危険な二人
「よしっ! これで契約は完了したぞっ」
「結構あっさりしてるんだな」
「まぁの。というかお主、従者じゃから知っておるじゃろ。ではセンナよ──ちゃんと契約できておるか試してみるか?」
シュトレンツィムは気にする事なく流したようだったが、ウィルモルツは契約の仕方を知らなかったので、内心焦った。
視線は向けられていなかったが、さも知っているをつらぬく。
センナは頷いて言葉にする。
「憑依っ!」
ウィルモルツとシュトレンツィムが、センナの中に吸い込まれる。
「では、そこに鏡があるから確認してみるといい」
頭の中から言われ、センナは「なぜ鏡?」と思ったが、映った自分を見た。
鏡に映った自分の髪が、左半分はやや黒っぽく、右半分が少しベージュが混じったように薄くなっていた。
「──なっ、なにこれ?!」
「なんか髪の色が、俺たちを混ぜたような色になってるな」
ウィルモルツも驚いた感じで頭から言う。
「何を驚いておるのじゃ、お主ら? まさか、憑依した自分たちの姿を見たことなかったのか? 色々と変な奴らじゃな。まあ説明すると、従者がこうして憑依すると、このように変化が起きるのじゃ。特に髪や目は、理由はわからぬが反映されやすいようじゃの」
言われたように髪色が変化していた。
これまで自分たちが気づいていなかっただけで、憑依する度に変わっていたようだ。
他の箇所も調べてみたが、変化はなかった。
「ではセンナよ、解除してもらってよいか?」
センナが憑依を解除し、ウィルモルツとシュトレンツィムが背後から出てくる。
センナとウィルモルツは顔を見合わせ、センナが自分の髪を触り、お互い同じ感情を抱いたことを共有し合う。
「センナよ、従者との契約をやめる場合は、こう言うのじゃ。『主として従者シュトレンツィムとの契約を破棄する』──試してみるか?」
言われたセンナは断った。
その方法をちゃんと教えてくれたし、直感でシュトレンツィムが悪い人間とは思わなかったからだ。
「さて、では次じゃが……、外におる影が二つになっておるが、どうする?」
二人が窓から外を覗くと、影が二つに増えていた。
「本当だ、増えてるな。といってもアレ、噴水の前にいる奴の監視魔術なんだろ。問題がないか、ただチェックしてるんじゃないのか?」
「たしかにあやつは、あの場所で宿の管理をしながら町を監視しておるようじゃが、あの影があやつの魔術と決まったわけではないからのう。管理、監視をしとるという情報から、儂が勝手にした推測に過ぎぬ」
「──あっ?! じゃあ、まったく別の奴が俺たちを監視してる可能性もあるってことか?!」
「そういうことじゃな。あの影が他の家を覗いとるのも見たことはあるが、だからといって、それがあやつが使った魔術とは限らんからの」
シュトレンツィムは優雅に何かを飲む。
気品ある香りが漂い、センナが嗅ぐ。
「センナ、どうする?」
目を閉じ匂いを堪能していたセンナが、驚くように目を開ける。
「え? えーっと、しゅ…すとれんてぃむは……──」
センナは、シュトレンツィムの呼び方を言いにくそうにしていた。
ウィルモルツは「だろうな」と思いながらセンナを見ていた。
「センナ──思っていることはちゃんと伝えておけ」
言われたセンナは、名前が長いと思っていることを素直に伝えた。
「『シエラ・シュトレンツィム』じゃ」
「じゃあ私、『シエラ』って呼んでいいかな?」
「別に好きに呼んでもらって構わぬぞ」
そうは言ってもシュトレンツィムの中では、きっと「オバサン」よりマシだろう。
「じゃあ俺は、そのままシュトレンツィムと呼ばせてもらおう。ちなみに俺はウィルモルツだ」
こうして三人の一通りの自己紹介が終わった。
「シエラはここで、何かする予定だったの?」
「いや、たまたまここにおっただけじゃが、移動するというのなら儂は別に構わぬぞ」
