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この愛らしい妖精を食べれば強くなれますか?(キリアム②第二原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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第4話 上級貴族の鉄槌と惨めな平民

 城下町から旧市街へと帰路についた頃、通りのベンチに3人組の姿が見えた。

 服装からして騎士学校の生徒だろう。

 胸元のバッジの数は1年生を示している。


 そこで案の定、呼び止められた。


「おい」


 一目で分かった。

 (あざけ)り笑う彼らの表情から、これは良からぬ接触だと。


「お前、式場で揉めてた奴だろ、名はなんていう」


 このトリオのリーダーだろうか。

 オールバックに仕上がった赤い短髪は、平民では見たことがない。

 旧市街地区の人間は、大抵黒髪か濃い茶色をしている。

 だからこいつらが貴族であることはすぐに気づけた。


「キリアム……ハイドゥイン」

「ハイドゥイン? 姓があるのか、平民のくせに」

「はい」


 僕は静かに答えた。


 見下されることには慣れている。

 特に貴族なんてどれもこんなもんだ。

 揉めたくはないが、向こうは違うだろう。

 至近距離まで詰められ、だが僕は微動だにせずじっとしていた。


「困るんだよ。お前みたいなのに学校の中をうろつかれると」

「どういう意味ですかっ――」


 急に深く、腹に衝撃を感じた。


「かはっ!」


 重いものを感じ、次の瞬間には言葉と息が詰まり、腹を抑えていた。

 僕はその場に膝を付き倒れ込んだ。


 (せき)込んでいると、体が地面を離れ浮いた。

 痛みはまだ続いていて、戸惑う余裕もない。

 苦しみ紛れに見ると、貴族が僕に手をかざしている。


 ――リトルバースだ。


 横になった状態で、僕は宙で遊ばれていた。

 貴族のにやけ面が見える。


「ゴールドバーグ家のご令嬢が、旧市街の平民と遊んでいる姿はたびたび目撃されてきた。ウォールハーデン七不思議の一つだ」

「レアーナの、ことか……」


 徐々に呼吸が整ってきた。


「名前で呼べるのも今日までだと思え。僕の名はトーマス。ファイブリースと言えばわかるだろ」


 レアーナはウォールハーデンに仕える公爵家の人間だ。

 ファイブリース家も同等の貴族。

 つまり、こいつも上級貴族だと言いたい訳だ。

 頭を整髪料で固め、(のり)のきいた(えり)を立たせれば、それはもういっぱしの貴族様である。

 だが幼さの残る(たたず)まいに恐れるものはない。


 だが僕は歯向かえなかった。

 体を動かそうとすれば、リトルバースが襲う――。


「くっ!」

「黙って話を聞けないのか」


 黙っていたさ。

 指を動かしてみただけだ。

 こいつは権力を表したいだけであって、なにも些細(ささい)な抵抗すら見過ごさないと、そう言いたいわけではないだろう。

 中身は僕以上の子供だ。


 トーマスは僕を地面に落とした。

 骨盤に響いたが大したことではない。

 だがそこで、追い打ちをかけるようにバースの波が押し寄せた。

 僕は傍の椅子に向かって飛ばされてしまった。

 何かで頬を切った。

 それを見て貴族たちは笑っている。


「そう言えば、警備員がお前の足を切り落として、二度と学校の門を潜れなくしてやるとか言ってたなあ。お前、ここで斬られとくか?」


 赤毛のトーマスは、腰の鞘から銀剣を取り出した。

 騎士には銀剣の所有が認められ半ば義務付けられている。

 それは騎士生も例外ではない。

 あの学び舎の門を潜った者は、その日から銀剣の所有が法律で認められる。


「お兄ちゃん」

 

 ふと声が聞こえた。

 心臓が高鳴り、僕は声のした方へとっさに振り向いた。


「……ミーナ」


 なんでここに……。

 それは妹のミーナだった。


「なんだこいつ」


 トーマスたちも気づいた。


「どうしてここへ……」

「帰りが遅いので、心配になって、それで……」


 ミーナはトーマスたちを横目で警戒しながら話した。


「ん? こいつ、お前の妹か?」


 当てずっぽだろうか。

 トーマスは勘の鋭い奴だった。


 そこでトーマスはとんでもない提案を持ち出した。


「そうだ、お前じゃなくこいつを殺してしまおう。身内が死ねば分かるだろ。もう手を出してはいけないのだと、学校へ近づいてはいけないのだと」

「待て、お前、何を言って……」

「お前だと? 貴様、平民の分際でなんて口の利き方をしてるんだ」

「す、すいません……ですが、待ってください。彼女は確かに妹ですが、関係ないはずです。僕とあなた方との話ではないですか」

「それを決めるのは貴様ではなく、この俺だ。一介の平民のくせに、やはり口ごたえするか。こっちは上級貴族様だぞ! もっと敬えよ」


 怒りを表すわけでもない。

 トーマスは楽しんでいた。

 あえて余裕な様子を見せつけ、反抗的な僕の感情を知りながら楽しんでいるのだ。


「分を(わきま)えないとどうなるのか、一度知った方がいいんじゃないか。親切のつもりだったんだが、どうも上手く受け取ってくれてないようだ」

「いえ、そう言うわけでは」

「何が違うと言うのだ。まさか、俺の考えが間違っているとでも言うのか。やはり分かっていない。軽々しく口を開き俺たちを愚弄している。寛容な俺も流石に我慢ならないぞ、まったく」


 僕は睨むこともできなかった。


 その足は、一歩また一歩とミーナへ近づいていく。

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