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宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する  作者: すずの木くろ


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112話:信頼と実績

「こんなボロボロの建物に今までよく住んでたな……基礎の柱が腐って浮いてるぞ」


 目の前で壊されていく建物を眺めながら、一良は唖然としていた。

 ここは街の城門に近い集合住宅地で、今は建物が取り壊されている最中だ。

 半分腐りかかったような古い柱や壁に縄が掛けられ、数頭のラタに縄を引かせて無理矢理引き倒している。

 これからここを更地にし、製材所を建設するのだ。


「カズラ様」


 建物の倒壊についても対策をしなくちゃな、と一良が考えていると、背後から声をかけられた。


「おや、アロンドさん。お久しぶりです」


 一良が振り返って挨拶をすると、アロンドは爽やかな笑顔を見せた。


「ご無沙汰しております。工事は順調でしょうか?」


「あちこち見て回っていますが、今のところは順調ですね。資材の調達は問題ありませんか?」


「はい、おおむね予定通りに仕入れることができています。先ほどリーゼ様に一部をお渡ししてきたところです」


 アロンドはグレゴルン領との取引を担当する文官だが、今は工事資材の手配を担当してもらっている。

 何かと融通が利き、細かいところにも気が回るので、今回の作業には最適だろうとのナルソンの判断だった。


「予定よりも1割近く安く調達することができましたので、余った資金は返納いたします。後ほど明細をお渡しいたしますので」


「えっ、ずいぶん安く上がりましたね。どうやったんですか?」


「日頃私が贔屓にしている取引先に無理を言って、安く上げてもらいました。雨季の後の河川工事で使う資材も安くしてもらえるよう、現在交渉中です」


「雨季の後もですか……かなりの量の資材が必要になりますが、安くしてもらえるものですかね?」


「あちらも生活がかかっているのであまり無理は言えませんが、発注する量が膨大なので、割引はしてくれると思います。上手いこと話はつけておくので、ご安心下さい」


 かなりの大仕事になるはずだが、アロンドは何でもないかのようにそう答えた。

 いかにも取引に慣れている、といった様子だ。


「他にも資材が必要になりそうな案件があれば、ついでに私が用意いたしますが、何かありますでしょうか?」


 資材が必要になる仕事といえば、今目の前で壊されているような古い住宅の倒壊対策だ。

 見たところ建物はすでに住めるレベルの代物ではないので、新たに立て直すほかないだろう。


「今壊しているようなボロボロの建物をなんとかしないといけなくて、新たに住宅を作るのに大量の資材が必要になりますね。その時はぜひ協力していだけると助かります」


 いずれ補助金でも出して建替えを促進するか、土地の引渡しを条件に郊外に住宅を建ててそちらに移住させる、といった方法を取ることになるだろう。

 資材管理をアロンドが一手に引き受けてくれるのであれば、これほど楽なことはない。


「住宅ですか。ここもこれから建て直すところですか?」


「いえ、ここには製材所を建設します。住宅建設に手を出すのはまだ先ですね」


「ふむ……しかしそうなると、建物を建てる土地が必要になりますね」


「そうなんですよ。城壁の内側って、まだ土地に余裕はありますかね?」


「外周部分は若干空いていますが、そこまで余裕がある状況ではないですね。他領からの移住者もいくらかはイステリアに住まわせているので、すぐにいっぱいになってしまうと思います」


「そしたら、人口の過密化を防ぐために城壁の外に街を広げることも考えたほうがよさそうですね。あぶなそうな建物に住んでいる人たちには、土地の引渡しを条件にそちらに新しく住宅を提供して住んでもらう、というのはどうでしょう?」


 街の外周部分には、他領からの移住者を受け入れるために急遽作られた集合住宅地が多い。

 そうした住宅は安い金額で突貫工事で作られたため、数年も経つとボロボロである。

 基礎に使われている木の柱が、敷石も置かずに地面に直接埋められて腐ってしまったような手抜き工事物件も多数あるようだ。


「そうですね……街なかで仕事を持っている者だと職場との距離が問題になりますが、いい考えかと思います。ですが、城壁の外に街を広げるとなると、城壁の一部を門に改良するか壊す必要が出てくるので金がかかります。なので、近場にある既存の村や街に資金を提供して対応させるのがよいかと。水車を使って農地を拡張すれば仕事も与えられますので」


