おっさん、青春はじめます。 第9話 〜逆コナン同志~
川面に映る街灯の光。
俺の胸は、さっきまでのドキドキが
――ざわざわに変わっていた。
…うなじの辺り
撫でられた感触がまだ残っていて、変な汗が止まらない。
少し落ち着いたところで
「……逆コナンって、何の話?」
声は、まだ裏返っていた。
幸はベンチに腰掛け、視線を川へ向けたまま静かに言う。
「あなたも……そうなんでしょう?」
「そうって……いや、俺は…」
(いやいやいや!
“若返ったおっさん”なんて正直に言えるか!
初対面でいきなり話ししたら、ただのバカか変態やん!
多少、変態と若返り前には周りに言われているが。)
俺が言葉に詰まると、幸は小さく微笑んだ。
「たまたま、じゃないの。ここで会えたのは、意味がある」
「意味って……」
「同志だからよ」
――ドウシ?
耳慣れない言葉に、戸惑いを覚える。
「私もね、一年前に同じようなことが起きたの」
さらりとした口調で、重要なことを彼女は言った。
「……同じ?」
「詳しくはまだ話せない。
でも、普通の若者じゃない。
――頭は大人のままなのに、体だけ若返った人間がいる」
俺は思わずのけ反った。
(それ……完全に俺のことやん……!)
幸は続ける。
「そんな人を探していたの。
年齢の数字だけじゃ分からない。
けど、会話の端々とかに違和感が出るのよ。
あなたみたいにね」
「ちょ……!
俺の“将棋好き”が原因か!?
いや、港のバイトのことか!? あ、いや、まさか……!」
パニックの俺を横目に、幸はくすりと笑った。
「やっぱり、あなたも同志だわ」
川のせせらぎがやけに大きく響く。
彼女の言葉が正しいのかどうか分からない。
けれど――胸の奥が、不思議と熱くなっていた。
「……同志、ね」
苦笑しながらつぶやくと、幸は真剣な瞳で俺を見つめてくる。
「これからもっと話す機会があるはず。
その時に全部教えるわ。だから今日はここまで」
彼女は立ち上がり、振り返って微笑んだ。
「そうそう。最初は幸って名乗ったけど……ほんとは“幸子”よ」
川面の光が、その横顔を神秘的に照らしていた。
(同志……俺、やっぱり何かに巻き込まれてる?
でも……嫌じゃない。むしろワクワクしてるのは、なんでだろう)
夜の川風が頬を撫でる。
俺の“逆コナン青春”は、想像もしない方向へと動き出していた。