表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この愛らしい妖精を食べれば強くなれますか?(キリアム②第二原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/29

第9話 極度に鉄臭い累々と林檎の山道

 先生は銀剣を右手で構えながら、エドワードに左手をかざした。

 意気込むような声のあと、エドワードの体が反り返ると同時に、空気中に剥離(はくり)した細かい結晶のようなものが散った。


「これは汗です。エドワードの体液は空気中の酸素と混ざり合い、硬化します。意識的に発刊をうながし、表皮を固形化した硬い汗で(おお)っているのです」


 唾液については知っていたが、汗も硬化するとは知らなかった。


 ワルドナー先生は授業を行うかのように解説しながら、落ち着いた雰囲気でゆっくりとエドワードへ近づいた。


「硬化を失った表皮に、銀剣は容易く届きます」


 先生が片手で軽く剣を振ると、あまりにも呆気なくエドワードの首は斬り落とされた。


「このように、クリーチャーの殺害は可能となるのです」

「先生はさきほど何をしたんですか?」


 それはあのトーマスであった。

 見れば隣に舎弟の二人がいる。


「先生はさきほど、バースで何かされていましたよね?」

「あれは表皮と汗と鎧の間に波動を送り込んだのです」

「なるほど。それで引き剥がしたわけですか」

「そういうことです。バースは武器にあらずですよ」


 書物でいつか見たことがある。

 バースは武器でなく、剣技や組手と合わせて使う、支えでしかないと。


「あくまでも殺すのは銀剣であり、己なのです。さあ、みなさん。未来の銀騎士がこのようなところで臆してなどいられませんよ」


 そこにはもう恐怖はなかった。

 全員の脳裏から臆する心は取り除かれ、それぞれは希望の垣間見える笑みを浮かべた。


 工房学校のみんなは、あんなに簡単に無残に殺されたのに、こいつら貴族は「いけるぞ」なんて言って容易く魔法みたいなものを使い、そして、僕たちにしてみれば必死になって逃げるしかなかった状況でさえ、飛躍するための授業の一環でしかないのか……。

 これが平民と貴族の差……。


「キリアム?」

「……え」

「さあ、他の生徒を助けにいきましょう」

「…………そう、だね」


 助けるだって?……。

 そうか。

 レアーナはわかってないんだ。

 強者は弱者の気持ちがわからない。

 僕にはこんなもの、授業になりえないんだよ。

 勇気を持てとか、そんな根性論でどうにかできるものじゃないんだ。


 僕はただ、気づくと振り返ってにやにやしている貴族のたちの後ろを、反抗の気配も見せずについて歩くしかなかった。


 〇


 一人場違いに紛れ込んでいる平民に気づいたあとも、ワルドナー先生は特になにか訊ねてくることはなかった。

 周囲の森を目視でうかがい「こっちですねえ」と言って躊躇いなく生徒を誘導して進んでいった。


 しばらくして、先ほど僕らが襲われた森の細道に辿り着いた。

 山道にたくさんの林檎の実が落ちていた。

 だが遠目に見えていたそれらは林檎ではなかった。


 そこには大勢の工房生が横たわっていた。

「生存者がいないか確かめてください」と言ったあと、ワルドナー先生は「これも授業の一環です」と死体漁りを始めた。

 結果、転がる死体は見た目通り生きていなかった。


 足跡が屋敷へ引き返すように小道のさきへ続いていた。

 気付いたワルドナー先生は神妙な表情で歩いていく。

 だがいくら辿っても力尽きた生徒の列が続いているだけだ。

 いったいどれだけの生徒が死んだのか……。

 辺りは極度に鉄臭く、加えて汚物の臭いがした。糞尿だ。

 こんなに臭いものたちと林檎を見間違うだなんて、僕はどうしてしまったのだろうか。


 僕は劣等感に打ちのめされていた。

 そして怒りを覚えるほどに悔しくもあった。

 今すぐにでもトーマスの頭をたたき割ってやりたい想いでいっぱいだった。


 レアーナの後に続きながら、斜め前方に浮かぶ奴の後頭部をずっと見ていた。


 〇


「ミシェル!」


 しばらくして、エドワードの死体を物色しているアンダーソン先生と合流できた。

 少数ではあるが、生きている工房生もいた。

 よく見るとヘムズたちの姿もあり、端に二体のエドワードが転がっている。

 まさかアンダーソン先生は、一人で三体も殺したのか?


 みんな疲れ切っていた。

 貴族たちはそれを見てにたにた笑っていたが、先生たちは特に注意することはなかった。


「ワルドナー先生、どうやら森に何かが起きているようです」

「そう思いますか」

「はい」

「……確かに。不自然ではありますねえ、この数は」


 ワルドナー先生はたそがれるように遠くの山肌を見つめた。


「羽織校の生徒や他の方々を見ましたか?」

「いえ」とアンダーソン先生。

「そうですか……。少し早いですが、今日はもう切り上げましょう。彼らと合流しなければいけませんが、この数の生徒を連れて森の中を歩くのは、騎士生だけならまだしも荷が重い。エドワードだけとは限りませんからねえ」


 さらっと聞こえた言葉に、数少ない工房生の委縮する表情がみえた。

 皆、申し訳なさそうに俯いている。

 先生たちは僕らに自分たちだけで来た道を戻り、屋敷へ戻るように告げた。


「キリアム、行きましょう」

「……ああ」


 気を遣っているのか、レアーナは手招いた。

 しばらくして先生たちは森の中へと姿を消した。


 貴族たちの後ろについて歩く僕ら――工房生の顔色は暗い。

 見下されている臭いがぷんぷん伝ってくるからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