第六章 紡がれる言葉と…
吹き抜ける風は爽やかだ。アルコールの匂いの満ちたホールから出て、イオはほっとしたように息を吐き出す。エリル達の所業は連絡し、捕縛及び回収の算段もついた。アズルの憂いもこれで取り払われたことだろう。
「後は、然るべき処罰が下れば……」
イオが小さく呟いた、その時。
「君の思いが、届けば良いのだけれど」
不意に聞こえたその声に、イオははっと息を呑む。気配を、全く感じなかった。反射的に剣を抜き、その気配の方へ視線を投げた。
そこには淡い紫色の瞳の少年が立っていた。帰りそびれた貴族……には、到底見えない。真っ黒なローブを纏い、フードを被った少年。イオたちより少し年下、だろうか。その姿を見たイオは、大きく目を見開いた。その少年は、夢の中で見たあの少年なのだ。"気を付けて"と自分に声を掛けてきた、夢の中で見た少年……
―― こんな偶然があるだろうか?
驚き、固まっているイオを緑色の瞳で見据えたままに、少年は口を開いた。
「君の願いは、届かない。貴族は罰されない。エリルも、他の人達も」
イオの言葉に応える訳でもなく、淡々と言葉を紡ぐ少年。決して大きくはない声なのに、よく響く声……――言葉を紡ぐ彼の瞳が、ぼうっと光っているように見えた。
「君も、知っている。貴族は、罰されない。力を持っているから。暫くは大人しくなるだろう。けれど先は、わからない。それが、今のこの国の、在り方だから」
歌うようにそう紡ぐ彼の声は淡々としていて、表情はまるで凪いだ海のように静かだ。目の前に立っているのにまるで存在感のない少年は真っ直ぐにイオを見据えていた。
「もうすぐ、"変わる時"が来る。気を付けて、天使の子。君は見定めなくてはならない。信ずるべきものは何か。……もうすぐそこまで、時は迫っている」
意味が分からない。彼の発言の意図もわからない。何処か警告じみた、予言じみた言葉。
普通ならば"何を言っているんだ此奴は"と一蹴して終わる案件。しかし、イオは彼から目を離すことができずにいた。それは、目の前の少年を夢で見たからなのか、彼が何か、イオには感知できないような魔術を使っているからなのか。
「お前は、何を……」
イオが口を開くのと同時に強い風が吹き抜けた。目を開けていられず、イオは目を閉じる。
―― 嗚呼、少し、口を出し過ぎた、かな。
閉じた視界の中、少年の掠れた声が聞こえた。
目を開けた時、既にそこに少年の姿はない。まるで、夜の闇に溶けて、消えてしまったかのように、魔力の残滓すらなかった。
「彼奴は、一体……」
それこそ、まるで夢でも見ていたかのようだ。そう思いながら、イオは頭の中に残った、あの不思議な少年の声を反芻していたのだった。
***
任務を終えて城に戻ったイオは小さく溜息を吐き出した。吹き抜けた風に流れた髪をそっと押さえる彼の表情は、清々しいとは到底言えないものだった。
その理由はただ一つ、任務の終わりに出会った予言めいた少年の言葉。謎と不安とを残して消えてしまったあの少年の正体すら、イオにはわからないままなのだ。ただの可笑しな子供、と切り捨てることができれば良いのだが……雰囲気が、表情が、声が、忘れられない。
「どうかしたんですか?イオ」
そんな絡まった感情を胸に抱いたままに城の中に入った所で、不意に声を掛けられた。顔を上げて声の主を見ると、イオはふっと表情を緩める。
「アルマ」
そこに立っていたのは長い赤髪の青年……アルマで。彼は少し心配そうに眉を下げながら、首を傾げた。
「随分と浮かない顔ですね。そんなに大変な任務だったのですか?」
アルマにそう問われて、イオはそれを聞いてふるふると首を振った。
「いや、任務自体は大したことない。怪我もないし。ただ……ちょっと、気になることがあってな」
そう言って、イオは軽く肩を竦めた。アルマは彼の発言に葡萄酒色の瞳を瞬かせて、彼の言葉を繰り返した。
「気になること?」
