バレッタに視線を戻した。
「話っていうのは、こういう武器の作り方を私たちに教えるってこと?」
「はい。今お見せしたクロスボウは個人用の携行武器ですが、複数人で使用する大型の攻撃兵器もいくつか設計してあります。4年以内に再開されるかもしれないバルベールとの戦争には、こういった強力な武器が大量に必要になるはずです」
「……4年以内に、か」
ひとりごちるようにつぶやくジルコニアに、バレッタは頷く。
「バルベールがクレイラッツに接触しているかもしれないということと、おそらくクレイラッツは裏切るだろうという話をカズラさんから聞きました。もしそうなるのなら、今から大急ぎで準備しておかなければ取り返しのつかないことになります」
「話は分かったわ。それで、この武器の作り方は、カズラさんに教えてもらったの?」
「はい。直接ではありませんが」
「これを私たちに教えること、カズラさんは承知してる?」
「……いえ、まだ話してません」
「カズラさんに内緒で、ってことね。理由を教えてくれる?」
「……」
バレッタは少しの間うつむいて黙っていたが、顔を上げると口を開いた。
「これらの図面に描かれている数々の武器は、まだこの世界にはない強力なものばかりです。実際に使われることになったら、きっとたくさんの命を奪うことになります。だから……」
「彼の代わりにあなたが私たちに技術を勝手に教えて、彼が人殺しの罪悪感に苛まれないように身代わりになる?」
「……」
こくりと頷くバレッタに、ジルコニアはやれやれと首を振った。
バレッタがそのようなことを考えているだろうことは、先ほど一良の部屋で彼女が一良に向けていた眼差しと、この部屋で図面を広げた時の表情から何となく想像がついていた。
ここまで高い技術力を持っているとは、さすがに想定外だったが。
「悪いけど、その話に乗ることはできないわ」
「え?」
ジルコニアは板に歩み寄ると、矢を両手で握り板に足をかけた。
矢をぐりぐりとねじり、無理矢理引き抜く。
「本格的にこれを生産することになったら、遅かれ早かれカズラさんの耳に入るわ。そうなった時、彼になんて説明するというの? あなたに作り方を教えてもらったから、これ幸いとカズラさんに黙ってたくさん作ってましたって説明しろと?」
「……カズラさんが気づかないように、どこか別の場所で生産すれば大丈夫です。資材と人員を確保していただければ、グリセア村でも生産できます」
「あなたの言うとおり彼に隠れて武器を生産したとして、それからどうするの? 戦争が再開されたら、いきなり彼の目の前で武器を使い始めるの? バルベールを撃退できたとしても、今もあれだけ力を尽くしてくれている彼を私たちは裏切ることになってしまうのよ?」
「……」
「確かに彼の殺しに対する罪悪感は薄めることができるかもしれないけど、それ以上に彼を侮辱して傷付けることになると思うわ。とても賛成できない」
「……それでも、私は」
再びうつむくバレッタに、ジルコニアはゆっくりと歩み寄った。
その手をとり、持っていた矢を握らせて両手で優しく包む。
バレッタは戸惑った表情で、ジルコニアを見上げた。
「少し、冷静になりなさい」
その言葉に、バレッタはジルコニアをじっと見つめた。
ジルコニアも、バレッタの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「彼はとても優しいけど、あなたが考えているようなヤワな人間じゃない。何が大切なのか、きちんと優先順位を考えられる人よ。私は、そう思ってる」
「……」
感情の読み取れない瞳で見つめてくるバレッタをジルコニアは見返しつつ、握っている手に少し力を込めた。
「別にあなたを邪険にしてるわけじゃないの。物事には優先順位があるのよ。それは分かるわね?」
「……はい」
「なら、勝手に動くような真似はやめなさい。私もナルソンも、もちろんカズラさんだって、相談があればちゃんと聞くから」
「はい」
「……本当に分かった?」
いぶかしげに問うジルコニアに、バレッタはしっかりと頷いた。
「はい、分かりました。勝手な真似をして、申し訳ございませんでした」
「私に謝られても困るんだけど……まあ、分かってくれたならそれでいいの」
ジルコニアは微笑むと、バレッタの手を離した。
「あなたがすごく優秀だってことは図面を見てよく分かったし、他にもいろいろできるってアイザックから聞いているわ。期待してるから、頑張りなさい」
「はい」
「それと、何か思いついたらどんどん提案してちょうだい。遠慮しなくていいから」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、私は戻るわね。あなたは出立の準備をしておきなさい」
「分かりました」
静かになってしまったバレッタにジルコニアは苦笑すると、一度ぽんと頭を撫でてから部屋を出て行った。
バレッタはそれを見送り、矢を握っている自身の手に目を落とす。
「……私は、冷静です」
自分に言い聞かせるように、そうつぶやいた。
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