「なるほど、そのほうがよさそうですね。そちらの資材の融通も、アロンドさんに任せて大丈夫ですか? といっても、ナルソンさんに相談してからになりますけど」


 一良の申し出に、アロンドはにっこりと微笑んだ。


「お任せください。もしよろしければ、移住先の建築管理と移住者の職についても任せていただきたく思います。必ずや成果を上げてみせますので」


「おお、それは助かりますね。その時は是非お願いします」


 なんとも頼もしい申し出に、一良は二つ返事で了承した。

 作業指揮の人手不足で悲鳴を上げているこの状況では、そのような申し出は本当にありがたい。

 それからもしばらくの間、2人は今後の計画について話し合っていた。




 その頃、街なかの訓練施設の広場で、アイザックは鎧姿の1人の女と話し合っていた。

 彼女はアイザックの従姉妹であるシルベストリアだ。

 ショートカットの美しい金髪と、活発そうな顔立ちが印象的な女性である。

 彼女はにこにこと、人懐っこそうな笑顔をアイザックに向けていた。


「重ねて言いますが、これはとても重要な任務です。何があろうとも規律を徹底し、外部から村に接触しようとする者は必ず先にイステリアに向かわせてください」


「かしこまりましたわ。アイザック様」


 朗らかに答えるシルベストリアに、アイザックは何ともやりにくいといった表情を浮かべた。

 元々シルベストリアはアイザックよりも立場が上であり、アイザックが戦地で騎兵隊に所属していた頃は直属の上官だったのだ。

 軍での立場はまだ彼女の方が上なのだが、現状として指示を出すのはアイザックの役目となっている。

 それに、先ほどから彼女の様子が明らかにおかしい。

 今まで、彼女はアイザックに敬語を使ったり、アイザックのことを様付けで呼んだりしたことは1度もないのだ。

 終始とても楽しそうな笑顔を浮かべているのが非常に怖い。


「駐屯中は村の警護と、外部からの接触者の対応をすればいいのですね。他は何もしなくていいのですね」


「はい、村のかたに何か相談を受けたらその時は……あの、もしかして怒ってます?」


「そんなことありませんわ。アイザック様」


 にこにこと微笑んだまま言うシルベストリアに、アイザックは冷や汗をかいた。

 話を持ちかけた当初、彼女はアイザックの頼みならばと二つ返事で任務を引き受けてくれた。

 ただし、その時は任務の期限については何の話もしていなかったのだ。


「ただ、任務期間が無期限だなんて聞いておりませんでしたから。まさかアイザック様にこんな仕打ちをされるとは夢にも思っていなかったので、少し驚いてしまって。今後は、夜の1人歩きには気をつけたほうがよいかと存じます」


「え! いや、そんなつもりでお願いしたわけでは……」


「ふふ、別にいいのですよ。それより、アイザック様にはもう何年も剣の稽古をつけていただいておりませんでしたね。久々に手合わせをお願いしたいのですが」


「いや、だから、本当にこれは重要な任務なんですよ! あと、お願いですから敬語はやめてください!」


 腰の剣に手をかけながらどす黒いオーラを発し始めたシルベストリアに、アイザックは慌てて弁解した。

 ちなみに、彼女はアイザックよりも圧倒的に強い。

 真剣で手合わせなどした日には、確実になます切りにされてしまうだろう。


「なら、ちゃんと説明して。国の未来を左右する重要な任務だとあなたは言っていたけど、寒村の警護にそんな価値があると本気で思っているの?」


 一転して睨みつけるような表情を向けてきたシルベストリアに、アイザックはこくこくと頷いた。


「重要どころの話ではありません。あの村のおかげで、今こうして領内は急速に復興し始めているのです」


「だから、その理由をさっさと話しなさい。要点以外のことを言ったら殴り倒すよ」


「……あの村には、カズラ様の大切な人たちが住んでいるのです。その方たちを守っていただきたいのです」


 真剣な表情で話すアイザックの顔を、シルベストリアはじっと見つめた。


「カズラ様って、領内の復興の手助けをしてくれている人のこと?」


 彼女の問いに、アイザックは頷く。


「確かどこかの大貴族だって聞いたことがあるんだけど……そう。本当はただの平民だったの」


「いえ、違います。カズラ様はグレイシオール様です」


「……グレイシオール様って、慈悲と豊穣の神様の?」


「はい」


 アイザックが答えると、彼女は再びアイザックの目をじっと見つめた。

 冗談を言っているのかどうか、目を見て判断しようとしているのだ。


「……え、それ本当?」


「本当です」


「そうなの……ふうん、そうなんだ」


「……あの、自分で言っておいてなんですが、疑わないのですか?」


 何やら感心した様子で頷いている彼女に、アイザックは少し拍子抜けしたように問う。


「だって、そうなんでしょ? あなたの言うことなら信じるよ。あなた嘘つかないし」


 彼女はそう言うと、今度は少し心配そうな表情になった。


「でも、そのことって私に話して大丈夫だったの? 機密中の機密なんじゃない?」


「ちゃんと話さなかったら、納得しなかったでしょう?」


「……それもそうだね。私の悪い癖だなー。反省する。ごめんね」


 先ほどとは打って変わってしおらしくなってしまった彼女に、アイザックは戸惑いながらも頷いた。


「他に質問はありますか?」


「聞いてみたいことは山ほどあるけど、聞かないでおくよ。そのほうがアイザックも都合がいいでしょ?」


「はあ……あの、先ほどの話、本当に信じてます?」


 アイザックが問うと、シルベストリアはきょとんとした表情になった。


「えっ、何が?」


「カズラ様がグレイシオール様だということをです」


「うん、信じてるよ。何でそんなこと聞くの?」


「いえ、こんな荒唐無稽な話を、よく簡単に信じてくれたなと思いまして……」


 困惑気味に言うアイザックに、シルベストリアはにっこりと微笑んだ。


「他の人が言ったなら信じないけどさ、あなたの言うことなら何でも信じるよ。あなたは信頼できるから」


「ええと……ありがとうございます」


「別にお礼を言われるようなことじゃないと思うけど……そっかー、グレイシオール様かー。今度お話してみたいなあ」


 彼女はひとしきり頷くと、アイザックに向き直って姿勢を正した。


「任務の目的、了解いたしました。早速現地に向かいます」


「よろしくお願いします。私も後から向かうので、村の人たちには挨拶だけ済ませておいて下さい」

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