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第一話「戦染」

        2000年1月13日



カチカチカチカチカチカチ

ビビビビビビビー



 隣の部屋にセットしておいたタイマーが鳴り響く。



「んっむんんー」



 やっぱり朝は良い物だな

 僕は朝が好きだ、朝起きた時ののんびりとした時間や日が当たった時の暖かさが心地よい。



 そういえば今日は大事な日だったな。

 急がないと、今日は永遠(とわ)の葬式の日だ。



「よいしょ、これで着替えは完璧だな」



 僕は永遠の葬式に間に合わせる為に足早に朝支度を済ませる。

 鏡の前で喪服に身を包んだ自分を見て、永遠が亡くなった事をひしひしと感じる。

 


 だがなぜか涙は出なかった、亡くなってから日が経ってるからだろうか。

 永遠が亡くなったという現実に受け入れ始めてるからだろうか。



 そんな事を考えながら階段を降りる。



「あっおはよう隣、朝食できてるわよ」


「おはよ、母さん」


 

 階段から降りると母さんが朝食の準備を終わらせ、テーブルに並べていた。

 香ばしく、輝かしいそれは僕の目を一瞬で釘付けにした。



 目玉焼きだ。

 僕が朝が好きなのは大方これがあるからである。



 そして僕は大好物の目玉焼きを食べ終え、永遠の葬式へ向かう。



「じゃあ行ってきまーす」


「行ってらっしゃーい、気をつけてねー」



 買ってから何年も経った自転車が音を鳴らしながら坂道を登っていく。

 


 ようやく辿り着いた。永遠の葬式。

そういえば永遠の死因は何だったのか、いつ頃に亡くなったのか覚えていない。



いつだったのだろうか。




       2025年11月23日




 小粒の雨が素早く地面に落ちていく音がよく聞こえる。まるで耳元で雨粒が落ちてるみたいに。

 景色が変わった。さっきまでは永遠の葬式場に着いた筈なのに今では土砂降りの雨のなかにいる。



 どういうことか全くわからなかった。だがどこに居るのかは一目でわかった。ここはいつも僕が登下校の時に使っている裏道だった。



「荻家....俺..なんでこんなことしてはるんや....すまん!」



 永遠が今にも泣きそうな声で僕に謝っている。本当に何が起きたのか皆目見当も付かない。



 なんで俺は

ーー血だらけで横たわっているのか。




そして何故血が付いているナイフを永遠が持っているのか。

 

 

 そこで僕の意識は途切れた。



***



「んっんん」

 

 

 気が付くと辺りは一面真っ赤で覆われているドームの中にいた。



 ここはどこだろうか、こんな所見たことがない。

 そもそも日本にこんな所があるとしたらそれはマグマの中だけだろう。



「貴様には運命を抗う覚悟はあるか?」



 僕が困惑に頭を巡らせていると、野太い声が聞こえた。

 運命に抗う?どういうことだろうか。しかもいつの間にか永遠に刺された筈の穴が無くなっていた。



 だが幸運な事に目の前に人間がいる、色々聞いておこう。



「.....ここは?あと、あなたは?」



 困惑状態の僕は目の前にいる赤い武者のような男に問いかけた。



「ここはお前の『魂の染区(アニカラート)』だ」


「俺の、アニカラート??」



 コンビニの名前か何かだろうか、聞き慣れない言葉が聞こえてきた。

 意味がわからない。



「....あの」


「なんだ?」



 身長が二メートル半を越えそうな程でかい武者は野太い声を響かせる。



「アニカラートってなんですか?」

 


