【第八十五話】再び、仲間とともに
強烈な日差しが傾き始め、赤みを帯びた空が草原を染める頃――リクたちは、〈風渡りの平原〉の出口に差し掛かっていた。
その先、草の海の向こうに立ち尽くすのは、調査団の一団だった。
「……あれ、あの装備、見覚えある。あれ、調査団だよ!」
ミナが声を上げて手を振る。相手もすぐにこちらに気づき、数人が駆け寄ってくる。
真っ先にやってきたのは、大柄で陽に焼けた肌の男だった。
「おいおい、生きてたか、リク!」
「ゼルド隊長……! 只今戻りました!」
リクは思わず表情を緩め、軽く頭を下げた。
「三人だけで大丈夫か心配だったが……無事だったか。よかったな」
「はい。なんとか。」
リクは背後に目を向ける。ミナとメイも軽く頭を下げていた。
「ふん、ミナもメイもよく戻った。さて――」
ゼルドはぐるりと辺りを見回し、少し声を落として言う。
「状況が変わった。〈灰の渓谷〉の封印が解かれちまったらしい」
「……えっ?」
リクの目が見開かれた。
ゼルドはうなずくと、顎をしゃくって言った。
「この先だ。渓谷の入り口で妙な波動が観測された。調査団の連中もさすがにただの“地殻変動”じゃ済まされねぇってことで、急遽向かうことになった。お前たちも来い」
「わかりました。……僕たちも協力します」
「よし、そうこなくちゃな」
ゼルドはがははと豪快に笑い、歩き出す。その背を追うようにして、リクたちも隊列に加わった。
その後、渓谷の入り口までは思ったよりもすぐだった。
だが――
「これは……」
渓谷の入り口に広がっていたのは、明らかに“人の手”では解明できない異様な光景だった。
空気はざらつき、地表には黒く焼け焦げたような痕。中心には、まるで“焼け落ちた祠”のような構造物がぽつりと立っていた。
リクは、心臓が高鳴るのを感じていた。前回の“扉”――あの場で得たスキル。それが、再び呼び覚まされるような感覚。
彼はそっと目を閉じ、「解析」を起動した。
《解析開始:対象、空間異常反応》
数秒の沈黙ののち、脳裏に情報が流れ込んでくる。
――この場所には、数十年前に施された“封印式”が存在していた。
――それが、何者かの意図によって“解呪”されている。
(つまり誰かが……意図的に、開けた?)
だが、それだけでは終わらなかった。
リクの視界に、新たな構文が浮かび上がる。
《新スキル:解析進化【魔術変換式】》
同時に、脳裏に“呪文”の構造が流れ込む。
それは、以前よりも遥かに複雑で、制御の難しい“構成魔術”だった。
(やってみる……!)
リクは手をかざし、意識を集中させる。
魔素を編み込み、魔術を構築し、圧縮する。そして――解放。
空間が震え、光が一閃した。
放たれた魔術弾が渓谷の奥へと飛翔し、朽ちた岩壁に炸裂する。
――ドォン!
爆音と共に岩肌が崩れ、白い蒸気と塵をまき散らして、そこにあった“封鎖”が崩壊する。
「すげぇ……」
誰かの呟きが、隊列の後ろから漏れた。
「これが……僕の“新しい力”です……!」
リクは、初めて心の底から震えるような確信を抱いた。
この力は、彼に託されたもの。そして、この先にある“なにか”を解き明かす鍵だ。
「行こう。……〈灰の渓谷〉の奥へ」
リクの声に、ゼルドが笑った。
「いい返事だ。なら、お前が先頭だ。俺たちが後ろを守る」
「……はい、任せてください!」
新たな力を手に、リクは歩み出す。
目指すは、渓谷の深奥。未知なる扉の先に待つ真実を探るために――




