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この愛らしい妖精を食べれば強くなれますか?(キリアム②第二原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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第13話 妖精の少女へ

「でも私は襲われないよ。この森の連中はみんなノロマだからね」


 妖精の少女は腕を組んで得意げに言った。


「うわ、またノロマがやってきた。この森で一番のノロマだ」


 妖精は毒づいた。

 振り向くとクラインの足元に首のないエドワードの姿があった。

 そして彼はミニークンクと対峙している。

 ミニークンクとはクリーチャーの一種であり、鼻の肥大した小人だ。

 小人といっても顔に足が生えたような一頭身だ。

 丸みのある体つきに低い背丈。肥大した鼻に眠そうな瞳。

 愛らしい見た目をしているが、怒らせると狂暴になり腕の力は凄まじい。

 ときおり「クンククンク」と食べ物をねだる。渡さないと狂暴化するので、よく山道ではミニークンクに殺された旅人の死体が見つかる。


 それにしても、まさか一人でエドワードを殺してしまうとは……。

 返り血を浴びたその姿から激しい争いだったことが想像できる。


「流石は貴族か……リトルバース様様だなあ」


 僕はしばらくクラインとミニ―クンクの様子を見ていた。

 だがその戦闘はものの数分で終わってしまい、クラインは川で剣にこびりついた血を洗っていた。

 その姿は実に無防備だ。

 だが……。


「……くそっ」


 僕には力がない。

 この足元に落ちている片手で掴めるほどの大きな石で、後頭部を殴るか? 

 いいや、それで殺せる訳がない。

 相手はまがりなりにもバース持ちの貴族だ。

 あの河原では近づくだけで、その足音で気づかれてしまうだろう。

 上手く頭を狙えたところで即死でないならリスクが大きい。


「ねえねえ、あの人間、あんたの友達か? だったら私が呼んできてあげようか?」


 なんとも馴れ馴れしい奴だ、妖精とは。

 それに警戒心が薄い。

 傲慢ではなく無垢な感じだ。

 確かに襲わないとは言ったが、まさかさっきの一言で信じた訳でもないだろう。

 だがその節があるのは、金粉という能力のせいだろうか。

 自分が優勢だと思っているのか。

 生きてこられたのはこの小ささが理由か。


「友達じゃない、あいつは悪い奴なんだ。ほら、僕、腕がないだろ? あいつはね、僕の腕をあの刃物で斬り落としたんだ」

「ふ~ん、そうなんだ。人間もおかしくなってるのかなあ」

「人間は前からおかしいよ。……別にこの森の状態なんて知らないけど」


 彼女は一拍遅れて「あの人、肌の色艶がいいね。髪も明るいし、肉付きもいい。きっと栄養がいいんだ、いいものを食べているんだね。それに対して君は、栄養は足りているのかもしれないけど、血色が悪い。人間には身分って概念があるんだろ、彼は育ちがいいのかなあ」


 僕は耳を疑った。

 超自然的な生き物が俗世の話を始めたからだ。

 それも考察している。

 導き出された答えは否定できないものだ。当たっている。


 強がって、僕は言った。


「弱いからだよ、平民は弱いんだ」

「……平民?」


 平民という言葉は知らないのか、言葉は帰ってこなかった。


「僕みたいな人間のことだよ」


 僕はそう言って彼女を見た。


 その感情というか、感覚は突然に押し寄せてきた。

 その声は次第に熱を持ち、僕の中で膨張した。

 授業中の教室に響く、先生の声だ。


「おとぎ話はいつも不思議なものですね」と先生はにっこりと微笑み、何度も「不思議なものですね」と同じ言葉を繰り返す。

 次第に声が早まる。声色が変わる。

 語尾と頭が重なり、音は壊れたカセットテープのように繰り返された。


 聴覚が埋め尽くされていく。

 じきに風や草木の揺れる音も聞こえなくなった。

 またしても、あのプールに全身を沈めた時のような感覚がおとずれた。

 僕の聴覚は朦朧に支配された。

 愛らしい妖精は僕の目の前で「ねえ、聞いてるの?」となにやらぷんすかと頬を膨らまし怒っている。

 何か僕に話しかけたのだろうか、だが全く聞いていなかった。

 金色の長い直毛をなびかせ、虹色の羽を振るわせ、こまめな身振り手振りをまじえて何かを訴えている。

 その様には、見る者すべてが口元をだらしなく緩めてしまうことだろう。


「ねえ」


 僕は彼女に話しかけた。


「おとぎ話って、ほんとかなあ……」

「おとぎ話?」


 彼女は質問の意味がわからず首を傾げた。


「ごめんね……」


 僕は彼女に囁いた。

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