【第八十二話:封じられた扉】
地下への入口は、崩れかけた床の一角にぽっかりと開いていた。
かつては扉があったのだろう。今は錆びた蝶番の残骸が、岩壁にへばりついているだけだ。
「気をつけて。魔素が濃い。……それに、音が吸い込まれるような感じがする」
リクが言い、足元を照らす灯を手に降りていく。ミナとメイも後に続いた。
階段は苔と灰で滑りやすく、深く、そして異様に静かだった。
やがて、三人は地下一層と思しき空間にたどり着く。古びた石壁には、今は読めない古語の標記が並んでいた。
「……ここ、やっぱり研究所だったんだ」
ミナが壁を指さす。その一角には消えかけた紋章――“王国の紋”があった。
リクはすぐさま《解析:魔痕情報》を起動する。すると、時を越えてわずかに残された情報の断片が浮かび上がってきた。
「……これは、実験記録? “魔源体との接触報告”、それと“封鎖命令”?」
リクの声に、ミナとメイが息をのむ。
「接触って……つまり、この場所で“魔源体”が?」
「……一時的に、ここに封じられていた。だけど暴走した。研究者のほとんどは……逃げられなかったみたい」
淡々と語るリクの声には、少しだけ感情が滲んでいた。
そして、その最奥――さらに下へと続く“扉”が存在していた。
その扉は、魔素の結晶化した鉱石で封印されている。無理に開けようとすれば、周囲の構造ごと崩れ落ちる危険があった。
「けど、これは……誰かが、外からじゃなく“中から”閉めた封印だ」
リクがそう呟くと、メイが鋭い声をあげた。
「感知、内側に“存在”……現在も微弱な魔素波動が継続中」
「まだ、生きてる……?」
ミナの声が震える。
封印の中に、“何か”が生きている。もしくは――死んでなお、何かを発し続けている。
リクは封印の文様に手を添える。
浮かび上がる古い術式の記憶、震えるような文字の羅列、そして最後に一言――
『この扉の先は、“誰も”開けるな』
その筆跡には、決意と、哀しみが刻まれていた。
「これは……ただの封印じゃない。“警告”だ」
リクがそう言った瞬間、背後から――
「よくぞ、ここまで来たな」
という低い、しわがれた声が響いた。
三人が振り向くと、階段の上に一人の老人の影があった。
黒衣のローブをまとい、腰を杖で支えている。
その瞳はリクを見て、そしてゆっくりと言った。
「お前たち、“扉”の継承者か。それとも、滅びの使者か……」
リクは無言でその男と向き合う。
長き封印の記録、そして“中にあるもの”。
過去と現在が、交差を始めていた。




