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未明と休日

ほのぼの休日回です!よろしくお願いします!

 そんなささやかで平和な日々を過ごして、週末になった。私が勤める会社は一応完全週休二日制なので、土日はゆっくりすることができる。そう伝えると未明(ほのか)は目を輝かせた。大げさだな、と思ったけれど、ずっと一人で、それも室内で過ごさなくてはいけない未明からすると話し相手がいるのは嬉しいことみたいだった。

 「ねえねえ、明日なにする?」

金曜の夜、夕食が終わると机から身を乗り出すようにして未明が言った。それが飼い主にかまってもらえるのを喜ぶペットみたいで、思わず吹き出してしまった。そんな私を見た未明は、すぐにふてくされた顔をする。

 「ごめんごめん、明日ね。未明はなにがしたい?」

未明の希望を訊けば、ふてくされた顔は一気に喜色いっぱいになる。

 「明日はー、少し寝坊してブランチにしよ!私、ホットケーキ食べたい!それと、なんかゲームしよ!寝る前には、夜更かしして映画ね!」

思っていたよりもやりたいことがいっぱいあったみたいだ。私が休日の時ぐらいしかできないことだろうから、一も二もなく頷く。

 「わかった、じゃあ未明がやりたい通りにしよう。楽しそうだしね。…そういえば、ホットケーキミックス、うちにないと思うんだけどどうしよっか?」

 「あー、うーん…。でも、一緒に遅起きしたいから、買いに行かなくてもできるレシピとか探そうよ」

 「そうしよっか。今日のうちに調べちゃう?」

 「ううん、明日やることは全部明日にしよ。そろそろ眠くなってきたし」

 「そう?」

 「うん、ほら(あかり)だって仕事で疲れてるんだからさっさと寝よ!」

え、でも歯磨き…。という私の声は未明に華麗に無視された。あれよあれよと夕飯の皿が片付けられて、寝室に連行される。未明が開けたのは客間のドアで、あれ、と思う。

 「未明?私の部屋こっちじゃないんだけど?」

 「知ってますけどー?…今日は一緒に寝ようよ!だめ?」

以前、ここに置いてほしいとおねだりされた時と同じ上目遣い。実家で飼っていた猫のクロに似ているな、なんて思った。どうやら私は未明のこの顔に弱いらしい。

 「…いいよ」

私がいいといった瞬間未明は私を客間に引っ張り込む。腕が組まれたままベッドに横たわった。同じシャンプーを使っているはずなのに、未明からは花の匂いがした。


 客間の窓を覆うカーテンの隙間から差し込む日の光が眩しくて目を覚ました。隣を見れば、昨日寝た時と変わらず穏やかな寝息を立てる未明がいる。目覚ましのけたたましいアラーム音を聞かずに心ゆくまで寝られたのは久しぶりだ。徐々に体を伸ばしていくように、ゆっくりと体を起こす。そっとベッドから抜け出そうとしたところで未明が身じろいだ。

 「ん…おはよ」

 「おはよう。ごめんね、起こしちゃった」

 「ううん、今日は一緒にブランチする予定なんだからいいの」

そう言って笑った未明も私の隣で上体を起こす。眠そうにあくびを零す。ベッドから出るにはまだ時間がかかりそうかなと思った私は、一足先に洗面所に向かう。未明が鍋の材料を買いに出た時に一緒に買ってきた洗顔フォームを手に取った。パッケージで“つるんとたまご肌”の文字が躍っている。顔を洗い終えると部屋着に着替える。今日は家で過ごすと決めているから。外に出ないから、と適当に髪をまとめていると、やっと未明がやってきた。昨日の夜は真っ直ぐだった金髪は、寝癖がついてうねっている。

 「灯ー、髪梳かしてー」

洗面所までやってきたのに、未明はそこで力尽きたようで私に寄りかかってくる。寝起きの未明は体温が高くて、触れたところが温かかった。手に持っていたブラシで未明の髪を梳いてやる。

 「はい、できたよ」

 「ありがと…」

お礼を言った未明は、しかしその場から動かない。だから私も動けなくて、未明の肩をぺしぺし叩いた。

 「ほら、ホットケーキ食べるんでしょ?早く着替えてきな」

 「んー…むり、ねむい」

 「…ホットケーキなしになるよ」

 「着替えてくる!」

さっきまで立ったまま寝かけていたのに、ホットケーキが食べられなくなると言ったら風のような速さで客間の方へ消えていった。未明は大人びているようでいて、実はとても子どもっぽくて可愛らしい、と思う。長い金の髪と吊り目が相まって、見てくれの印象は少し気の強そうなお姉さんといった感じなのに。

 未明を待つ間、スマホでホットケーキのレシピを検索する。ホットケーキミックスがなくても作れるレシピはたくさん出てくるけど、だいたいがベーキングパウダーを必要とするものだった。…ベーキングパウダー、あったかな。私はお菓子作りとかもしないし、使う機会がない。自宅でお菓子、というか甘いものを作るのは、ずっと前にどうしてもチーズケーキが食べたくて自分で作った時以来だ。冷蔵庫をごそごそ漁ってみるけど、やっぱりなかった。ベーキングパウダーも使わずに済むレシピを探していると、肩に温かな重みがかかった。

