第2章 おっさん、青春 第25話 ~リジェネ・ナイト・フィーバー~
市の中心に輝く巨大な建物―
―青春記念館「ヤング80’sランド」
“青春貢献税”の目玉事業だ。
外壁は鏡張り、屋上には様々なネオンサイン、いやLEDサインとドローンサイン。
その下を、見た目30代の再生者たちが闊歩していく。
皆、胸を張り、足取りは軽い。
――俺の時代にも、こんな夜があった。
マハラジャ、ペントハウス、キング&クイーン、カーニバル、
キサナドゥ、エリア、クレイジーホース、カルチェ・ラタン、
マリアクラブ、アップルハウス、ZiZiQUE、グリーンハウス、
ドナサマー、ラテン、ウォーターステージ、
そして――ジュリアナTOKYO
東京、名古屋、大阪、福岡、仙台……
全国が一斉にミラーボールの下で光っていた、あの時代のクラブいやディスコだ。
ドローン看板には、派手なフォントでこう書かれている。
> 『踊れば控除! 払えばフィーバー! リジェネ・ナイト・フィーバー開催中!』
思わず独り言
「控除でフィーバーすんなよ……」
⸻
自動ドアが開いた瞬間、低音が腹に響いた。
ベースの重み、スモークの霞み、そしてワックス(感じたいだけかも…)。
時代は進んでも、この熱気は変わらない。
ホールの中央で、光の柱が立ち上がる。
AI制御のミラーボールが、七色の光を跳ね返していた。
床一面のLEDは、足音に反応して「青春ポイント+1」を表示する。
「ヨォ〜〜ッ! リジェネ・ピーポー!!」
爆音の中から、派手な声が響いた。
「……佐伯か?」
「イェ〜〜〜ス! こちらDJ★SAEBEAT、トーキョーからナウ・ストリーミング!
80’s to 90’s、ノンストップ青春ミックスぅ〜〜!!」
「テンション高すぎだろ、ここ東京じゃないし。笑」
「気にすんなベイビー! 青春に残業なしだぜェ!」
まるで、AIがジョン・トラボルタを憑依させているようだった。
⸻
フロアは満員。
再生者たちが香水を振りまき、肩をいからせて踊る。
ネクタイを少し緩め、指を鳴らし、ビートに合わせてステップを踏む。
再生女子は、ボディコンシャスの服装…
太もも丸出し、ワンレングスの髪。
例の大きなセンスを振り舞わして、
腰もくねらせ
本当の歳を考えると…
しかしながら、見た目はかわいいし、綺麗‼️
ボディコン、リョウちゃんもっこり‼️
あ、シティハンター冴羽遼してます 笑
「さぁ行こう、リジェネレーション!
汗かけ! 笑え! 課税も踊れぇぇぇっ!」
課長までもが、白いスーツで登場していた。
「吉田くん! 青春の源泉徴収はリズムだ!」
「課長、それどんな経理感覚ですか」
「払え! 笑え! 控除せよぉぉ!」
――完全に政策説明会がクラブイベント化している。
⸻ ないわ
壁際のソファでは、再生女子たちがシャンパンを掲げていた。
「うちの旦那、青春返礼ポイントでスーツ新調よ」
「私は“青春ローン免除プログラム”で車購入よ!」
「もう、青春もキャッシュレスねぇ」
「ポイント還元、愛も割引~♪」
AI DJ★SAEBEATがビートに乗せて叫ぶ。
「ハッスル! ナウ・ペイ! 青春納税〜〜!」
「ナイトフィーバー!ナイトフィーバー」
……税務署とクラブの融合。日本、どこに行くんだ。
⸻
俺は一人、壁際に立って、いつものコロナビールを飲みほした。
ホールの照明が、鏡面の床に映り込み、
踊る再生者の笑顔が何百人分も反射している。
「吉田さん、踊らないの?」
DJブースのホログラムから、佐伯の顔が浮かぶ。
「俺は見る方だ」
「青春、嫌いになったの?」
「いや、好きすぎて遠くから見てるだけだ」
「意味わからないね」
「俺もわからん」
光の洪水の中、ほんの一瞬――
若い頃の俺が、鏡の奥で踊っている気がした。
⸻
曲が終わると、歓声と拍手が起きた。
再生者たちは息を切らしながらも、まだ笑っている。
笑顔に少しだけ疲労の影。
青春は、いつの時代もハードワークだ。
俺は外へ出た。
夜風が、熱くなった肌を冷ます。
ビルの窓に、ミラーボールの光が映り込んでいる。
それがまるで――
若かった頃の、あの街の夜みたいだった。
「佐伯」
「イェ〜ス、マイスター?」
「……今夜の分の控除、頼むぞ」
「ラジャ! 笑顔ポイント+2!」
「いや、いらねぇよ」
空を見上げる。
ナノが、星明かりに反応して微かに光った。
――あの光は、まだ俺の中にある。
青春の残響みたいに。




