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おっさん、青春 第4章 第3話 ~設計図(人が入れない道)~

雷が消えてから、

俺の胃は、ずっと痛いままだ。


「……三日で“人が入れない道”を作れ、か」


役所の会議室。

蛍光灯がやけに白い。

正月明け最初の山の開発会議。


予定通りなら今日は、

「風力・太陽光活用」と「遊歩道」の話だけで、

無難に終わるはずだった。


白丸は、堂々と机の中央に座っている。


他の職員には見えていないのか?

――いや、見えているはずだ。


しかし誰も、追い払おうとしない。

正月明けは、だいたい皆、やる気がない。


「では説明します」

開発事業課の課長が立ち上がった。


プロジェクターに映し出されるのは、

開発予定地と山裾を結ぶ、カラフルな図面。


「本計画は、地域活性化と防災を両立した――」

(出たよ、両立)

「遊歩道、展望デッキ、風力及び太陽光活用設備――」

(風も太陽も、使う気満々だな)


俺は、胃を押さえた。

佐伯のホログラムが、小声で囁く。

「吉田さん、現在の案は

 雷の逆鱗に触れる確率、99%です」

「高すぎるだろ」


思わず声が出た。

「そもそも“人が入れない道”って何ですか?」


独り言のつもりだったが、


会議室が、ぴたりと静まった。


別の職員が、戸惑い気味に言う。

「遊歩道なら、安全確保が必要でしょう?」


白丸が、ぼそっと言った。

『人間は、自然を見た瞬間に

 “使っていい”と思う生き物だからな』


外部シンクタンクのコンサルが、資料をめくる。

「風の流れは数値化できます。

 ここにセンサーを――」


「置いた瞬間、人の道になります」

また、大きな声だった。


一瞬、沈黙。

「……は?」


「センサーも、看板も、舗装も。

 置いた時点で、そこは“人の場所”になる」


課長が眉をひそめる。

「吉田くん、何言ってるんだ、遊歩道は“人の道”だよ」


胃が、きゅっと鳴った。

白丸が、机の上で伸びをする。

『面白いね~』

「面白くない。胃が痛い」


課長が、咳払いをした。

「吉田くん。

 つまり、遊歩道を作るな、と?」


「……作るな、とは言ってません」

俺は、ゆっくり言った。

「“人が使う前提”で作るな、です」


会議室が、ざわついた。

コンサルも

「どういう意味ですか?」


「風の流れを活かすなら、

 人が“立ち入れない”状態を保たないと――」


「危険区域に指定する、ということ?」

「立入禁止ロープを――」


「それも“道”になります」

俺は、被せた。

「ロープを張る。

 看板を立てる。

 計画を示す。

 その時点で、人は

 “そこに行ける場所”だと思う」


白丸が、尻尾をぱたんと打つ。

『ほらな』

『人間は、“管理できる”と思った瞬間に踏み込む』


佐伯のホログラムが、控えめに言う。

「補足します。

 吉田さんの指摘は、

 自然側の条件整理に基づくものです」


課長が訝しむ。

「自然側?」


「人が“自然を失う構造”そのものが、

 問題視されています」


会議が、完全に止まった。

俺は、深呼吸し、そして続けた。

「整備しない」

「案内しない」

「説明しない」

「安全です、快適です、エコです――

 そう言った瞬間に、人は来る」

「だから――」


俺は、言った。


「風は通るけど、

 人は“意味を見いだせない場所”にする」

「意味……?」

「歩いて楽しくない」

「写真も撮れない」

「体験価値もない」

「ただ、風が通るだけ」


白丸が、満足そうに言う。

『雷が喜びそうな設計だな』


課長は、頭を抱えた。

「……吉田くん。

 それ、企画書に書けると思うか?」


俺は、腹がいたいけど、返答した。

「書けません」

「だろう!?」


「でも――」

「三日ください」


佐伯が小さく言う。

「無茶だ」


「分かってる」


白丸が、にやっとした。

『だが、風はそういう場所を好む』

窓の外。

雲が、ゆっくり流れていた。


――三日間。

人間の論理で作らない、

自然のためだけの設計図。


胃は、まだ多少痛い。

逃げたいけど、逃げれなかった。


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