第1話 入学式の不法侵入者
「平民が入れる訳ねえだろう!」
僕は怒鳴り付けられ、警備員に蹴飛ばされた。
自分のような者は、この学び舎の門すら潜れないらしい。
頭にきた僕は、歯茎を見せ睨みをきかせた。
だが警備員は鼻で笑うだけだ。
片手間にあしらうと持ち場に戻った。
平民根性が染みついているのか、僕は怒るよりも先に諦めていた。
ウォールハーデン騎士学校は貴族御用達の名門校だ。
一介の平民には学内へ踏み込む余地すらない。
騎士は僕にとって幼少の頃からの夢であり「いつか必ず」とそう思ってきたが、どうも無理だと薄々は気づいていた。
旧市街の乾いた区域に佇む薬屋。
それが僕の家だ。
玄関を開けるなりミーナが顔を出す。
ミーナは長い茶髪が綺麗な一つ下の妹だ。
どうも口元の血が拭いきれてなかったらしく、僕の顔を見るなりミーナは心配そうな顔をして悲しんだ。
「なんでもない」
何か言われる前に僕はそう言った。
「また行っていたのですか」
「…………話だけでも聞いてもらおうと、そう思っただけだ」
僕がそう言うと、ミーナは同情の視線を向けた。
「でも魔力がないんじゃそもそも無理か」
騎士には魔力が必要だ。
だけど僕の体には、生まれつき魔力という概念がない。
それさえあれば、あるいは平民でも入れたかもしれない。
中には貴族のコネを使って入る奴もいると聞くし。
「レアーナは何と?」
「まだ何も言ってない」
レアーナ・ゴールドバーグ。
それは僕らの幼馴染だ。
金色の髪をなびかせて歩くその姿は、僕らが嫌う貴族の風靡だが、レアーナは特別だ。
「明日からレアーナは騎士生だ。僕はただの……平民校の生徒」
「ですがもう、どうしようも――」
「ないな。分かってるさ」
だけど……。
それ以上は言わなかった。
ミーナの横を通り過ぎ、その日はもう自室へ籠ることにした。
明日は入学式だ。朝なら門が開いてる。
上手くいけば校長に会えるかもしれない。
いや無謀か。
でも諦めきれない。
〇
翌朝、僕は騎士学校の門の前に来ていた。
長者の列が門の中へと続いている。
薬屋を営む我が家では、年に一度感謝祭を開き回復薬を安く売ったりする。
その際、この少しばかり上等なローブを身に着けて接客する。
これで列に混ざれば誰も僕が平民だとは気づかないだろう。
同じ人間なんだ。
上手くいくはずだ。
上手く校内へ侵入した後、ひとまず参列者の群れに紛れ込んだ。
校門は常時解放されており、警備員などは参列者の列を管理しなければならず、今日ばかりは昨日の警備員も見当たらない。
この期に及んで、何か襲撃を企む者などいないだろう。
テロなどありえない。
入学式は一大イベントであり、敷地内には上級貴族や凄腕の騎士生、今まさに現役で騎士として公職に勤めている者たちも集うらしい。
そんな中、無断侵入を図る者などいるわけがないだろう。
いや、一人ここにいたか――。
僕だ。
さらに新入生に紛れ込み、屋外の式場へと辿り着いた。
平静を装えば、僕だって真っ当な一般市民だ。
そこで、遠くにレアーナの姿を見つけた。
壇上の上だ。
一体どういうことなのか。
「新入生代表、レアーナ・ゴールドバーグ」
「はい!」
どこからか司会者の声が聞こた。
え、新入生代表?
どういうことだ。
僕は何も聞いていない。
レアーナは高らかに返事をすると、懐から紙を取り出し謝辞を述べ始めた。
上品な嬉々とした態度で、注目する皆へ視線を向ける。
練習したのだろうかか。いつからだ。
「――お前、ここで何をしている!」
背後から突然、怒鳴り声が聞こえた。
一瞬で式場の雰囲気が一片し、騒然とする。
参列者が一斉に後ろへ振り返った。
焦りを隠し、恐る恐る振り返ると、それは昨日の警備員だった。
門にいなかったから今日は非番かと思っていたが、どうやら衛兵に回されていたらしい。
甲冑を身に着けている。
さらに騒ぎを聞きつけてか、追加で2人、衛兵の走って来る姿が見えた。
「え、何って参列ですよ、見たら分かるでしょ。新入生ですよ、新入生」
「嘘をつけ。お前、昨日の小僧だろ」
すっかり、バレてしまっていた。
ウォールハーデン騎士学校は未来の銀騎士を育成する機関だ。
銀騎士とはこいつが手にしている銀剣と、リトルバースという特殊な技を扱う国家騎士のことである。
「ぼ、僕は校長先生に会いたいだけです」
「ふざけたことを抜かすな、学内への不法侵入は大罪だぞ。足を切り落として通えなくしてやる」
蔑む目つきと怒号。
銀剣が容赦なく振り下ろされた。
僕は剣の動きに集中し素早く避けて見せた。
このくらいなら見切れる。
森での散策で鍛えた反射神経と身体能力のおかげだ。
クリーチャーに比べれば、こんなものどうってことないはずだ。