イオは小さく頷き……視線を揺るがせた。誰かに相談できれば確かに気は楽になるのかもしれない。しかし、どう説明すれば良いのかもわからない、漠然とした不安だ。それを口に出すことで、自分と同じ思いを大切な友人にまでさせるのは気が引けたのだ。
イオがどう話したものかと悩み、黙り込んでいると、アルマはふっと表情を綻ばせた。
「良いですよ、無理に言わずとも」
優しい声でそう言うアルマ。顔を上げれば、彼は言葉と同様に柔らかく微笑んで、イオを見つめていた。
「貴方の憂いを晴らすことができれば、と思っただけなので。私に話そうとするあまり、余計に貴方の表情が曇るのでは意味がありませんから」
イオは彼の言葉に眉を下げた後、呟くように彼に詫びた。
「……すまない。心配してくれたのに上手く説明できなくて。別に、アルマのことを信頼していない訳ではないのだけれど……頼ってばかりでは、いけないと思うから。少し自分で、考えてみたい」
イオはそう言う。アルマはイオよりも少し年上で、しっかり者だ。知識も豊富で、聖職者の家の出身と言うこともあってか、聞き上手で言葉選びも上手い。ついつい頼ってしまいたくなる頼もしさがあった。実際、相談したならばきっと、アルマは欲しい言葉をくれるだろう。けれど、それに甘えてばかりもいられない、とイオは思っていた。
アルマはそんなイオの言葉に微笑みながら、ゆっくりと首を振って見せた。
「構いませんよ。けれど……」
そこで言葉を切るアルマ。イオはどうしたのかと首を傾げる。アルマは心配そうな表情を浮かべながらそっとイオの頭を撫でた。大きく目を見開くイオを見つめたまま、アルマは言った。
「駄目ですよ、一人で全てを受け止めてしまっては。……いつか壊れてしまうやもしれません、私はそんな貴方を見たくないですよ」
貴方は私の大切な仲間なのですから。そう言ってアルマは微笑んだ。イオはそれを聞いて幾度も瞬きを繰り返す。彼がこういったことを言うのは珍しい。普段は自分から発言することなく、にこにこと笑って他の人々の発言を聞いていることが多いのだ。故に、彼の今の発言は意外なもので……けれど、確かに嬉しくて。
「……ありがとう、すまない、思わせぶりなことばかり言って、説明はできないなんて」
そう言いながら、イオは照れ臭そうに微笑んだ。アルマは彼の言葉にふわりと微笑んで、首を振った。
「気にしなくて良いですよ。誰しも話したくないことはあります。隠し事は決して悪いことではありませんよ」
全てを詳らかにする必要なんてない。そう言った彼の表情には何処か、憂いが点っているように感じた。それを見て、イオは目を細める。アルマは、時折こういう顔をする。にこにこと笑いながら色々なことを考えている彼だからこそ、何か思うことでもあるのだろう。
―― 逆に、アルマにもあまり抱え込まないで欲しいのだけれど。
そう思いながらイオはふっと息を吐き出して、彼に言った。
「ありがとう、アルマ。じゃあ俺は陛下の所へ報告に行ってくる」
仲間と話して少し気分も晴れた。先刻の任務の報告に行かなくてはならない。イオがそういうと、アルマは目を細めながら、頷いた。
「えぇ、いってらっしゃい。国のためのお務め、お疲れ様でした、イオ。報告が終わったらゆっくりお休みくださいね」
そう言って微笑むアルマに頷いて見せたイオはアズルの居る部屋に向かったのだった。
***
長い廊下を歩き、通い慣れた国王の部屋の前に立つ。いつものように部屋のドアを軽くノックすると"どうぞ"とすぐに返事があった。柔らかな、国王の声。それを聞いて目を細めたイオはドアを開けて、室内に入る。
部屋に入ってきたイオの姿を見ると、アズルはほっとした表情を浮かべて、彼の方へ駆け寄ってきた。そしてぎゅっと柔らかい手でイオの手を握る。
「イオ、お帰り。……良かった、無事で」
心底安堵した声だ。そう思いながらイオは微笑み、彼の前で首を垂れる。
「ありがとうございますアズル様。アズル様のお蔭で、大した怪我をすることもなく帰ってくることが出来ました」
