表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この愛らしい妖精を食べれば強くなれますか?(キリアム②第二原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/29

第22話 身震いする程のノスタルジア

「妖精、綺麗でしたね」


 会場を出ると、ミーナはそう言って微笑んだ。


「……そうだな」

「また見に来られたらいいですね……」


 ミーナはそう言った直後に口をつぐんだ。

 下を向いて顔を背けている。


「ごめんなさい、そんな贅沢なこと、言うべきではありませんね」


 この金がなくなれば、また普段の生活に戻る。

 地道に、売れない回復薬を売り続ける日々だ。

 向かいには落ちた貴婦人こと、ディーグル夫人がいる。

 五日おきに、僕らから僅かな幸せを搾取しにやって来る。


「そんなことないさ、またいつか来よう。工房校でも一流の銀剣を作れるようになれば、それなりの報酬を貰えるようになる。名高い銀騎士の目に止まればもっとだ。これっきりじゃないよ」


 僕は必死になって否定していた。

 ミーナは僕の顔を見上げ、弱々しい笑みを浮かべ、サーカスのテントを見上げた。

 入り口から光りが漏れている。

 良く見ると、テントの上部に装飾が施され絵が描かれており、虫の羽の生えた人間の絵があった。

 ピエロのシンボールマークの上だ。


「あれは、妖精の絵だったのですね」

「気づかなかったな」

「ミーナは気づいていました。なんの絵だろうかと、不思議に思っていたのです。少し懐かしいような気もしました。昔、お兄ちゃんに読んでもらった絵本で見たような気がして……」


 息が詰まった。


「ほら、いつか図書館で読んでくださいましたよね」

「……そんなことも、あったな」


 余計な勘違いだった。

 ミーナにも、過去の幸せはあったんだ。

 僕は、僕が不甲斐ないばかりに、苦労しかさせていないとそう思っていた。


「妖精の粉には幻惑の魔法が宿る……物語の中では悪戯好きな妖精さんが描かれていましたが、幸せを見せる幻というのも、あるのかもしれませんね」


 事実そうなのだろう。

 あれは間違いなく妖精だ。

 幻惑の魔法は本当で、あの中にその鱗粉を扱える妖精がいたのかもしれない。

 もしくは、わからないが妖精とは別の、そういった類の魔法か何かか。


「ミーナ、出店を見ていかないか」


 サーカスは夜に数回行われ、会場の傍はいまだ人で溢れていた。


「ほら、あっちに……」


 僕はミーナにどれを食べるかという提案をするため、周囲に見える出店へ視線を向けただった。

 不意に、林檎飴が目が止まった。


「お兄ちゃんは、林檎飴がお好きなのですか?」

「え……ああ、うん、そうなんだ。ミーナは? 嫌なら別のものでも――」

「じゃあミーナも林檎飴にします」


 お金を渡し、林檎飴を二つ買った。

 店の前に店側が用意した長椅子が置かれていたので、僕らはそこで一休みする。


「お兄ちゃん、お口が真っ赤ですよ。うわ、舌まで」

「え……」

「ミーナも真っ赤になってますか」


 ミーナはそう言って舌を少しだけ出した。

 林檎飴をしばらく舐めたミーナの舌は、真っ赤に染まっていた。


「……真っ赤、だ」

「お兄ちゃん?」

「……ん?」

「なんだか今日のお兄ちゃんはずっと、ぼーっとしていますね」

「そ、そうか? 普段こない場所にいるからだよ、この雰囲気のせいだ。あ、ミーナ、唇も赤いぞ」

「え、唇も?」

「うん、なんか大人の女性になったみたいだ」


 ミーナはそう言われたことが嬉しかったのか、「ほんとですか?」と恥ずかしそうに笑っていた。


 行き交う貴族の足音。

 砂利を掻き分け、足跡を作った傍から、次の足音に足跡を消されていく。

 店先から聞こえる店主の声。

 散らばった星屑の照明。

 ミーナの笑顔、笑い声、話し声。

 僕はまた、プールの中にいた。

 連想するのは前世の、校庭にあるプールだ。

 それら音や眩しい色は遠ざかり、感覚が朦朧としてくる。


 ふと、手元の林檎飴を眺めていた。

 僕は数秒じっとみたあと、それを逆手に持ち替えた。

 木の枝に吊るされた赤い林檎飴を、僕はまたじっと見つめていた。


「お兄ちゃん?」

「……ん」


 ミーナの声に、僕はプールを抜け出した。


「お兄ちゃん、もう帰りませんか」


 優し気な笑みを浮かべ、ミーナはそっと僕に言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