プロローグ
他人に生き方を問われた時、答えられない者に
"信念"は無い
午後4時31分、空一面真っ赤な光が僕の体を染め上げる。
「今日も学校、疲れたな」
白米のような平凡な日常、人生が辛い人から見たら幸せ者だし、人生が楽しいと思ってる人からしたら普通。
それが僕の人生だ。
好きな物も無ければ何かに一生懸命になれた事がない。
けど僕はこの人生を気に入っている、何も無いからといっても普通の幸せな日常が一番楽しいのだ。
人生山あり谷ありというが僕の人生はまるで農場のように平たく落ち着いている。
「なんや、荻家つまらん顔して」
「なんかあったんかいな」
後ろから駆け足で、僕に心配をかけてくる親友が寄ってくる。
深緑の短髪に茶色の目をした見るからにイケメンな親友。
このイケメン、永遠とは五年来の親友で、髪色うんぬんでいじめられている所を僕が助けたことで仲良くなった。
小学校の頃は顔立ちなんかで持て囃される事が少ないから永遠はこれといった人気があったわけじゃなかったが、中学二年生になり始めてからそれは一変した。
皆は顔立ちの良い永遠に遊びを誘ったり、話しかけに行ったり、そんなことをしているのを度々見かけた。
だが永遠はその誘いにうんともすんともせず、僕の所に来てはくだらない事を話したりゲームをしたりする毎日だった。
「まあね」
「このまま何も起きない人生で良いのかなぁって」
永遠の問いかけに対して、そう返事を返す。
僕はこの人生を楽しく謳歌しているが時たま不安がよぎる。
このまま死ぬまで何かに本気になれず、淡々とした毎日を送っていくのだろうか、と。
そう考えると急な虚しさが心を染め上げてくる。
特段気の弱い性格ではないんだがこの虚しさだけはいつも慣れない。
夜に泣いてしまうことだってあった。
永遠は暗さを打ち消す為であろうか、僕の返事を冗談で返してきた。
「なにもない人生?」
「俺と友達なだけでもう十分大ニュースや、違うか?」
「うわ、さすがにその自意識は引くわ」
ほんとはこんな俺と一緒に喋って、たまに笑わせる為、冗談を言ってくれる永遠が親友として誇らしい。
その度に永遠と親友になれて良かったと心から思える。
「冗談やわ、真に受けんといて」
そう言って、笑いながら僕の背中を叩いてくる。
***
そんなくだらない話をしていたら僕の家が見えてきた。
黒い屋根に白いと茶色の壁、それこそピカピカという訳ではないが古くもない家。
庭にはお母さんが植えたであろうお花がたくさんある。
一目に写る物でバラにコスモス、アネモネに彼岸花。
多種多様なお花だ、その内花屋さんを開くのではないだろうかと思ってしまうほどに。
そして駐車場には黒くてでかい車がドンと居座っている。
我が家を守るかのようにあるのでなんだか頼もしい。
車種はわからないがきっと高いのだろう。
「じゃあ、また明日な」
と、帰りの合図を永遠に送ると、永遠も「おう、じゃあな」と返してくれる。
永遠は後ろ向きで手を振りながら帰路を歩くのでその姿に呼応して僕も手を大きく上げて振る。
僕は玄関に手をかける。
車はあるが、お父さんは自転車と電車通勤なので今は家にはいない。
お母さんもどうやら買い出しに行っているそうだ。
妹の方は友達とカラオケに行くと昨日言っていた。
ということは今、家には僕しかいないということだ。
こんな機会は滅多に無いとテンションが上がって鼻歌をしてしまった。
が結局は変わらない放課後だった。
***
「隣ー!ごはんよー、降りてきなさーい」
お母さんの声だ、スマホをいじっていたらもうこんな時間か、早いな。
「はーい、今行くー」
僕は食べ終わり、夜の支度を済ませる。
その後はいつも通りベッドの中に入って考え事をする。
ーー僕はこの人生を最大に悔いている。
平坦な道しか歩けないこの足、スタートラインからずっと本気を出していない。
この人生にもしライバルが三人以上いるとするならば僕はずっと二位だ。
一位を追い抜かすことが実力でできないように、三位に追い抜かされることがプライドでできないように。
中途半端なその結果だけが僕の人生を物語っている。
何かを成し遂げたいわけじゃない、何もしたいわけじゃない。
誰かに必要と言われたい。
そのちっぽけな承認欲求だけがくすぶっている。
と、考えてみたがやっぱり人生の正解を見つけるにはどうも難しいらしい。
ほんとは僕はこの人生を楽しいと思っていない。いつもいつも何か特別な事が起こってくれと願っている。
白米はやっぱりおかずがあってこそだ。
明日には何か起こってほしいな、そう願って僕は眠りに落ちる。




