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最終話です。

ここまでお付き合いくださりありがとうございます。

「さて、ヴィクターどうする?」


「……」


「お前も金龍に獣化して戦うか、影に戦わせるか。どちらにせよ世界最強と謳われる黒竜相手に挑もうなんて賢明ではないと思うが。もちろん、リルを怪我させられて手加減する余裕などないと伝えておく」


「……」



しばらく考える素振りを見せた後、ヴィクターは剣を遠くに放り投げ跪いた。影たちもそれに従った。



「すまなかった」


「ああ」


「羨ましかっただけなんだ、お前が。膨大な魔力を持ってお父上からは期待され、婚約者には愛されているお前が。玉座はいらない、ルカレインに譲ろう。もう二度と歯向かうこともしない」


「そうか。……ちなみに王になるのはごめんだ。民を導く器じゃない。そういうのが向いているのはヴィクター、お前だ」


「しかし……」


「俺は従わない奴など切って捨てるしかできん。力の制御も」



先ほど切り捨てた影の首を見ながら言う。



「だから、任せた」


「分かった」


「では、早く帰って寝ろ。明日はちゃんと起きて執務をしろ」



そして、ルカレインは後ろを向いた。



「ヴィクター、お前が言うほどこの魔力は良いものでは無かったよ」



どうするんだろうと考えていた矢先、なんとしっぽで投げ飛ばした。

ベシッと大きな音がしてヴィクターと他4名が宙を飛んでいく。うん、多分王城のある方向なのだろう。ここがどこか分かんないけど。



「ガウ!!」


「あいつらも決して弱くないから、魔法なり獣化するなりで受身は取るだろう」



そして、ルカレイン様は獣化を解いて寝転がった。教会の中とはいえ、ここは廃墟。埃にまみれてしまう。



「ガウ!!(なんで寝るのよ!帰りましょうよ!)」

「いや、実は魔力がなくてな」


「ガウ!(漆黒の髪を持ってるくせにそれはないでしょ!)」


「本当だよ。本気で死ぬつもりだったから、抵抗しないように魔力を大気に放出しまくっていたんだ。けど、さっき君を殺されるかもって思って残ってた魔力全部使ってしまったから、もう一歩だって動けない」



そんな……。

衝撃を受けてどこから突っ込めばいいかすら分からない。



「ねぇ、リル。君はリネなんでしょ?」



驚いた。

すぐに獣化を解除する。



「ど、して……?いつから?」


「君を拾った翌日に、君のブルートパーズの瞳を見てから」


「かなり最初からじゃないですか」


「あと匂いが同じだから」


「変態ですか?」


「いや、獣人としての本能」



とすると、それ以降に戯れついたり甘えたりしたのは私と知られた上で……。

というか、



「お風呂!!一緒に入った!?」


「ん?最初を含めて腰にタオルを巻いていたが」



そういう問題じゃなーい!!

恥ずかしい。もう、お嫁に行けない。いや、この場合婚約者だから関係ないんだけどね。



「すぐに家に帰そうかとも思った。けど、家族は君を探す様子もない。それなら手元にいてもらってもいいかなって。一目惚れだったんだ」



そして彼はふわりと笑う。



「一目惚れ……。ずっと片想いじゃなかったの?これまで素っ気なかったのに」


「まさか、君も僕を好いてくれているのか?」



目を見開いた彼の言葉に頷いた。



「素っ気なかったのはすまない。これまで近寄った人には怖がられていたから、どうやって接したら怖くないか探っているうちに言葉数を減らせば良いのかと……」


「嫌われているのだと思ってました」


「それは違う!!」



はっきりと否定されてしまった。



「一目惚れした相手が、死にかけていたんだ。しかも家族は大事にしていない。なら手元におこうとした。そしたら余計離れがたくなった」



さっきと同じ言葉を繰り返す。

まるで頭を整理しようとするように。



「だから、距離を置こうとしたのにどうして来たんだ」


「あの、そもそもどうして離れようだなんて寂しいことをおっしゃるのですか?夜会の時もそうでした。貴方は、ルカ様はいつも独りよがりです」

「そんなことは……」



言いかけて心当たりがあったようで口をつぐまれてしまう。



「これまでだって、今もそうじゃないですか。肝心なことを言わず勝手に決めて。何を言ってもこちらの言葉を心から受け取ってはくれない。こちらの気持ちを考えたことありますか?」


