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おっさん、青春はじめます。 第16話 〜国家計画の真相~

  朝の光が、やけに白く見えた。

 昨日まで見慣れた山の稜線も、今日は少し違って見える。


 ――若返ってから、もうどれくらい経っただろう。

季節や時間の感覚は、やはり歳相応なのか。


 町の「文化祭事件」から2週間が経とうとしている。

 表向きは無事に終わったが、裏では何かが静かに動いている気配があった。


 そして今朝、幸子からLINEが届いた。


《話があります。町の旧庁舎跡地に来てください。》

 

……旧庁舎跡って??初めて行くところ?


 ……あまり良いことではなさそうだな。

 

 旧庁舎は、寂れた建物の様に見えた。

 窓ガラスは割れ、草が壁を這っている。


 草ボウボウで、誰も寄りつかないような玄関。


そこから中に入ると、


一一 綺麗なロビーになっている。


 扉が開いている部屋(収入役室の表札)を覗くと、机があり資料がきっちり並んでいる。


 奥の部屋の扉が開いていて、白衣姿の幸子がいた。

 

――白衣。


 最初のマッチングアプリで上品な感じで、LINEのやり取りでは、“地域おこしアドバイザー”と言ってたような。


でもなんだか今は“研究者の顔”。


「来てくれてありがとう」


「雰囲気が研究室みたいだけど・・・」


「そう。ここ、本当は“現地研究拠点”だったの」

 

 壁のスクリーンに、映像が映し出される。

 そこには見覚えのある字が並んでいた。


 【新プラン75 内閣府・高齢化社会対策総合本部】

   【機密区分:特特-未公表実験地域】



幸子がスクリーンを指さす。


 そこには、見慣れた地図――若草町――の周辺に、赤い円がいくつも点在していた。


「全国で、すでに12カ所。すべて過疎地域。

 “若返り適応者”が、順次配置されてるわ」


「若返り適応者……つまり俺たち“逆コナン組”か?」


「そう。でも、あなたは違うの」


 幸子の声が低く、小声になる。

 「あなたは“対象外”なのよ」


「対象外?」


「本来、新プラン75の対象は満75歳以上。10年間限定の若返り処置を施す。

 でもあなたは65歳。しかも、若返りの持続が無期限のプログラム。」


 幸子は、1冊のファイルを開いた。

 表紙には「被験体コード:Y-008」と書かれている。

 

 そこには、俺の顔写真――若返った今の姿――が何枚も貼られていた。

 俺は知らないうちに、国家の「被験体」になっていたらしい。

何枚かめくって、

「これは、港区での事故報告書よ」


「数か月前、研究所のドローンが最新の光触媒ナノマシンのテストをしていた。


 暴風で制御を失い、一般区域に流出したの」

 幸子の声はすこし震えて

「……その地点に、あなたがいたの」


 まさか、あの日の夕立か。

 確かにあのとき、光る雨のようなものが降った。


 港の照明かカミナリと思ったが、違ったのか。

「あなたは、偶然“永続若返り”のプロセスを自然適応してしまったの。


 最新の研究でも再現できなかった、完全な成功例」

 

「じゃあ……俺は失敗作じゃなく、成功作ってことか?」


「そう。成功しすぎた“バグ”。」

 幸子は目を伏せた。


「上層部はあなたを“再確保対象”に指定している。

 佐伯が派遣されたのも、そのため」

「……あいつ、やっぱり監視役か」

 あの無表情、あの冷たい視線。

 俺をモルモットとして見ていたのか。


「でも、私は違う」

 幸子の声のトーンが、上がる。


「私は、あなたの若返りが“自然に成立した理由”を知りたいの。


北川豪教授の開発した金属有機構造体に最新のナノマシンを吸着させて実験していたのに…


 国の技術や計画よりも、あなたが体現しているものの方が、正しい気がしてる」


「自然に成立、ね……」


 俺は、窓の外に目をやり考えた。 


 ――そういえば、あの日は、雨も光もあった。

「俺が若返った日、雷雨のあとに虹みたいな光が降ってきたような。」

 

 幸子の目が見開かれる。 彼女の科学者スイッチが完全に入った。


「……自然光のスペクトルが、人工照射より広域なら……!」


 そのとき、ドアが軋んだ。

 振り向くと、佐伯が立っていた。

 ――無音で、まるで影のように。

「話はすべて聞きました」


「あなたは国家資産です。自主行動は控えてもらう」

 と言って、なにか端末を操作する。

 

 次の瞬間、俺のスマートウオッチがピピッと鳴った。


佐伯の端末からは、「位置情報固定プロトコル、作動完了」というメッセージ。

 

冗談じゃない!

こんなことされてたまるかと、スマートウオッチを腕から外そうとしたが、離れない。


 青春どころか、拷問か?ホラー?じゃないか。


 幸子が

「待ってください、彼は協力者です!」


「彼は“制度外”。制度外の存在はリスク」


 佐伯の声は機械のように冷たい。


(国は“命の管理”を始めたんだな) 俺はそう思い

「75歳で若返り、10年働かされ、また老いに戻される。それが新プラン75の正体なんだろ?」



「それで社会が保たれるなら、非常に合理的です」


「……笑わせるな。俺たちは、モルモットじゃねぇぞ!」


 佐伯の眉が動いた。


突然、幸子が俺の腕を掴んで、走り出した。

 ――え?走る?


 外に出ると、どこからかドローンの羽音が響いた。

 青い光が幾つも空を舞い、こちらを照らす。

 逃げ場なんてどこにもない。


 俺は息を切らしながら幸子に言った。


「なぁ、俺は、……俺は、結局なんなんだ?」


 幸子は涙を滲ませ、答える。


「――“未来の鍵”」


 ドローンのライトが視界を白く塗りつぶす。

 まるで、再び“光の雨”が降り注ぐようだった。

 その光の中で、俺はひとつだけ確信した。

 

――この若さは、奪われるためじゃない。


――生き直すための力なんだ。


 心が熱くなる。

 それは、65歳の俺にはもう二度と来ないと思っていた“青春の鼓動”だった。


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