おっさん、青春はじめます。 第7話 ~内緒〜
港湾バイトとジムで体力をつけ、
街中では「博子さんの長男」として認識される日常。
見た目は若者、中身はおっさん。
そのおっさんに新たな挑戦がやってきた。
ジムでトレーニングしていると、トレーナーが困った表情で近づいてきた。
「ちょっと相談に乗ってもらえませんか……」
話を聞くと、彼女は一度だけマッチングアプリを使ったところ、ストーカー被害に遭いかけているという。
俺はふと考えた。見た目若者、身体は若い。
(なら、俺が体験して、アプリの安全な使い方を教えてあげられるんじゃないか?
若い女の子なので、真面目な顔しなきゃ、
おじさん嬉しいけどとアホなことを妄想しながら)
スマホを借りて、女性トレーナーと一緒に、安全な操作方法や自己紹介の作り方、危険回避のコツを確認することになった。
最初は画面の操作に戸惑い、何度も間違える。
「えっと……ここで写真を送るのか? いや、違う」
トレーナーも苦笑しながら、俺のぎこちない操作を見ていた。
(若者は、フリック入力というのか、マジックのように手早く入力する。俺もやんなきゃと余計に焦る)
それにしても、
こんな顔を近づけるのも緊張するな。
博子には黙っている。
見た目は若く見える俺だが、65歳の知恵で、静かに世界を切り抜ける――
それが今の俺のやり方だ。
だが、ふと胸に湧いた欲望――
(せっかくだ、俺自身のためにもアプリを試してみよう)
家に帰ると、誰にも見られぬようスマホを取り出し、アプリをDL。
登録画面を開くと、まずは誕生日の入力を求められる。
「えっと……昭和35年……あれ?」
思わずつぶやく俺。アプリは明らかに「18歳未満不可」や「40歳以下推奨」の警告を出す。
なんだこの圧力は!若返った体で登録したいのに、頭の中の年齢が足を引っ張る。
悶々としながら何度も年齢を入力し直す俺を、スマホは冷静に突き放す。
「入力項目が違います。」
いや、違うって言われても、俺の顔は20代だ!
登録がようやく完了したと思ったら、
次は操作方法で四苦八苦。
「ここで写真を……送り、プロフィールは…
どう書くんだっけ?」
タップする手は迷走、指は迷子、頭は65歳のまま。
「え、えーと……設定ってどこだ?」
画面をスクロールするたび、アプリのUIは新世代の若者向けで、俺を翻弄する。
それでも、画面を睨み、迷いながら操作する時間は妙に楽しかった。
(これは俺の青春――ひとりでこっそり楽しむ青春だ)
頭の中で「65歳の俺」と「25歳の見た目の俺」が言い合う。
「こんなもん、本当に使えるのか?」
「いや、挑戦するしかないだろ!」
四苦八苦しながらも、俺は秘密の青春を、
一歩ずつ進めていった。
そして、アプリに登録して1時間後。
なんとなく開いた画面に――「マッチングしました!」の表示があった。
「は、早ぇな……」
恐る恐る相手のプロフィールをタップする。
現れたのは、笑顔の女性。
写真は今風の加工がされているが、可愛らしい雰囲気だ。
だが――
「……65歳?」
俺はスマホを二度見した。
可愛い顔に重なる数字「65」の年齢表示。
「なんだこれ⁇」
思わず声が漏れる。
博子に見られないように慌ててスマホを隠す
俺の秘密の青春、
マッチングアプリは、なんだか見てるだけでも楽しい。
しかし、この見た目若い65歳の女性は??
ここからさらに妙な方向へと転がっていくのだった。




