第2章 おっさん、青春 第23話 〜青春課税、発生中〜
初登庁の次の日
あの日は、
出勤すると、机の上に分厚い書類。
タイトルにはこうあった。
> 【再生者の所得区分および課税処理に関する照会】
ああ……また「国が決定した案件を自治体に丸投げする」タイプだ。
丸投げ案件
最近だとみなさん知ってる現金給付
自治体結構、大変なんだから。
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課長が腕を組んで言った。
「吉田くん、再生者の課税についてうちの課と税務課に問い合わせが、まあまあきている」
「問い合わせって、どんな?」
「“若返ったのに年金はもらえるのか?
“働いたら損なのか?”
“青春にも税金かかるのか?”だ」
「三つ目の質問が一番現実的ですね」
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AI職員・佐伯が、無表情でホログラムを投影した。
【ケース:単身再生者 標準モデル(年金+給与)】
年金収入:200万円
給与収入:500万円(最低青春就労賃金400万円のところ)
年齢:65歳以上(年金控除適用)
「なるほど、よいパターンだな」
佐伯が淡々と説明を続ける。
① 年金所得
年金収入200万円 → 公的年金等控除:110万円
→ 年金所得 = 200 − 110 = 90万円
② 給与所得
給与収入500万円
給与所得控除:収入×20%+44万円
→ 500×0.2+44=144万円
→ 給与所得 = 500 − 144 = 356万円
③ 合計所得
年金所得90万円 + 給与所得356万円
= 446万円
④控除:基礎48万+社保75万+保険10万
=控除計 133万円
⑤合計所得 446万円 − 所得控除 133万円
=課税所得:313万円
⑥所得税(概算)
課税所得313万円 → 税率10%、控除9.75万円
→ 313×0.10−9.75=約21.6万円
⑦住民税(概算)
課税所得×10%+均等割約5千円
→ 313×0.10+0.5=約32万円
総収入700
▲ 所得税22
▲ 住民税32
▲ 社会保険料75
手取り約571万円
「税率間違えて無いか?復興税入ってるか?
まぁ、細かいことはいいか。
つまり
――年収700万あっても、手取り571万円か」
「いえ、国はこの今までの税金に青春貢献税を賦課しました。
その税は、=各自年金分の半額を税金として徴収するとしています。この例は年金200万円なので半分の100万円となり、支払い後の手取りは471万円となります。」
「なに?青春貢献税?年金半分?
昔の年貢のようだな、一揆が起こりそうだ」
「青春貢献税とは、再生により得た“第二の生産力”に対する社会還元です」
「つまり……若さの再利用料か」
「はい。再生しても、青春には税がかかります」
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あの日、
青春貢献税が政府から発表された次の日だと思う。
浦東市役所の税務窓口はてんやわんやだった。
「なんでわしら再生者が税金払わにゃならん!」
怒鳴り込んできたのは、見た目40代の男性。
だが再生カードを見ると、実年齢82歳。
「わしは年金で食っとるんじゃ! 働いてもええが、課税は青春の敵じゃ!」
「すみません、国税庁に言ってください」
「国税庁より先に、青春庁が悪いんじゃ!」
……存在しない庁のせいにされるのが、一番困る。
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食堂。
再生女子たちが昼のランチを囲んで盛り上がっていた。
「うちの旦那、若返って現場に戻ったけど、働きすぎて税金に食われるの」
「青春課税ってやつね。笑えば控除、ため息で加算よ」
「うちは給料と年給の合計が62万円を超えて、年金カットされたのよ。青春リミット越えね」
「それは勿体ので、働かない方が良かったってことじゃない?」
――俺のカレーが少し冷えた。
会話の内容が、ほぼ昨日と同じだ。
デジャブなのか...
いや現実だ。
しまった!
俺2日間ともランチは、カレーで同じだ!
この2日間のカレーランチの記憶は完璧に覚えている。
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午後だったか
庁舎前には記者が詰めかけていた。
青春税関係の見出しが空中のドローンで構成される。
> 『再生者の年金二重取り? 働きすぎ問題浮上!』
> 『若返った社会、老いた税制!』
ドローンは空に文字の広告作ったり、形を作ったり、今やなんでも描ける。一体何千台のドローンを使うのだろう。
課長が頭を抱える。
「吉田くん、国の丸投げ案件さー、自治体で総てなんとかしろと言うことか。
もう“青春課税”をスコア制度に連動させるしかない」
「スコアって、あの青春スコアβですか?」
「そうだ。笑顔で+1、申告漏れで−5だ」
「……AIが泣くぞ、それ」
隣で佐伯AIが真顔で言う。
「感情処理はまだ搭載されていません」
「だろうな」
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夕方。
夕陽が差し込んでいた。
俺の腕の中で、光応答ナノが微かに反応していた。
光を浴びるたびに、体がわずかに温まっていた。
「吉田さん、また発光しています」
「税金で光ってるわけじゃない。これは自己発電だ」
「いいですね。エネルギー自給型の青春」
「もう黙っとけ」
窓の外では、再生者たちが退庁していく。
見た目は若者、心は老人、財布は昭和。
この国、未来を作る技術で――税だけ昭和に戻した。
それを“青春”と呼ぶらしい。