「すまなかった」



起きていたなら頭を下げていそうなしょんぼりした声音だった。



「……本当はもう死んでもいいかなと思ったんだ」



間を置いてから語り始めた。



「そうしたら手放してやれる。王族に婚約破棄された不名誉な令嬢としてではなく、不慮の事故によって婚約者を失った可哀想な令嬢として。そのほうが幸せだろう」


「誰がそんなこと望みましたか?勝手に人の幸せを決めないで下さいませ」


「本当にすまない」


「なら、撤回して下さい」



腰に手を当ててルカ様を睨んだ。



「何を?」


「バカ!夜会であなたが言った婚約破棄をよ」



キョトンとした顔をされた。

全く、したいのはこっちだというのに。



「こんな僕とまだ一緒にいてくれるのか?君を散々傷つけたのに。せっかく獣化だって成獣の姿になれるようになったのに」


「あなたじゃなきゃ嫌よ。確かに、狼獣人は強いから欲しい人は多いでしょう。けど、そんな強さしか求めてない輩なんてこっちから願い下げだわ。私が愛してるのは貴方だけなの」



引き寄せられて気がついたらルカ様と口づけをしていた。触れるような優しい口付けを。



「……ふぇ?」

「婚約破棄を撤回する。僕も一生リネだけを愛すると誓うよ。もう間違えない。間違えるものか。死ぬまで離さないから」


「はい。離さないで下さい」



そのまま抱きしめられてしばらく動かなくなった。



「る、ルカ様?……まさか、寝てる!?」



どうやら魔力切れで限界だったみたい。今まで会話出来たのはギリギリで意識を保っていただけのようだ。



「まだ起きてる。今日はこのまま寝て、明日の朝帰れば良い」


「王族をこんなとこで寝かせられるわけないでしょー!!!」



叫んだ私は再び獣化して、ルカ様を背中に乗せて帰城したのだった。帰路は匂いでなんとかなった。

城に仕えている方には野良犬が迷い込んだと思われたらしい。

だから、オオカミだって!!といういつもの突っ込みをしながら、獣化を解きかくかくしかじかと説明をした。

最初はオロオロしていたメイドさん達は、説明を聞くうちに何故か怒りを向けてきた。



「こんなに汚れて、殿下も何を考えているの」

「リーネル様も衛兵に救いを求めてください」

「獣化したまま城に突進しないでください」

「殿下は自分を大切にしてくださいと言いましたよね」

「とりあえず風呂の用意ー!!」



そのとき、背中におぶったままだったルカレイン様が身じろぎした。背負ったままで疲れないのはどうやら成獣になれるようになって力が増したようだ。

流石に令嬢が成人男性を背負っているのはどうかと諭されたのもあって、彼を下ろした。



「ルカレイン様、城に着きましたわよ」


「ルカ……さっきはそう呼んでくれたのに」



目覚めてすぐ聞くことがそれなんだ。



「あれは慌てていたからで」


「一回呼んだなら二回もずっとも同じだ。リネ」


「ルカ……様」


「あぁ、愛しいリネ」



そして、婚約してからこれまでで最も優しい笑みを浮かべた。


のちに、ルカ様は「僕の妻は優しくて逞しい」と部下に自慢をした。そして、どういう訳か、城には私がルカ様を尻に敷いているという不名誉な噂が流れた。







───この国には千年続くおとぎ話がある。


獣化が上手くできなかった女の子が王子様と婚約する物語が。

その女の子ははじめ自分に自信が持てず婚約者と話すことにすら怯えていた。だが、あるとき自信を持たなければ気持ちを伝えることなど無理だと悟る。

そして獣化できるようになり、王子を救い、結婚した後、王子様と国中を旅して周る。

旅の途中、悪党を次々と倒していくのだが、それはまた別のお話。




ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

また余裕があったらルカ視点を書こうかと考えております。


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