第七話「突然の不幸というものはたくさんある」
砕白殿でまた住み込みで筋トレをしようと考えていた矢先、絶対に唐突なことを言われてしまった。
「なんでお前ら俺の御殿に帰ってきてるんだよ」
「え?だって特訓するんじゃ?」
「はぁ?なに言ってんだ、俺との特訓は終わった、だから俺の御殿にお前らの居場所はない!」
きっぱりとそう言われてしまった。なんか寂しい....じゃなかった、俺らはこれからどこに住めばいいってんだよ。
俺は心の中で文句を言う。
「ほら、帰った帰った。住むとこぐらい自分で探せ」
「ほならそうさせて貰うか。俺も行く当てがあるしな」
永遠は仕方なくという感じにそう言ったようだが本心はきっとここを抜けたかったんだろう。
なにせ一つの事に長続きできない永遠が筋トレをずっとやらされていたのだ。抜けたくもなるのも頷ける。俺は違うがな。
「俺を置いていくのか?永遠!」
「親友だからこそ、背中を預ける相手だからこそ一旦離れるんやで」
こいつ....口ではこんなことを言っているが泊めてくれる所が一人までだったんじゃないのか。
少し焦りと動揺が見える永遠からそう感じ取ってしまう。
「さいなら~」
永遠は早足で消えていった。なんなんだあいつ、奢るってのはやっぱ無し。
さてどうしたものか砕白殿には住めなくなった、泊めてくれそうなところは....あ、そう言えば一人いたな。
でもあいつどんな顔するだろうか。
俺はその目的の人の場所へ向かった。せめてもの温情で絶対がくれた俗瓏棟の地図を頼りに。
にしても皆翼生えてるのに俺は自由に出せねえなんてな。まぁ、永遠も無いけど。
それにしてもここは俗瓏棟の中でも田舎なんだな、人っ子一人いねぇぜ。
俺は未だに渦迅との勝負に悔やんでいる。あれは悔やんでも悔やみきれないものだ。けど近い内に倒してやる、もう前の俺とは違うのだから。
「ちょっと良いかな、そこの坊主」
後ろから肩を捕まれた。
坊主?たしかに俺は若者だが坊主と言われるまでの若者じゃないだろう。
振り向いて返事しようと思ったところだった。それは感じてしまった。
こいつ、なんて圧だ。今の俺だからわかる、全ての攻撃がこいつは予備動作無しでできる!
「な、なんですかね」
俺は後ろを振り向いた。そこには小柄で150cmもない程のお爺ちゃんが立っていた。顎には長い白髭をたくわえ、顔の皺がよく目立つ。目は細く、衰えた体だがそこには力強さがあった。
俺はなるべく相手の癪に触らないように媚びへつらう態度を取った。だが俺がその行動をした時点でもう手遅れだった。
「ほう、そう来るのかい。そう来るんじゃね。その行動には信念がある、良いじゃろう」
老人は不気味な程に優しくそう言った。
まずい....この爺、殺気が強くなってやがる。このままじゃ殺される!
「アバンチュール!」
俺はできるだけ速く魂模様を砕いた。
その瞬間には俺の左手の小指はなくなっていた。
「ぐぁぁぁ、くっ」
この爺、指を切り落としてはいるが、刃物が見当たらない。どうゆうことだ。
「お主は気づいているじゃろう、私の殺気に。ここで一つ、お主に権利をやろう」
「権利?」
「あぁ、一生じゃんけんでパーしか出せない手になるか、私の頼み事を聞くか。良い権利じゃろう?」
こいつ、何言ってるんだ?頭にアイスクリームでも詰まってんのか?
けど仕方がない。俺だって指を切り落とされたくはないんだ、相手の要求をできるだけ飲もう。
「ちなみに頼み事って?」
「お主ぃ!誰のおかげで今口が開けると思っているのだ!私のおかげだ、そうに違いない。先程も伝えたはずだ、権利は二つしかないと!そして頼み事の内容を聞いて考えるなんていう権利は存在しない」
老人は口調を変え、急に怒りを露にしながら怒鳴り付ける。耳が痛い程に。
老人からしたらこの怒りは自然な事だと思っていた。だが隣はそれを普通ではないと感じた、老人はさっきまで優しい声で話していたのに急に怒り始めたのだから。
「ぐぁッ」
爺は俺の左手中指、薬指をまた切り落とした。
俺はその現実がただ耐えられずにいるのと、直視できないでいた。嘘だろだったり、何故だったりが考えることすらできない。
そこまで俺の精神はこの事実に受け入れることはできなかったのだ。
「ほほう、もう壊れたか。随分早いね」
受け入れることはできない、が目を逸らすことならできる。
「てめぇの腕貰ってやるぜぇぇぇぇっ!」
俺は爺の脇下に刀を入れ、肩にかけて斬った。
そして俺の刀は爺の右腕を斬ることに成功した。
爺のかつて右腕があった場所からは大量に血が吹き出している.....と思っていた。
「なにぃぃぃっ!こんな、こんな産まれて間もねぇクソガキに腕を斬られたのかぁ!屈辱だぁぁ!
