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おっさん、青春 第3章 第5話 〜白丸、降臨〜

熊から相談され、

線状降水帯から依頼され、

自然界との交渉係いや、自然界の苦情窓口のようなになった俺。


(……いや、これ絶対おかしいよな?

 俺、市役所の職員だけど……?)


そんな混乱の翌日。


市役所の玄関前――


桜の木々が今日も“木のSNS”で会議していた。


『議題:昨日の雨の量が多すぎる件』

『議題:しげおの依頼をどう解決するか?』

『議題:吉田の歩き方とくしゃみの音量問題』


「……議題が地味に俺に偏ってるんだよな」


佐伯(スマホ越し)

「吉田さん、本日の“動物遭遇指数”は……98%です」


「また新たな指数!」


「残り2%は、私のあなたへの優しさです」


「AIの同情いらんけど!」



駐輪場の屋根の上に、ふわりと白い影が降り立った。


真っ白な猫。

雪のように白い毛並み。


左右の目が微妙に色が違う“オッドアイ”。

無駄に神秘的で、無駄に可愛い。


(いかん、見るな、見るな

     …絶対ヤバイぞ、この猫)


白猫は屋根の端に近づき

そして、静かに俺を見下ろして言った。


『――お前が、吉田だな』


耳をふさいで、子どもがやるように、

「アー やめて!アー やめて!」

声をかき消したが・・・


佐伯が笑いながら

「名前呼ばれてましたよ。ホント、子どものような事してっ」


「………」


白猫は、軽く尻尾を揺らす。


『我は “白丸しろまる”。

 自然界の観測役……いや、相談役だ』


「相談役? なんか立場が高いな」


白丸

『熊の話は聞いた。

 線状降水帯の愚痴も聞いた。

 木々の会議も聞いた。

 ……まとめるのは、我の役目だ』


「なんだ、まとめ役じゃん」


『違う。我は“上位者”だ』


白丸は地面に降り立ち、

すたすたと歩いてきて――


俺の膝を軽く前足で叩いた。


『吉田。

 お前は選ばれた。

 人と自然をつなぐ、人間界の異端者だ』


「言い方!!」


『だから今日から――

 お前は我の “使い魔” とする』


「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


『安心しろ。それでは、俺に対する最低限の礼儀を教える』


白丸は前足をあげて指示を始める(猫なのに)。


『① 我を撫でる時は敬意を払え。無礼は禁止』

『② 我が眠い時は話しかけるな』

『③ カリカリは高級魚味。妥協は許さぬ』

『④ 呼んだら来い。来なければ罰として引っかく』

『⑤ 写真を勝手にSNSに上げるな。肖像権は我にある』


「なんだ、それ!!」


白丸はしっぽをゆらりと揺らし、


『――さて、本題だ』


急に声色が変わった。


『山が死にかけている。

 川が細り、風が流れず、木々が叫んでいる。

 ……人間のせいだ』


「……それは、熊からも、しげおからも聞いた」


『自然を救うには、人間の手がいる。

 だが人間には自然の声が届かない。

    だからお前が必要だ。』


白猫のオッドアイが俺を射抜く。


『吉田。

 お前なら―― 山の声を、届けられる』


「なんでそんな確信があるんだよ」


白丸は、静かに、はっきりと言った。


『サチコがそう言ったからだ』


「……サチコ…?」


『そうだ キタガワ サチコ』


胸の奥がざわっと震える。


『我は……彼女の“命を受けて、人間界へ降りてきた。

 彼女の代わりに、お前を導くためだ』


(幸子……どこかに“いる”のか……?)


白丸は屋根の上に戻り、こちらを振り返った。


『行くぞ、使い魔』


「ど、どこへ!?」


佐伯

「吉田さん、本日の“猫同行率”100%です」


「なんやねんその指標!!」


白丸は、

『大丈夫だ。

 桃太郎の家来は、犬・猿・キジだったが……

    令和の時代は、我の家来は、人間・熊・カラスだ!』


「令和版!?!?」「人間、熊、カラス?」


『文句は受け付けない。

 我は忙しいのだ』


白いしっぽがふわりと揺れた。


その背中を追いながら、俺は思った。


(……気づけば、また “幸子” に導かれてる気がする)


そして、胸の奥のざわめきは

昨日よりも、少しだけ強くなっていた。


――この白猫が、

俺と幸子をつなぐ何かを持っている。


そんな確信が、静かに芽生えた。

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