 僕は恐る恐るアニカラートというものを聞いてみる。



「知らないのも無理はない」

魂の染区(アニカラート)とは相棒の心の中、つまり精神世界の事だ」



 相棒?それは置いといて魂の染区とは俺の心の中らしい。

 益々意味がわからん、だがこの人は何か知ってそうだ。



 色々聞いてみよう。



「••••ということだ、わかったか?相棒」



 色々聞いてみた結果、漸く考えはまとまった。

まず僕は力に目覚めたらしい。

その結果自身の心の中に入っているそうだ。



 そしてこの武者の名前は『渦迅』というらしい。どうやら僕の力の権化だそうでその権化の名を『信念体(クレド)』と呼ぶ。



 けどどうしても分からなかった事が二つあった。それが永遠の葬式についてと永遠が僕を刺したことだ。



 まず永遠の葬式に関してだが結論は夢だと思っている。昨日はちゃんと背中を叩かれながら駄弁って帰ったしちゃんと生きていた。なぜ夢の中ではそれを忘れていたのだろうか。



 次に永遠が俺を刺した事だがこれは手がかりがあった。

 渦迅は「永遠からは俺らと同じ匂いがする」だそうだ。


 

「考えがまとまったよ、ありがとな」

 


「では、もう一度問おう」

「貴様には運命を抗う覚悟があるか?」



 そういえばこれを聞くのを忘れていた。

運命を抗う、わからないからこれも聞いておこう。



「運命を抗うってどうゆうことですか?」



「相棒は死ぬ運命だった、だがその運命と共になぜだか俺が相棒の中で俺が生まれたんだ」


「そこで相棒は二つの運命が用意された、一つはこのまま死ぬ運命、二つ目は天使になって俺を相棒の力にする運命だ」



「.....天使になる!?」



 二つの選択肢に天使という聞き覚えはあるが現実には存在しない言葉が出てきた。

 天使って神の使いとか天国の番人とかの非現実的なものだ。



だが魂の染区だって信念体だって非現実だ。ということは俺が二つ目の選択肢を選んだ場合天使になるということか?



「死にたくないので天使にします....」


「よし決まったな相棒!」



 渦迅はにんまりとした笑みをした。

 


 俺は決めた、どうせ本来は死ぬ運命。

天使とやらになって力を使う事を生き方にしようと。



「そういえば、ここからはどうやって出られるんだ?」


「あぁ、そうだったな」

「相棒はもう運命を選択した、ここにいる意味が無くなったな」

「じゃあ行くぞ!気張れよ!」



 その直後僕のお腹に光か?と疑う程の速さで拳を叩き込んできた。

 物凄く痛い、内臓が口から飛びでてきそうだった。



「いきなり殴ることはねえ..だ....ろ...って生き返ってる」


「すごいな何したんだ」


 痛みのせいで目を瞑っていたが開けるとそこにはいつもよく見る裏道の風景が広がった。



「ハッ永遠!」



 後ろを振り向いたが永遠の姿はもう無かった。

刺された時から何時間か経っていそうだ、その証拠に雨が振っていない。


俺は魂の染区(アニカラート)で一体何時間話していたのだろうか。

しかし生き返ったからといってなにをすればいいんだ、渦迅は運命に抗うとか言ってたけど。



「とりあえず家に帰ろう」



 たぶんここは三丁目だ、俺の住んでるとこからそう離れてない。

今夕方だろうから、6時ぐらいには帰れるだろう。



 にしても今日は平凡な僕の人生には似合わない山あり谷ありな一日だった。

 昨日夜に願った事が叶ったのだろうか。だが刺されるのはもうごめんだ。



 そうこうしていると我が家に着いた。

玄関に手を掛け扉を開ける。



「ただいまー」




「あらお帰りなさい、ってなにその赤いの!?しかもバッグないじゃないの!」



 僕のお腹から赤く染まっている制服を見た母さんは驚いてしまった。

そういえば制服が血だらけな事をすっかり忘れていた。

それにバッグも置いてきてしまったらしい。



「あ!やべ」



 僕は必死で言い訳を考える。あれやこれや浮かんできたがどれもしっくりとこない。

 もう適当に言っておこう。



「あ、これ美術の授業中に赤の絵の具がかかっちゃったんだよね••••バッグは学校に置いてきちゃったかもしんない」



 我ながら下手くそな言い訳だ、どうかバレないことを願う。



「そうなの、でもお母さん喧嘩かと思ったわよ」


「心配掛けてごめんね」



 一悶着あったがリビングへ向かう、そこには父さんが鎮座するようにソファに座りながら新聞を読んでいた。



「おかえりになったな、我が息子よ、、」


 

