センナと悪魔
灰は軽く、やわらかそうに風に流される。
倒れた場所に積もった量も、残り僅かとなった。
一人になったウィルモルツは、その場に立ったまま考え始める。
「俺は生き返った」のかと──。
方法は「蘇生」という形ではないものの、自分の今の立場を考えれば、ほぼそれと同じ解釈でいいだろうと感じた。
ただ、深くは追求しない。
「生と死」──どうであろうが結構どうでもよかったからだ。
ウィルモルツは歩き出し、娘が居るであろう、こちらからでは見えなかった丸い低木の裏側を覗き込む。
赤いドレスを着たショートヘアの赤髪の少女がいる。
周りから見えなくなるように、頑張って小さく縮こまろうと座っている。
連なった低木の遠くまで確認すると、他に該当者はいない。
なら、こいつが女の言っていた対象者だろう。
「──おい」
声をかけると、ビクッと一瞬身体を動かす。
だが、縮こまったままこちらに顔を向けない。
その反応を見て少し考える。
聞いたことのない声だろうし、こうなるのは正しい反応だ。
なるべく優しく語りかけようと意識を持った。
「あー……俺はお前の母さん──母親に頼まれた者だ。お前が、あー……なんだったか……? セ…セン……」
名前が出てこず困っていると、座り込んでいた少女は身体をこちらに振り向かせ、怯える様子もなく元気に答える。
「──センナっ!!」
「──そうっ、センナだ!!」
思い出してスッキリしたウィルモルツは、すごく嬉しそうにしセンナを見る。
センナは目をまん丸にしている。
第一印象は目がでかいだった。
母親は力強さが印象的だったが、いずれはそうなっていくのかと、大きな目をみて思う。
「あー、なあセンナ──お前は今、どんな状況か分かっているか?」
引き続き優しさを意識する。
センナは考えてる仕草をみせると、頭をブンブンと横に振った。
ウィルモルツはそれを見て、言葉を選ぶようにして告げる。
「いいかセンナ。俺は、お前の母さんに頼まれたもんだ。お前の母さんは……ちょっと用事で、遠くへ行くことになった。だから俺は、一応お前の味方になるんだが……分かるか?」
センナはまた考える仕草をみせると、頭をブンブンと縦に振った。
それを見てセンナを立たせようと思ったが、散乱した中庭を思い出して躊躇した。
「あー……ちょっとそのまま座って待ってろ。いいか──絶対に立つなよ! 隠れたままでいるんだ」
言われたセンナは、座ったまま身体の向きを戻すと、頑張ってなるべく小さくなるように丸まった。
ウィルモルツはセンナの行動があまりに純粋に映り、顔が少しにやついた。
中庭の中央付近に戻ったウィルモルツは、そこでミレシュに言われていた「剣」を拾う。
女性が扱うにしては重い剣だなと感じ、眉毛を少し上へ動かす。
あらためて辺りを見渡すと、色々と散乱している。
ミレシュが着ていた服、プレートや右手用の小手、半分になった無残な死体が落ちている。
それらについては、特に指示があったわけではない。
余計な事はしないでおこうと考え、センナのところへ戻ることにした。
「──おいッ、はやく瓦礫をどけるんだッ!! ミレシュ様ッ、おられますかっ?!」
その時、城の内側と思われるほうから、誰かが叫ぶ声がした。
言葉からして誰かを探しに来ていることが分かる。
瓦礫があって、ここへ来られないようだ。
(ミレシュ──さっきの女のことか?)
散乱したこの状況と自身の立場を考えると、見つかってしまったとき面倒な事になりそうだ。
急いでセンナのところへ戻り、この場所から離れるのが得策だろう。
周囲を見渡しながら走ると、自分が今、城の外側寄りにいることを把握できた。
「──おいセンナっ、ここから移動するぞ! 敵が来たかもしれん!」
ウィルモルツは軽い嘘をつく。
ここに向かっている者は、おそらく敵ではない立場の者だろう。
たが、センナを動かすにはこの言葉が一番手っ取り早いと考え言った。
センナはすぐに立ってくれた。
ウィルモルツは散乱した現場が見えないように、立ち位置を意識する。
軽い身体を抱きかかえると、声がしたほうとは逆に走って移動し始めた。
なるべく外側を走り、逃れる方法を探す。
天井を支える円柱が並ぶ通りを駆け抜けるが、どこも頑丈そうな城壁がそれを阻んでいる。
「くそっ……どこも、この場所からまるで出れないようになってやがる……」
通路には瓦礫が積みあがっていて通れない。
なぜ、ところどころ瓦礫が積み上がっているのかは分からないが、どこも行き来できないよう、意図的に潰されているのは分かった。
それでも諦めず探し回っていると、崩れた城壁の隙間から、青々とした森の光景が覗いた。
この城壁は一番外側の壁──「ここだ!!」
ウィルモルツは思い、抱きかかえていたセンナをおろす。
細かに積み重なった瓦礫を急いで移動させ、なんとかして人一人通れる隙間をつくりだす。
「──よしッ、なんとか出られそうになったぞセンナ、行くぞっ!」
そう言い、行動に移そうとした時、ふと思い留まりセンナのほうを向いて言った。
「……なあセンナ──みんなのところへ、戻りたいとは思わないのか……?」
返答を待つ間、少し言葉足らずだったかと思ったが、そのままセンナの反応を待った。
センナは視線を斜め上へ向け、考える素振りをみせる。
それをやめると、ブンブンと頭を横に振ってウィルモルツを見た。
ウィルモルツはその対応に、少し口角を上げ鼻で笑う。
センナのリアクションがいちいち純粋過ぎて、ほほえましいのだ。
先にウィルモルツから瓦礫の隙間を這うようにして抜け、森へ出る。
少し高さがあったため、地面に転がるように落ちてしまった。
続くようにしてセンナも這い出てくる。
ウィルモルツは、上半身が隙間からはみ出てきたセンナを抱っこして、地面へ置いた。
センナは無言のままこっちを見ていた。
特に何を言うでもなく、またセンナを抱きかかえる。
城内から見えた通り、周囲には多くの茂みや木が生えていて、おそらく森と思われる。
地面の坂を気にしながら、城壁から離れるよう、なるべく高い場所を目指すようにして駆けていった。




