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この愛らしい妖精を食べれば強くなれますか?(キリアム②第二原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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第12話 妖精の秘めたる逸話

 彼女は真っ白な、綺麗な肌をしていた。

 背中には特徴的な、虹色に輝く半透明の羽が生えている。

 雑多な布で胸と下を隠してはいるが、肌の露出が多い。

 ふくれっ面をしていて、なにやら怒っている様子だ。

 小さな生き物が腰に拳を当て、葉っぱの上で仁王立ちしている。


「お前、この森の者じゃないな。その姿、まさか人間か?」


 彼女は小さな体でありながら、声はよく通る方だった。


「君は一体……まさか、妖精?」

「妖精で悪いか。……なんだ、なにをじろじろ見ている、気持ち悪い奴だなあ」


 口が悪い。

 だが、なんとも可愛らしい生き物だ。

 背中の羽が微かに揺れ動くと、花のような甘い香りが漂った。

 その香りに誘われるように、僕は興味本位からそっと手で触れたくなった。


「なにをする!?」

「うわっ!」


 指でそっと触れようとしたところ、彼女は羽を激しく振るわせ、すると背中から鱗粉を放った。


 それはまる金粉のようだ。

 その小さな羽から飛び出しても不思議ではないほどの少量だった。

 触れた指先に痛みを感じ、確かめてみると皮膚が少し少しただれていた。


「これは……酸?」

「お前、私を襲うつもりだな!」

「え……お、襲う!? 襲わないよ、なんでそんな……」

「この森は今おかしいんだ! みんな誰かを襲おうとする。お前もそうなんだろ!」

「いや、僕は襲わないよ!」

「…………本当か?」


 妖精は恐る恐る、探るような上目遣いで訊ねた。


「……ああ、本当だよ」


 僕はできるだけ優しく微笑みかけた。

 なぜか「信用してもらいたい」という想いが込み上げた。


 僕はふと、先日の授業のことを思い出していた。

 それは新学期が始まって一週間後の、僕にとっては最初の授業だった。


 〇


「お兄ちゃん、学校はもういいのですか」

「いいもなにも、仕方ないだろ」

「騎士学校のことではなくて……」


 その日は家を出る直前まで、ミーナとそんな会話を続けていた。

 ミーナは平民校でもいいから僕に学校へ行ってほしいのだろう。

 妹に心配されるとは情けない話だが、ミーナの言う通りだ。

 それ以外に突破口はない。


 この国では15歳になるその年から、子供は学校に通うことになる。

 義務教育だ。

 騎士学校や羽織士育成学校は受験が必要であり、何もしなければ工房学校へ入学させられる、というレールが用意されている。

 つまり最底辺なのだ、銀色の定規学校は。

 国民の多くが年齢性別に関わらず、一応銀剣を打つことができる。


 僕はその日の時点で、既に一週間ほど工房校を欠席していた。

 入学通知は来ていたし、教科書を揃えろとか、奨学金についての資料だとか話が入ってきてはいた。

 それらをほっぽりだし、僕は家でミーナと自堕落に生きていたのだった。


 〇


 教室へ入ると誰もが「あいつは誰だ」とでも言いたげに、僕に視線を向けた。

 席がわからず、その場に立ち止り教室を見渡した僕は、じろじろ見られ続けることに耐え切れず、先生が来るまで廊下で待っていることにした。


 そして、席を教えられて腰を下ろした最初の授業が、偶然にも「妖精」についてのものだったのだ。


 厳密には、本題は妖精ではない。

 クリーチャーの話から始まり、彼らに効果的な銀剣の刃に含まれる成分――銀の話が最初にあった。

 メインはあくまで銀剣だ。

 その過程で、世の中には人間ではないがクリーチャーとも区別される生き物が数多く存在しているという、生物学的な話を余談として先生が始めた。


「妖精はこの世界における不思議の一つです。人間のように魔力を有していないにも関わらず、体のどこからか火を出現させたり、また、ときに傷ついた者を癒やすこともできるのだとか――」


 他の生徒たちの興味は薄く、だが僕にとってはそうでもなかった。

 というのも、そのあとに先生が興味深いことを言ったのだ。

 本はこれまでたくさん読んできたが、それは意外にも僕の知らないことだった。


「ときに古代の人間はこの妖精を食べていたそうです。体内に取り込むことで、彼らの力を自分たちのものにしようと考えたのだとか。その真相はわかりませんが」


 先生はくすっと笑って「おとぎ話はいつも不思議なものですね」と付け加えた。

 底辺で新たに知識を得られるとは思っていなかった。


 〇


 あくまでおとぎ話だ。

 だが僕にとっては迷信やおとぎ話で終わっていい話でもなかった。


 僕はもう、力の求め方すらわからなくなっていたからだ。


 力と富、名誉は、僕の中で列挙できるものだ。

 度合にもよるが、騎士学校に入ればその三つが約束される。

 少なくとも今の薬屋生活から解放され、より豊かな暮らしが手に入るだろう。

 おいしいものが食べられる、ミーナに女の子らしい服を買ってやれる、社会的な地位も得られる。

 順風満帆な未来とはこのことだ。


 だがその未来を絶たれてしまった僕にはもう、ビジョンが描けなくなってしまっていた。

 日に日に時間だけが過ぎていく。

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