 普通の家庭じゃお父さんが言わないであろう言葉を言ってくる。

 正直この言い方には恥ずかしさを覚える。

この人はこれを恥ずかしいと思わないのだろうか。



「いつまでそんな中二病こじらせてんだよ」



 本当に40後半にもなって恥ずかしい父親だ。そんな言動はやめてほしい。




「ノリが悪いじゃないかぁ、隣」



「今はそんな気分じゃねえ」



 俺は今天使や永遠の事で頭がいっぱいいっぱいなのである。だから父さんとのくだらない話に頭が回らないのだ。


 なんだか疲れてきたな、今日は色々あったからな。

 そう思いながらソファに付く。



「お兄ちゃんがお父さんのノリに合わせたことなんてないでしょ~」



 そりゃそうだろ。

こんなノリ、もし今の状況じゃなくともやりたくはない。



「じゃあお前はこんなことできんのかよ、咲」



「できるわけないじゃない、こんなこと中学三年生の女の子がするもんじゃないわ」



 お前もじゃねえか、というツッコミは心の中に留めておこう。この妹は口論が強い、俺は一度も勝ったことがない。



「帰宅早々父親のノリの愚痴を言うんじゃない、お父さん悲しんじゃうぞ」



「そーゆーところだぞ」


 

 そろそろお腹が空いてきた頃だな。

夕飯の匂いもしてきたし丁度良い時間に帰れたな。



「隣ー、夕飯の準備手伝ってー」



 キッチンの奥から母さんの声が聞こえてくる。

夕飯の準備めんどくさいな

 


 そう思っていた直後、轟音が鳴り響いた。

まるでなにかが衝突したような音だった。

 でも家はどこも崩れてない。どこか事故があったのだろうか。



「うわ!」



 考えていた所に息ができなくなる程の圧が隣を押し潰す。

その圧で彼は地面にくたばってしまう。



 まるでアフリカ象が乗ってきたようだ。

実際にアフリカ象が乗ってるわけではない。

ましてや物が背中に落ちてきたわけでもない。



 だが彼はその重さに皮膚と臓物は今にも潰れそうになる。

周りの空気、床、棚等はその圧に恐怖するようにふるえている。



 一体どうなってるんだ。



 耳にこの状況で聞いてはいけない音が入ってくる。

 これは骨や内臓が潰されたような音だった。

けど僕は痛い所がない。だとするとこの音の正体は。


「うがぁぁぁぁぁ!」



 僕の家族が一斉に悲鳴をあげる。先程の潰されたような音の正体は父さん、母さん、咲の骨や臓物が潰された音だった。



「みんなっっ!」



 外は薄暗くなってきており、窓に入り込む光が少ない。

そのせいなのか、あるいは現実を直視したくないがためか、家族の顔がハッキリ見えない。



 そこにはいつもみたく太陽のように暖かい家族は消えており、虚ろな目をして床に伏している

"男性一人と女性二人"の姿があった。


 おそらく父さんと母さんと咲だろう、信じたくないがそうなのだろう。

 ピクリとも動かない指、一ミリ足りとも靡きもしない髪があるのだ。



「•••••••••え?父さん?母さん?咲?」



 あまりにも平和な空気に満ちていた家は一瞬にして消えていった。

だが隣の心はそれに追い付いていなかった。

 


まるで火を着けた薪がだんだん灰になっていくように、そんな絶望が彼の心をゆっくりと蝕んでいく。



「••••••は?」



 隣は驚いた。それもそのはず、家族を見ていた彼の目には3メートルにでもなるであろう化け物が写っていた。

その肌は紫色で、ムキムキという表現が生易しくなるほど筋肉が浮き上がっていた。



 次に印象的だったのは顔がミミズのようだったことだ。人間の本能が嫌悪意外の何も無くなるような感覚の顔つき。



 そして直感する。この重い圧の正体、それはこの化け物なんだと。




「ドァァァ」


 化け物は家族の上に乗っかっていて今にも父さんが潰れそうだった。


 あんの化け物父さんの体を足拭きみてぇに踏みつけやがってっ.....



