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この愛らしい妖精を食べれば強くなれますか?(キリアム②第二原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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第3話 笑顔

 僕は苦笑いをしていた。

 頬が勝手に吊り上がり、ぎこちない笑顔になってしまう。

 何かあるとすぐこれだ。緊張から逃げたいのだろう。

 あるいは、どこかで自分がズレたことを言っていると自覚しているのか。

 いや、ズレていることは分かってるさ。それがこの国の常識だもんな。

 でもそう思わされているに過ぎない部分もある。


 この国がおかしいだけだ。


 僕は目を逸らした。

 しばらくしてもレアーナは何も言わず、顔を上げてみると、憐れむような悲しい表情をしていた。


「キリアム。私たち、もう15なのよ?」

「…………」

「いつまでも子供じゃいられないの。無理なものは無理なの。いつまでも、夢なんて見ていられないのよ」

「僕にとっては夢でも、レアーナにとっては当たり前のことなんだよな」

「キリアム……」

「みんなそうやって、僕の名を呼んでは哀れむだけだ。まるで僕が悪いみたいに……気づけとでも言うように」

「…………」

「なんで僕だけ夢にしないといけないんだよ」

「…………」

「平民だもんな、僕は」


 僕はレアーナに、否定してほしかったのかもしれない。

 誰でもないレアーナに。

 事実であったとしても、何かそれを否定できる言葉を、レアーナは持っている気がするから。

 だけど彼女の目を見た時、また自然と言葉が漏れた。


「――僕を見下すのか、レアーナも」

「キリアム、私は――」

「もういい」


 あまりの惨めさに、笑えもしなかった。


 ふと、昔のことを思い出していた。

 あの頃、僕は色々と物知りだった。

 レアーナはよく僕に憧れの視線を向けた。

 二人で森へ出掛け、木の根っこを背もたれにしながら、クリーチャーの話や調合術の雑学を聞かせたものだ。

 凄い凄いと、僕を見るレアーナの瞳は輝いていた。

 あの頃のレアーナにとって、僕の話は魔法だった。


 不意にあの時のレアーナの目と表情を思い出した。

 今も僕の頭の中には、あの頃のレアーナがいる。

 彼女が笑うと、僕は魔法にかかったように嬉しくなり、だからもっと笑ってもらおうと必死に調合の勉強をした。

 レアーナの笑顔は、僕にとっての魔法だった。


「……釈放よ」


 いつからだ――。


「貴族特権が使えたわけだ」


 思ってもいない皮肉を言ってしまった。


「……次はないわ。次はこの国に住めなくなるわよ」


 レアーナの同情の視線が痛い。

 途端に動悸がした。

 ミーナに迷惑がかかると思うと、僕は冷や汗をかいていた。


「殺すのは面倒くさいからって追放か、この国らしいな。平民一人、生かすも殺すも同じだもんな」


 でもすぐに強がって、心にもないことを言っていた。

 流石にレアーナも、僕のその一言だけは否定してくれそうな様子だった。

 だけど何かを言いかけたレアーナの口が開いたところで――。


「釈放だろ、もう行くよ。面倒かけて悪かったな」


 僕は(さえぎ)った。


 部屋を出ると、目の前にレアーナの父親が立っていた。

 壁にもたれ掛かりながら腕を組んでいる。

 僕の姿を見るなり、薄っすらと優し気に笑った。

 同情は感じられなかったが、どう思われているのかも分からない。

 会釈して、僕はそのままその場を後にした。


 残ったのは泣け無しの雑学だけだ。


 ある日、レアーナは「リトルバース」という本当の魔法を披露(ひろう)して見せた。

 父親に教わったのだと言って、僕にも教えようとした。

 そして僕に魔力が無いことが発覚したその日から、調合やクリーチャーの話しをしても、レアーナは笑ってくれなくなった。

 代わりにあったのは、あの同情的な哀れむ目だった。


 〇


 この世界に「月とスッポン」なんて「ことわざ」の類を知っている者はいない。


 高校生だった僕は、気づくとある港町の孤児だった。

 その日暮らしで盗みを生業としていたところ、おばあちゃんに拾われウォールハーデンへとやってきた。

 高校生だったことは覚えているし、当時のクラスメートの顔や名前も、特に親しい者は覚えている。

 親しくなくても覚えている者もいる。

 だがなぜ孤児で、かつ知らない別の世界にいるのかは知らない。

 知っているのかもしれないが、覚えていない。

 だからこの体の持ち主についても知らない。

 僕は誰なのか……。

 違う者の体であるということは、以前の、高校生だった僕は死んでしまったということなのだろうか。

 だが今となってはもう気にもならない。


 レアーナの二倍は生きているはずが、平民というだけで、15歳にして立場は同等ではなくなった。

 いや、出会った当初からそうだったのかもしれない。

 気づかないフリをしていただけで。

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