おっさん、青春はじめます。 第11話 〜スーパー公務員〜
体育館での集会が終わり、
俺は幸子と二人、外のベンチに腰を下ろした。
風が肌を撫で、夕暮れの光が地面に長い影を作る。
「ここからが本題よ」
幸子は、少し声を潜めて俺に話しかける。
「さっき話した国家計画。あれ、単なる計画じゃないの。
実際に働いている人たちがいるの」
「働いている人…?」
俺は眉をひそめる。
廃校体育館の集会が、どう世の中につながるのかまだ想像できなかった。
「聞いたことあるでしょ。『スーパー公務員』って言葉」
幸子は俺を見つめ、真剣な目で言った。
「彼ら、単なる優秀な職員じゃないの。市民のために汗を流し、地域活性化や国のプロジェクトを実際に動かしている人たち。
そうね、地区の活性化のために、コシヒカリをローマ教皇に献上した公務員の話し有名よね、そのことがブランドや売り上げを伸ばしたって。」
俺は、
「知ってる、知ってる。」と答えて
(……あれ、有名な話しじゃん、街おこしとか、ブランド化とか。
その後世間は、能力の高い、できる職員をスーパー公務員って言い出して…)
幸子は小さく頷いた。
「そう。あなたも含めて、そういう人たちはほとんどが逆コナン計画の対象になってる」
「……え?」
俺は、返事にならない返事をした。
「ほら、考えてみて。
スーパー公務員は単に頭がいいだけじゃなくて、
現場力とコミュニケーション能力を兼ね備えている。
若返った体を手に入れれば、過疎地に飛ばしても、その地域を活性化できるわ」
幸子の声には、淡々とした説明の中に熱が含まれている。
「つまり……あのニュースで報じられていた、過疎地の生産性が上がっている理由って……」
電車の中の、広告吊りの週刊誌のタイトルに
「新たな事業で活性化!高齢化率50%の村!」
「そう。表向きは地方創生、
実際は若返った“スーパー公務員”たちが影で支えているの」
幸子は鞄から資料を取り出し、俺に見せる。
写真には、見た目が若々しい男女の集合写真。
「この人たちも、逆コナン計画の対象。若返った姿で、地域に貢献しているの」
俺は資料を見ながら、息を飲む。
(……俺と同じ。見た目若い、でも中身は経験豊富な大人。
ページをめくると経歴がある。
元内閣府、元東京都、元山形市、元生駒市、元豊田市…凄い奴らじゃん!
ましてや、
国家計画の道具にされているわけじゃない、貢献のために体が若返る…)
「面白いでしょ? でも、本人たちはあまり目立ちたくないけど、
どうしても世間から見ると、スーパーなのよ」
幸子は微笑む。
「目の前の仕事、地域の人たちの笑顔、それだけで十分って言う人も多いけど」
俺は心の中でつぶやく。
(なるほど…俺が青春ごっこと思っていた港湾バイトやジム通いも、この計画の小さな縮図かもしれない…)
「じゃあ、俺は…?」
「あなたも同志よ。見た目は若者、中身は経験豊富な大人。ここで仲間と会うことも、国家計画の一端に触れることになる」
幸子の声には、挑戦的な響きがあった。
「全員公務員じゃないでしょ?」
俺は資料を見つめながら訊いた。
幸子は笑う。
「もちろん。行政経験がなくても、地域に貢献したことがなくても、計画に選ばれる可能性はあるの。だって国は、未来の可能性を試しているんだから」
俺の頭の中で、これまでの自分の経験と目の前の幸子の説明が重なる。
(……俺も計画に選ばれたのか。……
退職前の仕事、若返りの後の港湾バイト、ジム、そして街での生活…全部…)
「でも、逆コナン化するって…結局、普通の人間とは違う感覚を持つってことだよね?」
俺は恐る恐る訊く。
幸子は真剣な目で頷く。
「ええ。体は若い。でも経験や知識はそのまま。だから地域の問題も、簡単に判断できる。
そして、過疎地域へ行っても住民票上年齢は変わらないので、データでは高齢化率はほぼ変わらない。
普通の若者にはできないことができるのよ」
俺は考え込む。
(普通の若者の体になった俺は、確かに港湾バイトやジムでは有利だった。でも、中身はそのまま65歳…この組み合わせが、国家計画で最大限に活かされるのか…)
幸子が身を乗り出して言う。
「だから、これから過疎地での活動が待っているの。
あなたもそれを体験することで、計画を肌で知ることになる」
俺は息を深く吸った。
(見た目は若者、中身はおっさん――それでも、この先の未来は楽しみだ)
廃校のベンチに沈む夕暮れの光。
風が木々を揺らし、体育館の笑い声がまだ微かに耳に残る。
俺は心の中で、静かに決意した。
(俺も…逆コナン計画の一員として、今の過疎地を変える、そして支える。そして、青春を全力で楽しみながら…)
幸子は俺を見て、微笑んだ。
「さあ、次は現地よ。準備はいい?」
俺は小さく頷き、胸の奥に高鳴る期待を感じる。
(これから始まるのは、国家計画に巻き込まれた青春、でも俺は本物の青春を生きる――)
見た目若い!見た目が若くて動ける!これが良い!
夜風に背中を押され、俺たちは廃校を後にした。
見た目は若者、中身は大人たちの知恵。
巻き込まれて動き出した国家の策略
昔映画で見た「プラン75」は高齢者を制度に組み込む形として、姥捨山を連想させた。
この逆コナン計画は、
高齢者を若者化することで
高齢化問題を解決する、日本に必要な計画、高齢者の社会貢献...すべてクリアだな。
俺は、そう思いながら、折角の青春!を謳歌したいと思った。