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その夜、王都で盛大な夜会が開かれていた。

王宮の広間は、シャンデリアの光に照らされ、貴族たちの笑い声と音楽で満たされている。

私はいつものようにルカの婚約者として、彼の隣に立つことを許されていた。つい、数ヶ月前までは夜会に参加すること自体を義務的なものと考えていたけれど、今はルカレイン様と一緒に過ごせる貴重な時間と考えるようになっていた。

ドレスの裾を握りしめ、落ち着かない気分を落ち着かせようとする。だって、この人は私のことを好いてくれている。それが恋愛的な意味かは分からないけれど一方的な想いだったときよりどういうわけかそわそわしてしまうのだ。

ルカレイン様はそんな私の緊張に気づき、そっと手を握ってくれた。



「リネ、緊張してる? 大丈夫、君は美しいよ」



彼の微笑みに、私は頬を赤らめた。



「ありがとう、ございます」


「ごめん、言われ慣れてなくて恥ずかしいんだよね。でも、気づいたんだ。気持ちは言葉にしないと気づかないんだと」



確かに前の彼なら絶対にこんなこと口にしない。

そればかりか必要最低限しか会話をしなかった。



「それに、なんだか話しやすくなった。きっと子犬のおかげだな」


「子犬……」



それは、もしかしなくとも私のことでは?



「最近、よく俺の部屋に遊びに来てくれる子がいてね、その子がリネにすごく似ているんだ。真っ白な毛にブルートパーズの瞳を持っていてまるで天使のようで。それでよく話を聞いてもらってるんだけど」



分かっている。

褒めているのは獣化した私のことで、私を褒めているつもりじゃないのは。でも、結果的にそうなっている。

嬉しい。けど恥ずかしい。

顔に血液が集まっていくのが感じられる。


「そしたら、リネとも話しやすくなって」と、笑った。

あぁ、破壊力。

美形が笑顔を向けてくれるなんて最高ね。

思わず顔を背けてしまった。



「ずっと隣にいたいなんて願ってしまう」



聞こえるか聞こえないかギリギリのその言葉は夜風に攫われて消えていく。どうしてか独りよがりなものに聞こえてしまったのはなぜだろう。



「……ルカレイン様?」


「俺たちも一曲踊ろうか」



さっきの憂いたような声が嘘だったように明るい声で誘われて。目の前で跪かれ手を差し出される。



「リーネル嬢、私に美しいあなたと踊る権利をくださいませんか?」


「喜んでお受けいたします」



そこからはまるで夢のような時間だった。

ルカレイン様はとてもリードが上手く、身体が軽くなったようにターンしたり、ステップを踏めて楽しかった。一曲と誘われたが実際はもっと踊った。

ずっと踊っていたかったが体力が先に来てしまう。



「少し休みませんか?私、少し疲れてしまって」


「それは気づけず失礼した。リネと踊るのがとても楽しくて」


「私もです。ルカレイン様と踊るとダンスが上手くなったような気がして」



休憩をするために手を引かれてバルコニーに来た。

夜風が気持ちいい。

どうやら今夜は新月らしい。

暗くてあたりが見えにくいがその分星ははっきり見えた。

真っ赤な星が彼の目のようで綺麗だ。



「星が綺麗ですわね」


「ああ」



思ったことを口にした。

そうだな、とか返ってくるかと想像していたけれど、返ってきたのは出会った頃のような素っ気ないものだった。

嫌な予感がして声をかけた。



「あの、殿下?」


「……」



バルコニーの端に立って星を見ているルカレイン様は振り向いてくれない。近づこうにも、そうしづらい雰囲気だった。



「……破棄してくれないか?」


「それは、どういう。聞き間違えですよね」


「リーネル・アルストリカ子爵令嬢。君との婚約を破棄したい」



どうして?

何かの間違いだ。だってダンスをする前はあんなに優しかったじゃないか。ダンスをしている間だって目が合うたびに笑いかけてくれて。それとも、踊っている時には既に決めていたというの?



「……どうしてでしょうか?私、何か間違いましたか?」


「違う」


「やはり、私ではあなたの妻として不十分でしたか?」


「違う」


「では、私が魔力を持たないから?それとも、獣化が不完全だから?……私が……わたし」



星が滲む。

止めようとするけれど、逆に雫がポロポロ溢れるだけだった。

化粧が落ちて酷いことになっているだろう。

だからせめて下を向いて見えないようにした。



「どれも違う。ただ、君にはもっと幸せにしてくれる相手がいるはずだ」



なによそれ。そんな人、貴方以外にどこにも。




「だから、どうか幸せになってくれ」




こんにちは。

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