「この家はいいのか?」
「この家は宿として借りておるだけじゃ。別に儂の家というわけではないから構わぬ」
シュトレンツィムは一緒に旅をすることになり、荷物をまとめ支度を整えた。
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三人が家から出ると、移動に合わせて、二つの影がこちらをずっと見てきている。
「ねえウィル……従者って契約を解除できるんだって……」
センナは影より、シュトレンツィムの言葉を気にしていたようだ。
雰囲気的に、ウィルモルツの解除を気にかけているのだろう。
「センナがそうしたいと思ったら、そうしろ。解除するか選べるのは、お前のほうだからな。まあ、俺にはその気はない。だがたぶん、俺の場合は解除できないんじゃないか? ほら、特別だろ」
センナはウィルモルツの言葉に、安心したように笑顔になった。
「ねえ……あれって、斬ったりしたら消えたりするのかな?」
「そうじゃな。〝見る〟という以外の役割を持ってなさそうじゃし、斬ればそうなるかもしれん」
ウィルモルツはシュトレンツィムの言葉に「こいつ結構、憶測でモノを言うな」と感じていた。「おそらく」だとかが、やたら多い。
それを聞いたセンナは、「つまり攻撃してこない」と思い剣を抜くと、すぐに影との距離を詰め、横薙ぎで二つの影を斬ってみた。
影はロウソクの火が消えるように、ゆらりと消失する。
それを見ていたウィルモルツは、この二人を相手する未来の大変さを痛感し、頭を押さえた。
二人のところへセンナが戻ると、「じゃあ、行こ!」と言い、町の噴水がある中央のほうへ向かって走り出した。
急な行動に二人も慌ててセンナを追いかけ始めるが、シュトレンツィムが明らかに遅い……。
ウィルモルツは、たまらずシュトレンツィムを持ち上げ、速度を上げて追いかけ追いついた。
「待てっセンナ! どこへ行くつもりだ!?」
「だって、今消えてるから、新しいのが出てくるかもしれないから、とりあえず走った!」
「はー、わかった。まあ、とりあえず一旦とまってくれ!」
センナたちが走るのをやめると、噴水がある広場まで走ってきていた。
噴水の前に、あの少年が居る。
走っていたのが目立ったのか、こちらを見ている。
お互い目が合っていたが、少年はこちらを見ているだけで、その場を動こうとする気配は感じられなかった。
ウィルモルツの腕の上に乗っていたシュトレンツィムが尋ねる。
「お主らはどこから来たのじゃ?」
二人は合わせたように、入ってきた方角に顔を向ける。
「フーレティアか。ならば、あちらに行けば『アムストランダ』の方へとなるが、どうするのじゃ?」
二人の旅は「とりあえず一度、世界を回ってみよう」である。
なので、もう一つの出入り口を提案した。
そうと決まると、センナとシュトレンツィムを抱えたウィルモルツは、また走り出した。
石橋を渡り、出入り口へと向かう。
その間、追手や怪しい影がいないか背後を確認したがおらず、そのまま駆け抜けてピエルトの町を去った。
ピエルトを出てからも、警戒を怠らずにしばらく走り続ける。
「よしセンナ……一度、止まろう」
全力でそれなりに走ってきて、息を荒げながらウィルモルツが言い止まった。
ウィルモルツは持っていたシュトレンツィムを地面に置く。
シュトレンツィムは何食わぬ顔で、センナとウィルモルツは息を整えながら、少しでも距離が稼げるよう砂利道を歩く。
こちら側もフーレティア近辺と同じで、右手には岩壁のような山脈がそびえ、左手には森とも林ともつかない風景が広がっていた。
三人が歩き呼吸が落ち着いてくると、進む先に、それなりに大きな生き物の影が見えた。
その生き物は、人間と比較すると一回りほど大きく、いかにも力が強そうな見た目をしている。




