【第九話】‘’視える‘’
「リク! また魔獣が出た! 今度は二体!」
村の見張りが、焦った様子で広場に駆け込んできた。
ガルドがすぐさま顔を上げ、立ち上がる。
「種類は?」
「黒毛の獣が二体。おそらく──『ツィガンドッグ』だ!」
場が静まりかえる。
それは、ダスクウルフよりも凶暴で、俊敏。
しかも二体同時──これは明らかに手強い。
「……行かせてください」
俺はすぐに言った。
皆の視線が一斉にこちらを向く。
「リク、無理はするな。お前はまだ──」
「‘’視える‘’んです。敵の動き、装備の適正、地形の有利不利……見える情報がある」
沈黙。
そして、ガルドが静かにうなずいた。
「わかった。お前の目、頼りにさせてもらう」
◆ ◆ ◆
森の北、浅い窪地。
そこに、二体のツィガンドッグがいた。
一体は牙が折れており、もう一体は片足を引きずっている。
俺はすぐさま《解析》を発動した。
《解析》
――――――――――
【個体A】
・左後脚:筋断裂による歩行障害
・右眼:濁りあり(視界不良)
・戦術的推定:背後からの接近に弱い
【個体B】
・牙破損/攻撃力減少中
・怒りの感情値:高
・突進パターン固定化:目前7m → 二段跳び → 頭部突進 ――――――――――
(……視えた)
俺はすぐさま木の枝を集め、地面に簡単な戦術図を描いた。
「ツィガンの片方は後ろに弱い。もう片方は突進のタイミングが固定されてる」
「マジか……そこまで見えるのかよ」
「ガルドさん、頼みがあります。俺が合図したら、この場所に引き寄せてください。ここには罠があります。落とし穴の残骸、気づかないはずです」
ガルドの目が鋭くなった。
「──やってみよう。お前の判断に賭ける」
◆ ◆ ◆
作戦は、驚くほど鮮やかに決まった。
ガルドたちが片方を引きつける。
俺がもう片方の死角に回り込む。
突進のタイミングを読んで、地面に仕込んだ杭へと誘導。
ガシュッ!
獣が自ら杭に突っ込み、呻き声を上げて倒れる。
それとほぼ同時に、もう一体も罠に落ち、動きを封じられた。
◆ ◆ ◆
「すげぇ……」
「一撃も交えずに、あの魔獣を……」
「リク、お前、いったい……」
村人たちの視線は、恐れと驚きが混ざったものだった。
「いえ、俺はただ……視えたものを伝えただけです」
そう言うと、少し笑ってみせた。
(違う──もう"ただの転生者"じゃない)
(今の俺には、《解析》という、戦場で通じる"目"がある)
この世界の理を読み、戦いの形を作る力。
それが、自分にできる唯一の戦い方。
(チートなんかじゃない。地道に、ひとつずつ、意味を掘り起こしていく──)




