第三話「決意」
かつて天使達は堕退治に苦難を強いられていた。
それもそのはず、家にいても襲撃され、排泄をしても襲撃され、就寝する時も襲撃されていた。
そこで天使達は自分達の力を掛け合わせ、天に大地を築き上げた。
天の大地は戦染を持つ者のみにしか立ち入る事を赦されない。
この偉業は堕退治にとって大きな功績を残し、天使達の繁栄に繋がった。
◇◇◇
金髪の女性が手の甲を前に出した。
その手には人差し指にきれいな金色の指輪がはめてあった。見るからに純金の高そうな指輪である。
指輪には翼やらなにやらが彫ってあってきれいだ。
「昇」
その瞬間、目の前に天へと昇る、白く光る階段が現れた。
透き通っているせいか、全く歩きたいと思わない。これは高所恐怖症じゃなくても登るのを躊躇うだろう。
「どうする、俺行く事に関して咄嗟に了承しちゃったけどこれやっぱ逃げた方が良いか?」
うっかり了承してしまったが、こんな怪しい階段に登りたくもないし、女性はかわいいが胡散臭すぎる。正直行きたくない。
「荻家、お前も見たやろ、堕を倒した時の速さ」
「あんな速度だと俺らもすぐ追い付かれるで」
永遠は立ち上がる、すっかり腰が抜けたのは治ったようだ。
にしても確かに、あの速さで追いかけっこなんかしたら1000回中やっても1000回追い付かれるだろう。
これは素直に従うしかないのか。
「なに話してるのよ。ほら、さっさと行くわよ」
俺達が話し合っているせいか急かせてきた。
こんな状況なのだからもうちょい整理する時間くれても良いのに。
その言葉通り俺は階段に足を乗せ、登った。
だが三段目を登る途端、景色が変化した。足下を見ると階段ではなくではなく白い地面に変わっていた。
これは雲だ。
純白に輝く雲がコンクリートのように硬い。
もこもことしたわたあめ雲というものはどこへ行ったのだろうか。
今、俺は雲の上に立っている。比喩でもなければ幻覚を見ているわけでもない。
紛れもなく俺は雲の上に立っているのだ。
「あの~、なんで俺達は雲の上に立っていられるんですか?」
この不思議な状況は一般人の俺からしたら幻想的すぎる。
本来、雲というものは乗れる物ではない。
水蒸気が冷やされて小さい雨粒だったり、氷晶が集まっている物だからだ。
「そんなのも知らないわけ?」
「私達のような特別な力を持っている者、つまり天使達は、ここ、『俗瓏棟』に立つことを許されているからよ」
特別な力...。
戦染の事だろうか。戦染とは堕達と戦うことができる力だ。これの影響で雲の上に立つことができるのだろう。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね、私は席天第2832期、藤枝箕実よ」
「私に会えたこと感謝すると良いわ」
「は、はあ、よろしくです」
しかしなんで箕実はさっきからこんなにも上からな物言いなんだ?俺の事嫌いなのか?
それにしても永遠、会話に参加しないと思ったら歩きながら寝てるじゃないか。すごいな。
あんなに泣いたからこんなに眠いのだろうか?
「永遠、起き....ってうわ!」
永遠は起こそうとした俺の手を体ごと押し退ける。力は結構強く、そのせいで俺は転んでしまった。
「いったた、永遠もうしっかりしてくれよ」
ってあれ暗いな、しかもなんだこのクマの絵、
妙に可愛いクマだな。
茶色のお耳にくりくりのおめめをしたクマが白い布にプリントされている。
まるで幼稚園の子供が履くようなパンツにプリントされているクマのよう...な..
おかしいぞ、まさか...そんなベタな事あるわけが.....
