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おっさん、青春はじめます。 第14話 〜若返りバグ~

週末のボランティア生活も、慣れてきて、面白くなってきた。

 見た目は20代、体はキレッキレ。

港湾バイトとジムで鍛えた肉体に、田舎の空気と作業が加わり、頭と身体が冴えていくのがわかる。



これって、“ゾーン"に入っているようなことかも。

若いって、青春って、いいな。


だが――その裏に、頭の中にずっと不穏な感じが残っている。


 佐伯の視線。

 「彼らは武器です」の言葉。


そして、幸子の囁き

 ――「年金制度の改正は視野に入っている」


 俺の“第二の青春”は、ただの青春ごっこでは済まされない。

  そう、これは、俺の年金も吹っ飛ぶ、国の壮大な社会実験だった。


「文化祭の模擬店、何がいい? 焼きそばか? たこ焼きか?」

「カラオケ大会やろうよ! ほら、俺ら、声帯も若返ってるんだから!」


 自治会の会議室では、同志たちがわいわい盛り上がっていた。


 見た目は大学生のノリ。

  でも話してる内容は年季が入っている会話。


「材料は街のダンキ・ホーテで買えば安いぞ、昔からダンキは安い!」


「テントは町内会のを使えば良い、テント張りはうまいもんだよ。」

 

 ――― 青春フェスティバル


表向きは「文化祭の再現」で、地元住民との交流イベント。

 俺も「まあ、悪くないな」と内心頷いていた。


 だが、その空気をぶち壊すように、低い声が飛んだ。

「……茶番だな。そんなもんやって何になる?」


 振り返ると、背の高いイケメン風の若者――いや、戸籍上は76歳の高木が腕を組んで立っていた。

 若返った姿は爽やかモデル風だが、目に宿るのは野望を持つ特有の光だ。



「何になるって……地元の人を喜ばせるんだよ」

 俺がそう言うと、高木は鼻で笑った。


「馬鹿馬鹿しい。俺たちが手にした若さを、

  なぜ“地域おこし”なんかに浪費しなきゃならない? もっと金になることに使うべきだろう」

 

その一言、確かに!!と俺は思ってしまった。



「金になる……って?」


 誰かが聞き返すと、高木は平然と答えた。

「観光資源、土地だ。土地を買い叩いて、外資に売りつければ儲かる。

俺たちなら体力もあるし、人脈も経験もある。昔できなかったことを、今の若さでやり直せるんだ」



「ちょっと……それは違うんじゃ」

 黒柳さん(戸籍78歳、大学生ぐらいにしか見えないけど本当はおばあちゃん)が眉をひそめる。



「違う? 笑わせるな。お前らだって分かってるだろ。国は俺たちを“道具”として見てる。


  だったら、こっちだって若くなったことを利用してやればいい」

 

その言葉に、そうか!


 確かに佐伯は――「武器」と言った。

 だけど、それをそのまま受け入れてしまえば、俺たちは何者にもなれない。


 田んぼで泥にまみれ、地元の女の子から「お兄ちゃん!」と声をかけられたあの瞬間を思い出した。

 あれは確かに楽しかった。嬉しかった。おじさんが生きている実感があった。

 でも、高木の言うことも理解できるし、そう思う。


「俺は違う。泥にまみれるのが楽しいんだ。人に喜んでもらえるのが嬉しいんだ」

と誰かが言った。


「……ククク。ガキに褒められて舞い上がるか。哀れだな。青春の幻覚に酔ってる老人ってやつだ」


 高木の目は、20代の外見に似合わず、欲望に濁っていた。

 


数日後。

 俺は偶然、高木が誰かと密談している場面を目撃した。

 相手は――見えない。


「……地元の土地、全部リスト化しました。権利関係も洗ってあります」


「よろしい。次の段階に進んでもらう」

 この声は聞き覚えがある佐伯の声だ。



(同志の中に……裏切り者? 国と組んで、この町を金儲けに利用しようとしているのか)


 息を殺して、その場を去った俺の胸は、不安と疑惑でいっぱいだった。


 幸子にそのことを言うと、

「やっぱり……。気をつけて。同志の中には“第二の青春”を社会に役立てる気がなく、ただの欲望に走る人もいる」

「誰かと取引してる。土地や資源を差し出す代わりに、裏で見返りを得るのよ」



「そんな……青春のやり直しが、ただの金の亡者なのか」


 幸子は静かに付け加えた。


「覚えておいて。あなたは特別なの。だって、本来は75歳以上が対象。

 でも、あなたは65歳――制度に存在しない“バグ”なのよ」


「本来?バグ?何それ?……だから、君が近づいてきたのか」


「そう。あなたの存在が、この計画を揺るがすかもしれない」


 次の日、高木は 農作業を行う俺たちを横目に、彼はスマホをいじり、何かをしている。


「あいつ……完全に危ない橋渡ってるぞ」 山本(戸籍82歳)が小声で言った。

 

俺は土の暖かさ、空気の冷たさを同時に身体に感じながら、心の中で呟いた。

(青春の若返り、裏切り……そして俺は“バグ”。

 

この青春は、ただの遊びじゃないのは、うすうす感じているが、

   ――どう考えても、身の危険さえ感じるゲームに変わってきている



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