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始まった同居生活

犯罪者な彼女と主人公の同居生活が始まります。よろしくお願いします!

 彼女は、未明(ほのか)と名乗った。みめい、と書いて「ほのか」と読むのだと。

 未明は、よく笑う人間だった。人懐っこくて愛嬌がある。会ったばかりなのに、ずっと前から知り合いだったかのように錯覚する。風呂から上がって私の部屋着を来た未明は、初めて来たとは思えないほどこの部屋に馴染んでいた。 

 慣れた手つきで長い金の髪を乾かしていく。私は、それをぼんやりと眺めていた。乾かし終わったらしい未明がドライヤー片手に立ち上がる。

 「お風呂とドライヤー、ありがとう。喉乾いちゃったんだけど、何か飲んでいいものってある?」

ぐい、と押し付けるようにして返却されたドライヤーを受け取ると、未明が訊く。未明の家に私が来ているみたいだと思った。

 「うん、冷蔵庫に麦茶入ってるので。グラスは棚から適当に取ってください。」

返すと、頷いた未明はそのままキッチンへと入り込んで麦茶を一杯くんだ。電気に照らされた麦茶が琥珀色に光っていた。

 「私、お風呂入っちゃいますね」

はーい、と暢気に間延びした返事が返ってきて、脱衣所へと向かった。

 風呂から出ると、キッチンに野菜のかすやソーセージのパッケージが散らばっていて、まな板には切られた玉ねぎが包丁とともに載っていた。

 一瞬、あの時彼女が握っていた包丁かと思ってどきりとする。

 「あ、ごめんね、勝手にキッチン借りて。しばらく置いてもらう代わりに、何か作ろうと思って」

そう言った彼女は玉ねぎをまな板の端に寄せると、ピーマンを中心に置いて切り始めた。

 「いい感じに材料があったからナポリタンにしようかなって。いい?」

いいもなにも、もう調理は始まってしまっている。いいよ、と小さく答えた。未明は満足そうに笑って、今度はソーセージを切り始めた。

 未明がナポリタンを作っている間、私はテレビを見た。いわゆるゴールデン帯なだけあって、バラエティー番組が多い。芸人たちがおすすめのご飯屋さんにロケに行く番組が目に留まった。思えば、こんな時間にテレビを見るのは久しぶりだった。この時間はだいたい料理をしていて、テレビを見ない。同時に一つのことしかできない私は、料理に集中するためテレビを付けないようにしているのだ。キッチンからは、ジューという音とともにケチャップの酸味が混じった香ばしい香りがしてきた。母が料理をしてくれていた時のことを思い出す。私はやっぱりテレビを見ていて、でもあの時は教育番組だった。博士のような人が実験をするシーン。それが魔法みたいだとはしゃいだ私を見て、母は穏やかに笑んでいた。食卓に並べられる皿は三枚。私と母と、父のぶん。そこまで思い出したところで声がした。

 「お姉さん、ナポリタンできたよー」

目の前に、綺麗に盛り付けられたナポリタンが置かれる。麺のオレンジとピーマンの緑が鮮やかで食欲をそそった。

 「ありがとう。いただきます。」

言って、フォークを手に取った。フォークを回転させて麺を巻き取ると口に運ぶ。うちのナポリタンとは違うけれど舌に馴染むような味。思わず、美味しい、と漏らしてしまう。それが耳に届いたらしい未明は優しく微笑んで、自分の分に手を付けた。

 食後、皿を洗っているとリビングでくつろいでいた未明がキッチンにやってきた。

 「どうしましたか?」

訊けば、未明は少し恥ずかしそうに目を伏せて、髪の毛先を指でくるくるともてあそんだ。

 「あのさ、お姉さんの名前ってなに?」

え、と声が出た。

 「お姉さんの名前教えてもらってないなって。それに、ずっと敬語じゃん。なんか、堅苦しい」

そういえば、と思う。未明(ほのか)という名前だと聞いた後、自分は名乗らなかったのだった。それに、敬語を使っているのも無意識だった。まるで友達みたいに、私に遠慮をしなかった未明には大きなことだったのかもしれない。

 「忘れててすみません。私、渡辺(あかり)です。灯る、って書いてあかり」

 「あかり、あかりかぁ、いい名前だね」

 「あ、りがとうございます」

灯は父がつけた名前だ。嬉しいような、そうでないような感情が私を襲う。未明は不思議そうな顔をした後、言った。

 「ありがとう、ね。敬語なしって言ったじゃん」

 「ありがとう」

言い直すと、未明は軽く頷いた。今日やるべきことは全部やった、と言わんばかりの大きなあくびをする。瞼が落ちてきたらしく、目元をこすっていた。

 「寝るなら、客間を使ってもらえると嬉しいです。あ、嬉しい。廊下を戻って二つ目のドアが客間なので」

 「はーい、ありがとう。おやすみなさーい」

寝る場所が分かると、未明は少しおぼつかない足取りで廊下を進んでいく。無事指定した部屋に入っていくのを見届けて息をついた。


 これから、どうしようか。未明を、犯罪者をうちに置いてしまった時点で私も共犯者みたいなものだった。それに、人懐っこく笑う未明が、何の理由もなく人を殺すわけがないと思ってしまった。…もう、この時点で未明の思うつぼなのかもしれない。洗い終わった食器を拭いてはしまいながら考える。時計を見ると、午前二時になりかけていた。明日も、というか今日も仕事があるのだ。それに、昨日は当日、それも始業直前にお休みをもらってしまった。早く寝なければ。ぐるぐる回り続ける思考を止めるべく、急いで寝室へ向かった。


お読みいただきありがとうございました!

また次話でお会いできますように!

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