この借りは返そうじゃないか。そう、お主の幸せを壊してでもっ!」
爺の右肩からは何も吹き出ていなかった。それどころか痛がってすらいない。その光景は俺をある答ええと導いた。
「お前っ!人間じゃねぇな!」
「だからなんだと言うのじゃ?」
爺はすました顔でそう答える。
今の戦況は五分五分、腕を無くして冷静な爺と指を落とされて現実から逃げている俺。
だが俺はめげない、助けも呼ばない。呼んだところでこんな雲の上の田舎道に来ねぇだろうからよ。
「さぁ、続きを始めようかな。お主はどちらの権利を所望する?」
「俺は後者を選べば生きれるんだろ?」
「お主ぃ!権利に無いことは.....」
「まぁ良いだろ、ちょっとぐらいは話そうぜ」
「それもそうじゃな、後者を選べば生き残れるわい」
ここで俺は正しい選択肢を選ばないと行けない。未来の自分へと繋げるルートを俺は探さないといけなかった。だがもうその必要はない、権利はもう決まっているっ!
「じゃあ選択しようか、俺が選ぶ権利は一つ」
「なんじゃね?」
「そうだな、選ぶとしたら、お前をぶっ殺してやることだ!」
「愚かな選択だっ!」
「愚かかどうかはその目で審査してもらおうじゃないの!」
戦いの火蓋は再びこの俺の言葉の刀で斬って落とされた。隣は地面を強く蹴り、爺に近づく。
「愚かな猿よ、悔いろ。そして私が名前を言ったことを嘆け!
私はバランス・アン・バランス
そしてこれが私の戦染、空中に浮かぶ剣だ」
二人は激しくぶつかり合う。隣は刀で斬って斬って斬りまくり、バランスの剣は隣の刀に追い付いて跳ね返している。
二つの力は拮抗し、一向に決着が着かないようにも見えた。ずっと金属音だけが響いており、どちらも相手に傷を付けていなかった。
「仕方ない、これは十分に仕方のないことじゃ。そして悲しいよ、お主が死んでしまうことがっ!」
バランスは何を言っている....?俺が死ぬ?仕方がない?
気づいた時にはバランスは掌を胸の中心に当てていた。
その瞬間激しい突風が吹く....いや違う、これは圧だ。
バランスの胸は光って、宝石のように輝いている。見覚えがある。色は違っているが胸に宝石、そう、堕だ。
「戻解 諸刃!お主の人生による最後の祭りじゃ。とくとご覧になるがよいわ、これが私の力であることを!」
バランスの胸の宝石は段々大きくなり、バランス自身を包んでいく。
彼の体は弱々しいが力強い体から緑色の鎧に変化していた。ごつごつとした鎧はまるで西洋騎士を倍大きくしたようだった。
「これが私の真の形じゃ、そしてお主は殺した。残念じゃったな、突然の不幸というものはたくさんある」
殺した?何を言っているんだ?確かに俺は今生きているだろ......
「なんで、下半身の感覚がねぇんだよぉっ!」
俺のお腹から下は斜めに斬られ、切れ込みができていた。
まずい、上半身が落ちるっ。
隣の上半身は斬られた下半身から離れ、落ちてしまった。彼の目には自分は動いておらず、景色だけが動いている光景が写っただろう。その絶望感を彼は味わったことがあった。
堕に家を襲われ、家族がめちゃくちゃになった時と同じ絶望感がそこにはあったのだ。
冷たい地面、離れ行く血液、ピクリとも動かない体には憎悪よりも悲哀に満ち溢れていた事だろう。
彼は涙した。だがそれは今から死ぬことでも、目的が達成できないことでもない。彼自身の弱さに涙したのだった。
「私が今から向かう場所は金嬢殿、とだけ伝えておくとする。冥土の土産という言葉があって本当によかったな、お主」




