おっさん、青春はじめます。〜年金ってもらえるよね〜
年金貰えないと
大変❗️
また仕事をするのか?
鏡の中に映るのは、若返った自分。
肩幅も背筋も、かつての力強さを取り戻している。
だが――俺の頭の中は混乱の渦だった。
「ちょ、ちょっと待って。あなた……ほんとにうちの人?」
リビングでお茶を置いたまま、妻・博子が半歩あとずさる。
50歳、見た目は若々しい彼女でさえ、この状況には対応できていないらしい。
「お、俺だよ。間違いなく。昨日の夕飯、さんま塩焼きだったろ?
あの骨を取ってくれたのは誰だ?」
「……それ、私」
「ほらな」
間の抜けたやり取りのあと、博子はソファに腰を落とした。
「嘘でしょ……どう見ても20代。芸能人みたいに若いじゃない」
「いや、芸能人でもここまで戻らんだろ」
冗談で返してみたが、博子の目は真剣だ。
そこでふと、俺の頭をよぎる不安があった。
「……なぁ、博子。これでも年金って……もらえるんだよな?」
「……は?」
博子の眉がぴくりと動いた。
「だってよ、65歳まで働いて払ってきたじゃないか。
体は若くなったけど、戸籍上は俺は65歳だ。
まさか“若返ったから支給停止”なんてことは……」
「知らないわよ! 年金機構に聞いてみたら?」
思わず俺は頭を抱えた。
若返ったことよりも、生活の資金源が途絶えることのほうが怖い。
せっかく手に入れた青春も、財布が空っぽじゃ話にならん。
「……年金、止まったらどうする?」
「あなた、見た目25歳で就職すればいいじゃない」
「おいおい! 俺の履歴書には“昭和生まれ”ってバッチリ書いてあるぞ!」
「なら、面接で“逆コナンしました”って言うの?」
「誰が信じるんだよ!」
二人して言い合う声がリビングに響き、しばし沈黙。
そして真理子は、くすっと笑った。
「でも……もし年金もらえるなら、すごいわよね」
「なにが」
「若い体で年金生活。青春と余生のダブル取り。最強じゃない」
言われてみれば、その通りだ。
俺は思わず笑ってしまった。
不安よりも、なんだかおかしくて仕方がない。
「よし、決めた」
「なにを?」
「次の週明け、年金事務所に行く!」
「……窓口の人、腰抜かすわね」
こうして俺たちの“若返りと年金問題”の第一歩が始まった。