黒衣の者
一旦別れたミレシュは、愛用している武器が置いてある武具庫へと走った。
道中では何が起きるでもなく無事に着き、目的の剣を手にする。
すぐ横にある防具のプレートを見て悩んだが、着ける時間を考慮しつつも、念のため装備しておくことにした。
装備を整え、合流地点へ向かおうとしたその時、入ってきた扉が開いた。
赤いドレスの娘が勢いよく飛び込んできて、出ようとしたミレシュの足にしがみついた。
「──ッ!! お前、どうしてここにおる?!」
ミレシュは少し考えた。
(娘が私のあとを追いかけたのを、別行動をしている王たちは見ていたはずだ。だが、それを止めなかった。私の近くに居たほうが安全だと考えたのだろうか)
これは傲慢な考えでもあるが、自分が持つ力を考えたとき、そう思うのが一番しっくりきていた。
「さあ、みんなのところへ行くぞっ!」
ミレシュは娘に声をかけながら、笑顔で抱きかかえた。
武具庫を出て、皆がいるであろう合流地点へと走りだす。
このまま廊下を走るより、中庭を斜めに突っ切ったほうが早い。
最短距離を選んで中庭を駆け抜けていた、その時だった。
……ミレシュは、何か妙な気配を察知し、走るのをやめて娘を下ろして言う。
「あそこに隠れているんだ」
娘はミレシュの指示に従い、庭師が剪定したであろう、連なった丸い低木の裏に身を潜めた。
ミレシュが動かずにその場で待っていると、前方から黒い絹のコートを着た者が歩いて現れた。
コートにはフードが付いており、それを深く被って、影で顔がはっきりと見えない。
先ほど感じた妙な気配がこの者なのかは、正直わからなかった。
「──貴様、何者だッ!!」
ミレシュは威圧するように言い放つ。
黒衣の者は立ち止まってからは動かず、無言のままミレシュを真っ直ぐに見ている。
すると次の瞬間、ドオオォォンと大きな音が響き渡った。
黒衣の者が立つ背後の通路で、突然爆発が起きたのだ。
それを皮切りに、奥で同じような爆発音が立て続けに鳴り響く。
音は、平和協定のときに聞いたものと酷似していた。
崩れた瓦礫が通路を塞ぐように積み上がり、炎と黒煙が激しく吹き上がり始める。
さらに、ミレシュの後方でも同じように何ヵ所かで爆発が発生した。
ミレシュは黒衣の者に悟られぬよう、娘が隠れた場所を横目で確認する。
その付近は心配はなさそうだ。
顔の向きを戻しながらミレシュが述べる。
「……私を逃がさぬというより、ここへ誰も来させぬ気か。よく城の構造を理解している。貴様、単独ではないな」
炎や黒煙が上がる位置を考えると、狙いはここへ至る通路を、瓦礫で塞ぐことにあるようだった。
爆発が起きたとき黒衣の者は微動だにせず、ミレシュは侵入者が複数人いると警戒を強め、剣を構えた。
そこへ、同じ黒いコートを着た者が、黒衣の者の背後から歩いてきた。
その者はフードを被っておらず、顔が露わになっている。
茶髪の男で、前髪が目にかかっている。
うつむくように歩く姿はどこかぎこちなく、正気ではない雰囲気を漂わせていた。
ミレシュは男を見て、眉間にしわを寄せる。
新たに来た男は顔をあげると、歩きながらミレシュに向かって短剣を二本放った。
ミレシュは剣を片手で振り、飛んできた短剣を一つは上空へ、もう一つは地面へと、簡単に捌いてみせる。
男はそれを見て腹が立ったようだ。
怒りに任せるように奇声をあげると、右手に炎の魔力を宿したような球体を創り出した。
ミレシュはその魔術を見て、さっきの爆発はこの者の仕業なのかと疑う。
男は再度激しく声をあげると、創り出した球体を直接ぶつけてやろうというつもりで突進してきた。
ミレシュは両手で剣を持ち、下段構えをして腰をおとした。
右足を少し後ろにさげ、向かってくる突進を待つ。
男の攻撃に合わせ、両手で剣を斬り上げる。
前方に突き出した手の球体と剣が激しく衝突した。
接触した球体は爆発を起こす。
轟音とともに黒煙が広がり、二人の姿が完全に包まれる。
煙の中から、縦に斬られ半分になった男の身体が飛び出る。
重力に逆らうことなく、そのまま地面へとなだれ倒れた。
ミレシュが左手で煙を払い視界を良好にすると、もう一人の黒衣の者もミレシュに迫ってきていた。
ミレシュは右手でしっかりと剣を握り、迎え撃つ構え。
その者を凝視し、男の口が動くのを確認した、その瞬間だった。
──なッ……なにッ……!?
ミレシュの右腕が肩あたりから斬られ、剣と共に地面へ転がる。
目の前には、黒衣の者が斬り終えた姿が映し出されていて、それで斬ったであろう剣には血が付着していた。
何が起きたか理解が追い付かない……。
黒衣の者は一旦距離をとり、何をするでもなく、しばらく立ってミレシュを眺める。
両者は黙ったまま、風で髪やコートが揺れる。
何かを確認し終えたのだろうか、黒衣の者は無言で歩いて去っていった。




