表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/41

第2章 おっさん、青春 第25話 ~リジェネ・ナイト・フィーバー~


 市の中心に輝く巨大な建物―


   ―青春記念館「ヤング80’sランド」


 “青春貢献税”の目玉事業だ。


 外壁は鏡張り、屋上には様々なネオンサイン、いやLEDサインとドローンサイン。


 その下を、見た目30代の再生者たちが闊歩していく。

 皆、胸を張り、足取りは軽い。


 ――俺の時代にも、こんな夜があった。


マハラジャ、ペントハウス、キング&クイーン、カーニバル、

キサナドゥ、エリア、クレイジーホース、カルチェ・ラタン、

マリアクラブ、アップルハウス、ZiZiQUE、グリーンハウス、

ドナサマー、ラテン、ウォーターステージ、


そして――ジュリアナTOKYO


東京、名古屋、大阪、福岡、仙台……


全国が一斉にミラーボールの下で光っていた、あの時代のクラブいやディスコだ。



 ドローン看板には、派手なフォントでこう書かれている。

 > 『踊れば控除! 払えばフィーバー! リジェネ・ナイト・フィーバー開催中!』


思わず独り言

「控除でフィーバーすんなよ……」

 


 自動ドアが開いた瞬間、低音が腹に響いた。

 ベースの重み、スモークの霞み、そしてワックス(感じたいだけかも…)。

 時代は進んでも、この熱気は変わらない。


 ホールの中央で、光の柱が立ち上がる。

 AI制御のミラーボールが、七色の光を跳ね返していた。

 床一面のLEDは、足音に反応して「青春ポイント+1」を表示する。


「ヨォ〜〜ッ! リジェネ・ピーポー!!」


 爆音の中から、派手な声が響いた。


「……佐伯か?」

「イェ〜〜〜ス! こちらDJ★SAEBEAT、トーキョーからナウ・ストリーミング!


 80’s to 90’s、ノンストップ青春ミックスぅ〜〜!!」


「テンション高すぎだろ、ここ東京じゃないし。笑」

「気にすんなベイビー! 青春に残業なしだぜェ!」


 まるで、AIがジョン・トラボルタを憑依させているようだった。



 フロアは満員。


再生者たちが香水を振りまき、肩をいからせて踊る。

ネクタイを少し緩め、指を鳴らし、ビートに合わせてステップを踏む。


再生女子は、ボディコンシャスの服装…

太もも丸出し、ワンレングスの髪。

例の大きなセンスを振り舞わして、

腰もくねらせ


本当の歳を考えると…


しかしながら、見た目はかわいいし、綺麗‼️

ボディコン、リョウちゃんもっこり‼️


あ、シティハンター冴羽遼してます 笑


「さぁ行こう、リジェネレーション!

 汗かけ! 笑え! 課税も踊れぇぇぇっ!」


 課長までもが、白いスーツで登場していた。


「吉田くん! 青春の源泉徴収はリズムだ!」

「課長、それどんな経理感覚ですか」

「払え! 笑え! 控除せよぉぉ!」


 ――完全に政策説明会がクラブイベント化している。


⸻ ないわ



 壁際のソファでは、再生女子たちがシャンパンを掲げていた。


「うちの旦那、青春返礼ポイントでスーツ新調よ」

「私は“青春ローン免除プログラム”で車購入よ!」

「もう、青春もキャッシュレスねぇ」

「ポイント還元、愛も割引~♪」


 AI DJ★SAEBEATがビートに乗せて叫ぶ。


「ハッスル! ナウ・ペイ! 青春納税〜〜!」

「ナイトフィーバー!ナイトフィーバー」


 ……税務署とクラブの融合。日本、どこに行くんだ。



 俺は一人、壁際に立って、いつものコロナビールを飲みほした。

 ホールの照明が、鏡面の床に映り込み、

 踊る再生者の笑顔が何百人分も反射している。


「吉田さん、踊らないの?」


 DJブースのホログラムから、佐伯の顔が浮かぶ。


「俺は見る方だ」

「青春、嫌いになったの?」


「いや、好きすぎて遠くから見てるだけだ」


「意味わからないね」


「俺もわからん」


 光の洪水の中、ほんの一瞬――

 若い頃の俺が、鏡の奥で踊っている気がした。



 曲が終わると、歓声と拍手が起きた。

 再生者たちは息を切らしながらも、まだ笑っている。

 笑顔に少しだけ疲労の影。

 青春は、いつの時代もハードワークだ。


 俺は外へ出た。

 夜風が、熱くなった肌を冷ます。


 ビルの窓に、ミラーボールの光が映り込んでいる。

 それがまるで――

 若かった頃の、あの街の夜みたいだった。


「佐伯」

「イェ〜ス、マイスター?」

「……今夜の分の控除、頼むぞ」

「ラジャ! 笑顔ポイント+2!」

「いや、いらねぇよ」


 空を見上げる。

 ナノが、星明かりに反応して微かに光った。


 ――あの光は、まだ俺の中にある。

 青春の残響みたいに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