アズルがレキに持たせてくれた魔道具のお蔭で無事で済んだ。もしあれがなかったら、或いは根本的にレキの救援がなかったら……そう思うと、肝が冷える。そう思いながらイオは彼に改めて礼を言う。それを聞いたアズルは澄んだ緑の目を細めた。
「それは良かったよ。僕も、君が無事に帰ってきてくれて嬉しい」
顔を上げて、とアズルに言われてイオは顔を上げる。あの任務の最後に出会った少年のことも報告すべきか、と考えていたが、その想いは眼前の主の表情を見ると同時に何処かへ飛んでしまった。その理由は、眼前の青年……アズルの表情が、何処か翳っていたからで。イオの無事を喜びながらも、何処か不安げな表情を浮かべているのだ。
「アズル様?」
彼が声をかけると、アズルははっとした顔をした。そして、ぎこちなく笑みを浮かべた。
「ごめんね、少しぼうっとしてしまって」
「いえ、何か……」
何かありましたか、と問いかけると同時。不意にばたばたと硝子を叩く音が響いた。二人は驚いて視線を向ける。
「降ってきたね。君が濡れる前に帰ってきて良かったよ」
いつの間にか、雨が降り出していた。その強さはどんどん強くなっているようで、ぱたぱたと窓硝子を叩く音が室内に響き続ける。
「暫く止みそうにないね」
「そう、ですね……!」
はっと、イオが息を呑む。不意に、窓の向こうで何かが、光ったのだ。任務から帰ってきた騎士の持つ明かり? 星明かり? ……違う。そんなものではない、もっと特別な……先程の任務帰りに見た、あの不思議な少年の目の光に、よく似て見えて。
「イオ?!」
窓を開け放ち、そこからイオは外へ飛び出した。後ろで、アズルの驚いた声が聞こえたが、その声に応えることなく、イオは先程見たあの光がある方、中庭の方へ走って、走って、走って……――
先刻の光が見えた場所で足を止め、ばたばたと雨の雫が体を叩く。一瞬で体はずぶ濡れになった。それでも構うことなく、イオは周囲を見渡した。
「はぁ……っ」
荒く息を吐きながら、先程の光を探す。しかし、あの不思議な少年の姿はなかった。魔力の痕跡もない。気のせいだったのか、否、そんなはずはない……イオはそう思いながらふっと息を吐き出した。
「イオ!」
肩を掴まれる。びくりと肩を跳ねさせ振り向いたイオの瞳には、彼と同じように息を荒げた国王の姿があった。美しい紫の髪も、豪奢な装束も、雨に濡れてしまっている。色の白い頬を伝い落ちる雫を見て、イオは目を見開いた。
「アズル様」
掠れた声で名を呼ぶと、彼は眉を下げながら、イオに手を差し伸べた。
「イオ、どうしたんだい、いきなり飛び出していったりして」
しかもこんな雨の中。そう言いながら、アズルはそっとイオの頬を撫でる。その手も濡れていて、雫が拭えるはずはないのだけれど、微かに彼の体温が伝わってきた。
「アズル様、どうして……」
どうして追ってきたのか。そんなイオの言葉にアズルは苦笑混じりに肩を竦めた。
「君が心配だったんだ。帰ってきた時から何か思い詰めている風だったし……いきなり飛び出していくから、何かあったんじゃないか、って……」
そこまで言ったアズルはふぅと息を吐き出した。そして真剣な表情でイオを見つめながら、問いかけた。
「……どうしたんだい、本当に。君らしくないよ」
真っ直ぐに、鮮やかな緑の瞳で見つめられて、イオは瞳を揺るがせる。それを一度伏せた後、そっと息を吐き出して、言った。
「此処最近、気にかかることが、ずっとあって」
ただでさえ背負うものが多いアズルに、漠然とした自分の不安まで背負わせてしまうことにはまだ迷いがあって……しかし、黙ったままで居ても、優しい国王はきっと、自分のことを心配し続けるだろう。それならば、とイオは言葉を紡ごうと口を開き……
「此処で、話していたら風邪を引いてしまうと思う、よ」
静かな声が聞こえるのと同時、イオとアズルの周囲だけ雨が消えた。まるで大きな傘を差したかのように。