 「ホットケーキミックスなしで作るの、結構難しいかも」

 「えー?そうなの?」

 「うん、ホットケーキミックスなしだとベーキングパウダーがいるみたい。ないと膨らまないんだと思う。」

 「そっか…。私も調べてみる!」

リビングのテーブルに置いていたスマホを持ってキッチンに戻ってきた未明も、私の隣でレシピ検索を始める。しばらく無言でスマホの画面をスワイプし続けていたら、やっとお目当てのレシピが見つかった。

 「未明!これならできそう!」

 「ほんと!?」

 「うん、ベーキングパウダーの代わりにみりんを使うんだって」

 「へー!すご!みりんでできるんだ!?」

 「そうみたい。みりんならうちにもあるから」

 「じゃあそれでやってみようよ!」

レシピを表示したスマホをキッチンカウンターに置いて、いつでも確認できるようにする。

その間に、未明が冷蔵庫から卵や牛乳、小麦粉、それにみりんを取り出した。夕飯はずっと未明が作ってくれているから、我が家のどこになにが入っているかはすっかり把握済みのようだ。

 まず量りを使って小麦粉を規定量ボウルに入れる。それをふるいにかけて、卵と牛乳を加えた。最後にみりんを投入して混ぜ合わせる。後は焼くだけだ。砂糖は入れず、焼きあがってからメープルシロップをかけることにする。とろみのある生地をフライパンに綺麗に流し入れるのは難しくてちょっぴり歪な形になってしまったけれど、焼き色はいい感じ。皿に盛り付けて好きなだけシロップをかければ完成だ。普段見るようなホットケーキよりはだいぶ薄いけれど、口に運べばちゃんとホットケーキの味がした。

 「おいしい!」

正面に座る未明はそう言って目を輝かせた。ナイフを握った右手が休むことなくホットケーキを切り分けている。よほどお気に召したらしい。初めて作ったにしては上出来だな、と思いつつ、切り分けたホットケーキでシロップを拭うようにしてから口に含む。私より先に完食した未明が物足りない、という顔をして私の方を向いた。しょうがないなあ、と呟いて皿に残っていた分を一枚、未明の方に載せてやる。

 「ありがと!!」

瞬時に返ってきたお礼。いいよ、と言う前には、未明はハムスターのように口を膨らませていた。

 ホットケーキを食べ終わると、お皿はシンクに放置したままで遊ぶことにした。これも休日の特権だ。食べ終わると、未明の希望に則ってゲームをすることにした。といっても、うちにはゲーム機らしいゲーム機がないから、クローゼットにしまわれていたカードゲームやボードゲームを引っ張り出してくるのが限界だった。

 「あ!人生ゲームじゃん、懐かしー!これにしよ!」

 「いいよ、じゃ車一つ選んで」

 「んー、私赤にする。ふっふー負けないよー?」

ごきげんな未明を横目に私は青色を手に取った。

 「じゃあ私は青で。…人生ゲームなんてどれくらいぶりだろ。久しぶりすぎる」

 「ねー!私もすっごい久しぶり!最後にやったのなんて、たぶん小学生ぐらいの時だし」

ルーレットを回して、出た目通りに小さな車を進めていく。未明がデザイナーになったり、私は家を買ったり。子どもが増えたり、宝くじが当たったり。こんな色々起こるんだっけ、と思うぐらいにはイベントがたくさん起きる。借金をしなくちゃいけなくなって、いやだ~!と駄々をこねる未明に借金の手形を押し付けたりもした。終わってみれば未明は子どもが四人もいる大家族。かたや私は一軒家を持った独身貴族。どちらもあり得なくはない結果で笑ってしまう。一人暮らしの家に人生ゲームを持ってきてしまったのは間違いだったな、なんて思ったこともあったけど、ようやくうちに保管されていた意味を発揮したと思う。

 その後はトランプで私達二人が知っている遊び方を全て試してみたりもした。途中で飽きると本棚から適当に少女漫画を引っ張り出してきて、隣あったまま読んだりするのも新鮮で楽しかった。日が落ちると今夜観る映画を決めよう、とサブスクの画面から目ぼしいものを紙に書いていって、あみだくじで一つに絞った。夕飯はデリバリーの宅配ピザ。寝室から掛布団と枕だけ持ち寄って、ソファにもたれかかるようにして座った。電気を消して映画館気分に浸るのも忘れずに。暗い部屋の中で唯一光を放っているテレビ画面には、泣ける

と話題の恋愛映画のワンシーンが写っている。まるで修学旅行みたい、なんて思う。

 結局映画が終わる前に二人して寝落ちして、結末はわからずじまいだった。たぶん、いい映画だった気がする。


お読みいただきありがとうございました!

また次話でお会いできたら嬉しいです!

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