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おっさん、青春はじめます。 第10話 〜老人の若者集会〜

港湾バイトとジムで鍛えた若い体を手に入れ、

見た目は20代、中身は65歳。

街の人々からは「博子さんの長男」と

誤解される日常。


見た目は若者、中身はおっさん

――このギャップが、俺の秘密の青春の源泉だった。


そんな俺を、幸、いや幸子さん

(マッチングアプリでは、流石に本名ではなかったようだ)から

今度の土曜日にデートのお誘いがあった。

鴨川からは、LINEでやり取りをしている。


近くの公園で待ち合わせて、

幸子さんの運転の車に乗り込んだ。


1時間と少しのドライブの後

古い学校の前の駐車場に停まった。


美人の幸子さんの隣で、ドキドキしながら、楽しい青春ドライブ。

心の中でウキウキ、ドキドキ。


「ここで自治会があるの。表向きは文化祭の準備とか青春ごっこだけど…」

その言葉に、俺は少し笑った。


景色は完璧に田舎の学校。


幸子さんに導かれ、廃校に足を踏み入れた。

静まり返り、夕暮れの光が窓を通して柔らかく差し込む。

廊下には懐かしい木の床のきしむ音。俺の足音が微かに響いた。


「ここが……自治会の会場?」

「そう。みんな、ここに集まるの」

幸子さんは微笑みながら答える。


廊下を曲がると、体育館に人影が見えた。

見た目は20代前後の若者ばかり

――だが、その目には落ち着きと、どこか老獪さを感じる。

(……これは……何?)


「ようこそ、初参加の同志、よろしくお願いします!」

大きな声に振り向くと、座席の端に座る一人の男性が手を振っていた。


「よろしくお願いします!…って、見た目は若いけど、頭の中は全員俺と同じくらいの年齢かもしれんな」

俺は心の中でつぶやく。


体育館の奥では、テーブルを囲んで何人かが書類を確認している。

「表向きは青春ごっこだけど、裏では国家計画が動いているのよ」

幸子さん・・・幸子の耳打ちで、俺は息を呑む。


「国家計画?」

「日本の高齢化を救うために、若返った人材を過疎地域に送り込むの。農業、林業、地方創生…全部ね」

俺は黒板に貼られた地図を見る。赤いピンが点々と刺さっている。

(このピン、全部か……国家計画が密かに動いているのか…)


体育館では、若返ったメンバーたちが笑い声をあげながら準備をしている。

「次の青春ごっこは文化祭や!焼きそばやるぞ!」


「いやいや、屋台の準備は体力的に無理やろ!」


「できる、できる!

昔だったら無理だけど今のなりなら楽勝!」


「そうだったなー、腰痛気にせんで良くなったわ」


俺は小声で幸子に呟く。

(これは…青春というより、若返った老人会だな…)


「でも、全部表向きなの」

幸子の目は真剣だった。


「表では青春ごっこ。でも、裏では過疎地で活動するための準備。

つまり国が画策した“高齢者再利用計画”

私の言う逆コナン計画よ」


「国家計画!」

俺はその言葉に少し驚いて声を上げてしまった。


(65歳の俺が……国の計画に巻き込まれた?)


体育館の片隅で、

若返った女性たちが手分けして資料を整理している。


見た目は大学生、手際の良さと落ち着きから察するに、ただの学生ではなさそう

(……なるほど、これも同志の力か)


幸子が俺の肩に手を置き、静かに微笑む。


「ここからが本当の青春よ。見た目だけじゃない、本物の経験と知恵を活かせる場所」


俺は改めて、体育館を見渡した。

見た目は若者、中身はおっさん・おばさんたちの集まり。

笑い声、作業の手際、そして微妙に漂う緊張感――すべてが異様で、でも考えたら非常に魅力的だった。


「同志、まずは自己紹介から始めよう」

一人の若返った男性が声をかけてくる。


俺?

と思ったが、まぁ自己紹介する。


「俺は港湾で体力仕事をしていて、ジムで鍛えてる…そして見た目は若いけど、中身は65歳で…」


一瞬の沈黙の後、会場は笑いに包まれる。

「分かるわ、その気持ち!」

「俺もや!」


俺は苦笑する。

(見た目は20代、でも中身は65歳。これを理解してくれる人たちがいるなんて…)


幸子は俺の隣で微笑む。

「これから、あなたもここの一員として、過疎地での活動を体験するの」

「過疎地…ですか?」

「ええ、国家計画の一環。経験と知恵が役立つわ」


俺は心臓が高鳴るのを感じた。

(国家計画…過疎地…俺の人生、また一段階加速するのか…)


集会が終わるころ、体育館の外には夕暮れが広がる。

風が木々を揺らし、赤いピンの刺さる地図を思い出させる。


「さあ、次は現地調査よ」

幸子の声に、俺は深呼吸した。

(若返った体で、頭は65歳。これからどんな経験が待っているんだろう…)


俺は新たな青春の幕開けを、

ドキドキしながら今から楽しみにしていた。


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