それに驚いて瞬いたイオは、はっと息を呑む。いつの間に姿を現したのか、アズルのすぐ後ろに少年が立っていた。まさに今、アズルに告げようとした不安の発端、イオの夢の中に、そして任務終わりの彼の元に姿を現した、緑髪の少年が。
「な、お前……」
掠れた声を上げるイオ。アズルは自分の背後に視線を向けて、瞬いた。
「フロール、珍しいね。君がこうして、僕以外の誰かの前に姿を現すのは」
「こんばんは、陛下。……姿を、現すつもりはなかった、んだけど。そこの彼に、見つかった」
そう挨拶をしながらぺこりと礼をして見せた少年は表情を緩めたように見えた。極々僅かに、ではあるけれど。イオはそんな彼を見て、少し眉を寄せる。
「アズル様、彼は……何者なんですか」
どうやらアズルと顔見知りのようだけれど……自分が彼を目撃しているのは、いつも良い場面とは言い難い。紡ぐ言葉も不穏なもので……その"元凶"ともいえる存在がアズルに親し気に(と言う程でもないけれど)話しかけているのは……やはり、気にかかる。物理的な攻撃であれば騎士である自分たちが守ることもできるけれど、言葉と言うのは心を操る。事実、暴力によってなされた反逆と同時、言葉によって内部から切り崩されて滅んだ国の話など、掃いて捨てるほどある。そう言った歴史の数々も知っているイオとしては、言葉を操り、不思議な魔力を持つ人物が国王の傍に居ることを不安に思うのだ。
「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ、イオ」
そう言って、アズルは微笑む。そして、自分の後ろに立っている少年の頭をぽん、と撫でながら言った。
「彼は王室付きの占い師だよ。何も、心配は要らない」
そんな彼に頭を撫でられながら、少年はそっと息を吐き出す。そして、小さく呟くように言った。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど……国王様、貴方はもう少し、警戒した方が良い。一度"味方"と認識した相手を、貴方は警戒しないから」
静かな声でそう言った彼はイオの方へ視線を向けると、恭しく頭を下げながら、口を開いた。
「きちんと名乗るのは、初めて、だね、イオ・ウォルヴェリア。僕は、フロール・フォーチェイン。王家に仕える、占い師だよ」
「君の任務にレキを向かわせたのも、あの魔道具を持たせたのも……フロールの警告に従ってのことだったんだ」
そう言って、アズルは微笑む。それを聞いて、イオはゆっくりと瞬いて、呟いた。
「あの魔道具も……」
一つ、合点がいった。アズルらしくない、と思ったあの魔道具を持たせたのは、他でもないフロールだという。"占い師"と彼は言っていたけれど……実質、フロールの能力は"予言"に近いものなのだろうと、イオは理解した。
「イオが気にかかっていたこと、と言うのはフロールのことかな? フロール、イオに何かした?」
アズルがそう問いかけると、フロールは少し俯いた。そして、ぽつりと呟くような声で言う。
「……彼に、伝えなければいけないことがあったから、少し」
少し、どころではないが。そう思いながらイオは、一歩、フロールの方へ歩み寄る。そして、固い声で問いかけた。
「さっきも……以前、俺の夢の中でも、お前は言っていたな、気をつけろと?」
そんなイオの言葉に、フロールは小さく頷く。イオはそんな彼に、質問を重ねた。
「何に、気を付けろと言うんだ? アズル様の表情が暗いのも、お前の"占い"が原因なのだろう」
少し非難の色を灯したイオの言葉にフロールはまた表情を翳らせて、ゆっくりと首を振った。ぽつり、と呟くような声で言う。
「アズル様が憂いていることに、僕の"言葉"は影響している、と思う。でも、君が知りたい答えは……まだ、言えない」
それを聞いたイオはぐっと唇を噛み締める。そして小柄なその少年に詰め寄ろうとした。
「何故……」
