旅立ち
センナが目を覚ますと、太陽の光が目に差し込んできて眩しさを感じる。
旅立ちとなる今日は、どうやら晴れのようだ。
体を起こすと、既にウィルモルツが旅支度を始めていた。
「おー、センナ起きたか」
ウィルモルツが起きた事に気づき、センナを呼ぶ。
近づいて行くと、敷物代わりに置かれた荷物袋の上に、綺麗な服が並べてあった。
「──どうしたのこれっ!?」
それを見たセンナは驚く。
青を基調に、襟元や裾、前立てに黄色の細い縁取りが施された膝丈のジャケット風のコート。後ろの裾は真ん中で分かれている。
金色の布のような物で切り替えられている袖口に、白い前身頃の胸元からお腹辺りにかけて、六つのボタンが三つずつに分かれて並ぶ。
同じ白のスカートには、裾の少し上にコートと同色のラインが、前の真ん中以外に走っているようだ。
荷物袋に並べられた物を、端まで視線を動かして見ていくと、最後には乗馬用のようなブーツが置いてあった。
そこに並べられていたのは、センナのサイズに合わせた「新しい服」一式。
それを見たセンナは、一気に目が覚めた。
城から盗った裁縫道具、生地、制作方法の資料を読みながら、靴以外はウィルモルツが作った物。
アレンジを加えながら夜な夜な地道に作っていたようだ。
そのまま記述通りに作ると「フーレティア正装着」になってしまうため、多少の変更は加えたらしい。
拾った布や赤いドレスのほうは、すべて紺色の稽古着の修復にあてられていた。
新しい服は、新品の上質な素材だけで制作したという。
どうやら、靴はそのまま盗った物らしいが……。
センナはそれを受け取って、茂みに隠れて着替える。
着替えたセンナが現れて、長い髪を後頭部の上のほうで縛る。
ポニーテールのようにすると、その姿は王族の高貴な者の風格を漂わせていた。
最後に、手渡された細く青いリボンタイを襟元に結ぶと、全体的に完成された見栄えとなった。
「あー……でも、なんでスカートなの?」
「生地が足りなかった。まぁ安心しろ。こけても、ちゃんと見えないようになっていただろ」
センナは着替えた時を思い出して、確かに露出部分は大丈夫だったと頭に浮かべる。
「いや、膝とか擦りむくんですけど……」
履いているスカートは、膝より上までの長さだった。
次にウィルモルツは、センナの母親の剣を荷物袋の中から取り出し、渡した。
「う~ん……たぶん駄目かもこれ……。戦う時は重さを感じちゃうと思う……」
「そうか。なら、しばらくはこっちだな。街とか行けば新しい物が調達できるだろうから、それまでは我慢しよう」
センナから剣を返してもらい袋にしまう。
これまで使っていたいつもの剣を渡すが、もうだいぶ古くなっていた。
ウィルモルツは身長が百八十センチある。
比べて測れば、センナは百五十五くらいだろうか。
さすがに子供用の剣は、短剣に近い長さに感じる。
「それじゃあ、いくか」
ウィルモルツが荷物袋を持って、二人は砂利道を歩きはじめた。
✿
春を迎え、周囲の自然が鮮やかさを増している。
他の季節に比べ、名もわからない花や果実が多く実り彩る。
「センナ──お前が城の王女だってことは、しばらく隠していくからな」
「なんで?」
「お前の母さんが、そのようにした方がいいみたいなことを言っていたからな。詳しい理由はわからんが、隠しておいたほうがいいのかもしれん。……そういえば、一人敵を逃がしたとか言ってたか……。どんな相手かは知らないが、お前は母さんがやられた相手に、復讐したいとか思ったりしてないのか?」
「ふッ、復讐!? ん~……たしかにやり返したい思いはあるけど、そこまで感情は湧いてないかも……。ねぇ──これって相手を直接見たわけじゃないからなのかなぁ……?」
問われて驚くように答えたセンナ。
どうやら復讐心のようなものはなさそうだ。
「んー、どうだろうな……。じゃあ、なんで旅に出る決意をしたんだ? 何か目的があったんじゃないのか?」
「ん~……特に今はないかも。おじさんが『行こう』って言ったから?」
「なあセンナ──その、おじさんって呼ぶの……まあ、別に嫌ってわけじゃないんだが……。俺には一応、ウィルモルツって名前があるぞ」
「──えっ、初めて知った! おじさんって名前あったんだ! そういえば、今まで聞いたこともなかったかも」
「あー、そういえば言ってなかったか?」
「ウィルモルツかぁ……おじさんじゃ駄目かあ……、なんか呼びにくいような……あっ、そうだ! なら『ウィル』って呼んでいい? おじさんより短いし!」
「え? あぁ。別に構わんが」
ウィルモルツの呼び名が、おじさんからウィルに変わった。
ウィルモルツの中では、おじさんよりは全然マシだった。
しかし懐かしい呼ばれ方だと、数年前のことを思い浮かべた。
道中そんな話をして歩いていくと、木の小屋が見えてくる。
センナはそれに指差し、二人は顔を見合わせ、懐かしさを感じて笑い合う。
そこからそのまま通り過ぎていき、砂利道の坂を下る。
ここからは未知の領域となる。
下っていくと分岐点に行き着いた。
地面を見ると、人が往来している足跡が横向きで残っている。
ウィルモルツは振り返り、自分たちが歩いてきた小屋のほうの地面を見ると、足跡がまったくない。
こちらには何もなかったのだと痛感する。
「どうするセンナ? こっちに行けばほら、見えるだろ──あれはたぶん、お前んとこの城だ」
ウィルモルツが示す左手には、ここからでも大きなフーレティア城の上の部分がはっきりと確認できた。
全体として見えないのは、手前に城下町と思われる建物があったからだ。
「反対側は『ピエルト』って書かれてあるな。俺はよく分からんが、どうするんだ?」
ウィルモルツが地面に刺さった木の看板の文字を読み、センナからの返答を待つ。
「う~ん……じゃあ、こっちでいいかな」
センナが顔を向けたのは、フーレティアとは反対の方向だった。
「いいのかセンナ? あれは、お前んとこの城なんだろ。寄るくらいなら構わんぞ。バレないようにはするけどな」
「小さい頃よく、お母さんに冒険の本を読んでもらってたんだけど、その時『いつか世界を回れたらなー』って思ってたから、こっちにしてみようかなって」
「なんだ、ちゃんとあるじゃねえか旅の目的」
「え? 目的って、そういうのでいいの?」
「ああ、そんなもんだ。それに俺も、この世界の文明や文化を知るうえで、一度回っておいたほうがいいと思ってたからな」
二人はピエルト方面へと続く砂利道を進むことにした。
目指す理由は違っても、進む方向は同じだった。
「それになセンナ──お前が望んでるかは分からないが、人を生き返らせる方法もあるかもしれないぞ。まぁまだ、お前の母さんが死んだって決まったわけじゃないけどな」
「──えっ、そうなの!?」
そう──ウィルモルツは疑問に感じていた。
センナの母親は、明らかに人が亡くなる様とは違っていたからだ。
それに、そこにいた別の誰かが、普通の形で亡くなっていたのも見ている。
この違いは、未だわかっていない。
ならば、センナの母親が亡くなったとは断言できない。
「まあ、母親を探したり、生き返らせる方法を探すのも目標にして旅していこう」
「──うんっ!」