「ざけんな!父さんの体から離れやがれ!」



 けど僕もここから動けない、どうしたらいいだらうか。

僕は目の前で家族が死にそうなのに動いて助けることすらできないのか。


 

 くそっくそっ、僕の体動けよ!




(んなっまずいな。仕方ねえ、今の信念じゃあ俺と"相棒の生命力"を奪うだけだが死にそうになってんならどのみち"あれ"をするしかねえ)



 渦迅は魂の染区(アニカラート)からずっと相棒を見ていた。

だからこの状況を見ることもできたのだ。まさしく幸運だっただろう。


 

「これを使え!」



 頭の中に渦迅の声が聞こえた。使えと言われた直後に僕の右手には刀が握ってあった。

 テレビの前でしか目にすることがないと思っていた刀。


 

 その刀の赤い鞘は俺の右手を燃やしてしまいそうなぐらい熱いが、なぜだか痛みや苦しみはなかった。

 その代わりに自ずと俺に力を貸してくれるような感覚がした。




「それは"戦染(せんせん)"ってんだ。説明してる暇はねえ!それを握ってる今なら立てんだろ!」


「本当に立てる!?」



 さっきまで体が床にめり込みそうなぐらい重かった圧が嘘みたいに無くなった。

 それどころか前よりも体が軽くなったような気がする。



「さぁ!目の前にいる化け物を倒せ!」



「あぁ!」



 僕は渦迅にそう言われ、足に力を込めて化け物に向かって走っていった。

 体がすごい軽い、今50mを走ったら軽く3秒が出そうだ。



 その勢いのまま化け物に刀を振り下ろす。



 鉄と鉄がぶつかったような音が聞こえた。僕の振り下ろした刀は簡単に弾かれていた。



 硬い、全然刃が通らねぇ!鋼鉄かってぐらい冗談にもならない硬さだぞ。



「「「ダァァァァ」」」



 化け物は鼓膜が破れそうな程、大きい声を出して僕のお腹に一撃を入れてきた。



「ぐへぇっ!」



 物凄く痛い、なんだこれは。

車が突っ込んできたみたいじゃないか。

僕が衝突した壁も粉々になっている。



「相棒!そんなんじゃ刃は通らねぇ、奴の弱点を捜し出して信念で斬るんだ!」



 弱点と信念....

奴の弱点なんかどこに。

よく目を凝らして化け物を観察しよう。



 あの化け物、よく見たら胸に宝石みたいのがあるじゃないか。

あれだ!あれを狙ってやる!



「絶対に父さん達を助けてやる!」



 俺は身軽になった体で化け物の周りを駆け回る。

 一瞬でもいい、隙を見つけるんだ、最高の一撃を叩き込むために。




「「グァォォォォォォ」」



 胸に宝石のある化け物は隣の身長と同じくらいの大きい腕を振り下ろす



 今だ。今なら奴の胸の宝石に一撃を叩き込めることができる!

 そして渦迅の言っていた信念。

この刀で助けたい、それが僕の信念だ!



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 赤く熱いその刀は化け物の胸に刃を通す。



刃が通った!このまま一気に!



「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!」



 胸に入った刃は一気に胸から肩を切り裂く。


  

「ウボァァァァァァァァァ」



 化け物は唸りながら塵になって消えていく。

その塵は天へと昇る前に消えていった。



「ハァ、ハァ、ハァ」



 倒せた、やった。

これで父さん達を病院に連れていけば.....




「まずい、力が出ない......」



 これ本当にやばいやつだ、体全体が麻痺ってやがる。

まだ俺の家族がぶっ倒れてるのに.....



「父さん....母さん、さ....き..」



 俺は疲れきってしまい意識を失ってしまった。


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