どうして、言えない。夢の中でもそうだ。今はまだ、などと曖昧で不気味なことを言って、あの任務の時にも意味深なことだけを告げて姿を消してしまった。気を付けろと言うのなら、その対象が何なのか、明らかにして欲しい。そうすれば何らかの手段も立てられよう。そう叫ぶように言うイオだが……――
「待って!」
彼とフロールの間に、アズルが入った。そして眉を下げながら、言った。
「許してあげて、イオ。彼は未来予知の力を持っている一族なんだけど……口にできることには、制限があるらしいんだ」
フロールは、イオも思った通り、ただの占い師ではなく、予言者に近いものなのだという。昔からミラジェリオの王家と繋がりのある一族であり、国を守るために必要な言葉を告げてきたのだという。しかし、その未来予知の魔術には大きな代償があるのだそうだ。
「直接未来を左右するようなことは、口に出せない。見えていることを全て語ろうとしたら、彼の身体に大きく負担がかかる。命に係わることもある。……そうだよね、フロール」
アズルがそういうと、フロールはこくりと小さく頷いた。イオはそれを聞いて、握りしめていた拳を緩めた。
「なるほど。……無理を言って、すまなかった」
全てを理解し、受け入れた訳ではない。しかし、強い魔術に大きな代償が伴うことは魔術理論の基本だ。未来予知、などと言う特殊極まりない魔術が命に係わるというのは十分に考えられることだ。何より……アズルが"やめろ"と言っているのを押し切ってまでフロールを問い詰める程、イオも残忍にはなれない。
イオの謝罪を聞いて、フロールはゆるゆると首を振った。
「大丈夫、なぜ、と問われるのも、慣れているしね」
そこで一度言葉を切ったフロールはすっと息を吸う。そして、真っ直ぐにイオとアズルを見つめた。彼の瞳がぼうっと、妖しく光る。
「危険は既に傍にある。狂犬はいつ牙を剥こうかと考えている。……これが、今僕が伝えられる、精一杯」
フロールは呟くように言うと一度礼をして、姿を消した。ふわり、と一陣の風が吹く。
「危険は既に傍に、か。以前からしばしば、フロールに言われていることなんだよね」
小さく呟くアズルの表情は、酷く不安気で……悲し気だ。それも、当然のことだろう。人を疑うことが苦手なアズルにとって、"近くにある危険を疑え"と言われるのは、辛いことだろう。
あの少年……フロールから敵意は感じなかった。きっと、必要なことだからこそアズルにその言葉を伝えたのだろうけれど、イオとしては文句の一つも言ってやりたくなった。自分でさえ不安に思ったのだ。優しく思慮深い国王では一層、彼の予言に悩んだことだろう。
「でも、良かった。彼の存在はあまり公にできないから……イオの前でも姿を現してくれたということは、君には知られても問題ないと彼が判断したのだろうし。彼に伝えられた言葉を、一緒に考えてくれると嬉しいな」
アズルはそう言って、微笑んだ。イオはそれを聞いてゆっくりと瞬く。それから、ふっと微笑み返して、頷いて見せる。
「お力になれることであれば、何なりと。私が、……"俺"が、必ずアズル様をお守りいたします」
あの日の御恩返しに。イオはそう言いながら、頭を垂れる。それを聞いたアズルは少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を和らげた。そして愛しそうにイオを撫でて、言う。
「そうだね……ありがとうイオ。僕には強く頼もしい騎士たちがいる……大丈夫、大丈夫だよね」
少し元気を取り戻した様子のアズルを見て安堵の表情を浮かべるイオ。その姿を少し離れた所から見つめながら、予言者はそっと呟いた。
「君が鍵だよ、封じられた天使。君の動き方で、全てが決まる。この国の命運も……君が愛する人の行く末も。どうか……――」
小さく呟いた少年はそっと拳を握る。深くフードを被った少年の言葉は、まだ消えない雨音に溶けて消えていった。




