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おっさん、青春 第3章 第7話 〜綺麗なお姉さんもやって来た〜

市の外れにある神社。

山の入口からすこし奥に建つ、小さな社。

「風の神社」とも呼ばれている。


俺と白丸が石畳を歩いて神社に向かっている。


風が、やたらそわそわしている気がした。


佐伯

「吉田さん。空気振動値が通常の2.7倍です」

「それ、ただの“風強い日”だろ」


……と思ったその時。

カツ、カツ、カツ。

石の階段を、美脚のヒールが鳴らして近づいてくる。

(……え、誰?)

振り向くと――


白いワンピース、長い黒髪。


モデルかと思うくらい綺麗なお姉さん。

「すみません、この神社って……

 お参りすると、願い事って届きますか?」

(声、可愛い……!)


吉田

「あ、えっと……たぶん届くと思いますよ。

 ここの風、最近元気ですし……」

「良かったぁ。

 実は、ちょっとお願い事があって……」


お姉さんが微笑む。

(眩しい……!

 俺、猫とか熊とかカラスや自然界の相手なんかより、

   人間の方がいい、ましてや綺麗なオネーさん!)


「ところで、お嬢さんはどちらから?お名前は?」

俺が言うか、言わない瞬間――


「……オラ」

白丸が俺の足に前足を乗せた。


白丸

『吉田、お前表情が緩みすぎている』


「いや、綺麗な人だな~と……」


白丸

『“使い魔のくせに”目が上気している。規律違反だ』

「規律って何!?」


次の瞬間――

バコォォォン!!

あおば(カラス)が頭上から急降下して、

羽で俺の後頭部を“バシィィッ”とひっぱたいた。


「イ!ツウ~!?!?!?」


お姉さん

「大丈夫ですか!?いきなり……鳥が落ちてきて……!」


白丸

『大丈夫だ。こいつの頭は頑丈だ』


『“煩悩”を感知したので、制裁したまでだ』


「制裁って言った!? カラスのくせに理不尽すぎるだろ!」


白丸が冷たい目で言った。

『吉田。お前は人間にも自然界にも属する特異存在。

 よって、“煩悩”は即時修正対象だ』


あおば

『風の神社の前で、無駄な色気を出すな』


「俺そんな出してない!!」


お姉さんには、こいつらのやり取りは、

猫がにゃーにゃー、カラスがぎゃーぎゃー

としか聞こえない…と思う。


「……なんだか賑やかですね」


「いや、本当にすみません……!

この猫とカラスは変なんです。

ところで、お嬢さんのお名前は…」


お姉さんはくすっと笑い、

風に髪を揺らされながら、お参りへ歩いていった。


風が“ふわっ”と彼女の周りで優しく渦を巻いた。


白丸

『……美人である。

 しかし、お前が鼻の下を伸ばすのは別問題だ』


「のびてない!!」


あおば

『のびていた。のびていた風向きでわかる』


「風向きで!? どういう理屈だよ!!」


佐伯

「吉田さん。あなたの顔筋データ、確かに緩んでいました」

「お前もかーい!!」


静かに白丸が言う。

『……くだらないことで騒ぐな。

 これより“風の声”を聞かせる』


風が社の奥から吹いてきた。

ひどく落ち着かない風。

まるで、助けを求めているような。


『吉田。風が怒っている。

 人間が“風の道”を塞いだせいで、

 この神社は……もう息ができない』


あおば

『風の神はもう長く持たない。

 お前に伝えるため、最後の力でここへ呼んだ』


「……また俺かよ……」


白丸

『お前しかいない』


あおば

『そして――幸子も、そう言っている』


「幸子……?」


どこかで鳴った“チリン”というような小さな鈴の音に、

かすかに幸子の声が混じったような気がした。


「……幸子……?」


白丸が言う。

『聞こえたのなら、急げ。

 このままでは“風”が死ぬ』


風がざわりと吹き乱れる。


あおばが羽ばたき、すっと空へ。


白丸が振り返る。

『行くぞ、吉田。煩悩は置いていけ』

「しらんわ!!」


風の神社が、ざわざわしていた。


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