「ちょっと!早く離れなさいよ!この変態!」
箕実は暴れまわって俺の頭を蹴り飛ばす。
その蹴りの威力は凄まじく今にも頭が砕けそうな勢いだった。
頭が足の近くにある。ということは
そう、俺が見ていたのは紛れもない箕実のおパンティーだったのだ。
「待て、冤罪だ!俺は会って数十分そこらの人のパンツを覗くような変態じゃない!」
俺は柄にもなく焦って弁明をしてしまった。
だがこれは冤罪なのだ。きちんと話して理解をしてもらえれば許して貰えるはずだ。
「嘘付かないでよ!この変態!」
箕実は顔を真っ赤にして俺の体を強く殴り付ける。手にはめている指輪がたまに刺さってすごく痛い。
***
「ほら、着いたわよ」
どうやら目的地に着いたようだ。
一方的に箕実に殴られていたらいつの間にか着いていた。
俺は言葉を失った。雲の上に中世ローマのような建物がずらりと並んでいるのだ。
圧巻。その言葉が相応しかった。
数えきれない程の家らしき物があり、街にはたくさん人間がいた。
がその人間達には翼が生えていた。
本当に今が現実なのか未だに信じられない。
「街には着いたけどまだやんなくちゃ行けないことがあるの」
「やらなくちゃいけないこと?」
「あなたたちは特異点なのよ、だから上帝に報告しないといけないわけ」
また歩くのか、そろそろ歩き疲れて休憩したいところだ。
俗瓏棟はありえない程に大きい、さっきから何時間とあるいているけれど大地の終わりが見えやしない。
街に着いてからはそこかしこに建物が建ってある。街だから当然なのだが雲だから当然じゃない。
うーん、どうしたものか。この幻想的な状況に対して何も考えずに受け入れても良いのだろうか。世界的大発見な気がしてならない。
「おやおや、帰ってきたのかね箕実」
「ハっ!上帝!」
おばあちゃんの声がしたと思ったら箕実は瞬時に頭を下げ、膝を着いていた。
だれなんだ、このおばあちゃんは。見るからによぼよぼだがその立ち姿は箕実以上の圧を感じてしまう。だがその圧に反して心の内でもつい話してしまいそうな包容力があった。
ここまで考えて本能で気づいてしまう。このおばあちゃん、もとい上帝というのはここの長だ。
「まあまあ、頭をあげなさいな」
「失礼します」
箕実が立ち、面をあげると顔つきが変わっている。先程までの俺に対しての気遣いが全くない顔ではなく、眼光はとても鋭い物になり口元が一気に引き締まっている。手足に関しては真っ直ぐという言葉が足りないレベルだ。
「おっと、そちらの方々は誰だい?」
「こちらは下界出身にも関わらず戦染に目覚めている者達です」
「下界出身にも関わらず、永遠どうゆうことだ?」
「なんで俺に聞くねん」
何もわかっていない俺達を見てか、箕実は面倒臭そうに説明をした。
この世界は天使と人間で大きな違いがある。戦染を覚醒するかしないかだ。
天使は15歳頃になると翼が生え、そこから戦染に目覚め、堕達と戦う力を身につける。
だが人間は15歳になろうがもちろん何も覚醒はしないし、翼なんか生えない。そして天使達は翼を自由に出し入れして下界に降りてきてはそこで堕達が暴れていないか調査をしているらしい。
だが俺達はおかしいのだ。俺に関しては戦染を持っている。
永遠は戦染を持っている素振りを見していなかったのに雲に立てている。
それは俺と同じで戦染を獲得したということだ。
渦迅が同じ匂いがすると言っていたので驚きはしなかったが。
「だから特異点なのよ」
「じゃあ、俺らは一体何をすればいいんだ」
「そうや、こないなとこ来させてすぐ帰らせるなんてことあらへんやろうしな」
永遠が俺の言うことに加勢する。もう眠気は覚めたそうだ。
俺らはこの後何をすれば良いのだろうか。
「自分達で決めても良いわ、でも世界の秩序の為戦染とそれに関する記憶は消させてもらうわ」
戦染と記憶を消す、そりゃあそうか。戦染を下界で使われても困るだろうしな。
でも俺はもう決まっている、渦迅とそうゆう約束をしたんだ。一度決めたことを蔑ろにしたら漢が廃るしな。
じゃあ俺の選択肢はこれしかない。
「俺は堕に家庭をめちゃくちゃにされたんだ」
「目の前で家族がぐちゃぐちゃになっている所を見るなんて辛いこと他の人にしてほしくなんかない」
「だから俺は堕を滅ぼす為にあなた達の仲間になる!」
最初から決まっていた事だ、この選択に後悔はない。俺はこれから堕を滅ぼす為に尽力しよう。
だが永遠にまでこんな重荷は背負わせられない。
ここからは俺一人で行こう。
「何言うてんねん、一人でかっこつけてんのとちゃうぞ」
永遠の喋り方に少し怒気がこもる。こんな永遠を見たのは初めてだ。
「俺はな誰かに操られて親友のお前を刺したんやで」
「俺の大事な親友傷つける奴はな、いっぺん殴らな気が済まんねん」
「俺もやるで!堕退治!」
俺は間違っていた。永遠は親友だ、大切な友達ではなく、背中を預ける相手。
それを再認識させられた。
「そうだったな、頼りにしてるよ」




