表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/41

おっさん、青春 第3章 第2話 〜台風からのクレーム〜


朝、突然どす黒い雲に覆われた。


ただの雨雲じゃない。


なんか……

明らかに“上から見下してる顔” が浮かんでいる。


(眉間シワ寄ってるし……絶対怒ってるやつやん……)


そのとき、俺のスマホが震えた。


画面を見ると――


《気象ナノ:台風13号(仮名:タツオ)接近中》

《※タツオ:現在、機嫌極めて悪い》

《理由:人間の“くしゃみ”がうるさい》


「……なんでくしゃみで台風が怒んの?」


佐伯がホログラムで現れる。


「吉田さん。

 昨日あなたが外で“へっくしょい!”とくしゃみした時、

 音圧で風系ナノが乱れました」


「俺のくしゃみ、そんな強い!?」


「たぶん、あなたの再生身体の“肺の出力異常”のせいです」


「なんだか俺が機械みたいな説明だな!!」



市庁舎に着く頃には、


風速10メートルを超えて、歩くのもままならない風


そして

役所の防災安全課の職員も外に出て風雨を確かめていた。


突然発生した台風?に対処するため市民を早めに非難させるか、

 家から出ないようにするか、考えあぐねている様子。


そのうち、雲が完全に“顔”になっていた。


眉にシワ、目つき悪い、口はへの字。


(怒りゲージ100%……)


ゴロゴロゴロゴロ……


《おいィィィィ!お前!昨日のくしゃみどうにかせぇやぁ!!》


「しゃべった!? 

     …てか俺?俺? 怒鳴られた!!」


《こっちは風ぶっ飛んだんじゃコラァ!!》


「知らんわ!?」


《くしゃみの管理くらいきちんとせぇ!!》


「くしゃみの管理って何!!?」


と思った瞬間


風がもっと強まり、25メートル!

街路樹がバッサバッサ揺れる。

空の彼方に飛んできそー 

バイキンマンが、

   「バイバイキーン」

      って飛んで行くように 笑


『来たぞ』『タツオ本気や』『ビュービューいってる!』


桜まで怯えているのに、

頭上の雲はひときわ大きな声で吠えた。


《吉田ァ!!!》


「はいっ!(条件反射)」


《昨日の“へっくしょい”……

 あれ100デシベルやぞ! 騒音や!!》


「俺のくしゃみ、なんで数値化!?」


佐伯が冷静に分析する。


「吉田さん、自然ナノの“情緒安定機能”が暴走しています」


「自然が情緒不安定ってもう終わりやろ!!」


「自然は元々メンタル弱いです。

 台風なんてほぼ“感情の暴発”ですし」


「納得できるようで……できん!!」



突風が吹き荒れる。


シャツがまくれ、ズボンもバサバサ。


「ズボン脱げるし、パンツ見えるからやめて!!」


佐伯が耳元でささやく。


「タツオを落ち着かせる方法があります」


「はよ言え!!」


「褒める、です」


「自然、褒められて落ち着くの!?」


「はい。特に台風は承認欲求の塊です」


「知らんかった!!」



仕方なく褒めてみる。


俺は空に向かって叫んだ。


「タツオさん! 今日の雲の迫力は、すごいですね!!」


「タツオさーん‼️迫力すごいですね!!タツオさん‼️」


雲がピクッと動く。


《……ん?》


「輪郭も男前ですし、台風界のイケメン!!」


《……お、おう……》


佐伯が耳打ち。


「最後に“唯一無二”と言いましょう」


「タツオさん、あなた……唯一無二!!」


雲が一気にふわぁぁっと柔らかくなった。


《……照れるやん……》


ゴロゴロ……

さっきまでの怒号とは違い、低く甘い音。


「……本当に効いたわ、これ」


「自然は素直です。あなたよりずっと」


「比較するな!」



こうして台風は去り、平和が訪れた。


考えると、俺の周りだけの台風?

そんなことある???


風はそよそよと優しく吹き、

雲もふんわり微笑む。


《また来るわ〜吉田ぁ〜》


「二度と来んな!!」と言いたかったけど堪えて

手を振ってやった。


雲はぷかぷかと去っていった。



静かになった街で、

俺はようやく息をつく。


防災安全課は、あっけに取られた顔をして、

職場に戻って行った。


そのとき――


《……ヨ……シ……ダ……》


風の流れに混じって、また声が聞こえた。


佐伯が小さく言う。


「吉田さん。

 自然界はあなたを“中心に”動き始めています」


「俺、自然界のリーダーみたいになっとらん!?

 市役所で給料もらってるだけだぞ!!?」


風がくすっと笑うように吹き抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