表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/303

【第八十一話】灰の山脈へ

 翌朝、薄明かりの中でリクたちは焚き火の後始末を終えた。

 空はどこまでも灰色で、遠くの稜線には霧がかかっている。草原の終わりは静かで、まるで大きな境界線を越える前の“黙礼”のようだった。


 「……さて。いよいよ、山だね」


 ミナが小さく息を吐いた。


 「うん。ここからは上り道。魔素の密度も変わってくる。気温はもっと下がるだろうから、気を引き締めて行こう」


 リクはそう言いながら地図を確認し、風の記憶で得た情報を頭の中で重ねた。

 〈灰の山脈〉の内部には、古い鉱道や観測施設跡のような構造物が散見されるらしい。だが、それらがまだ“残っている”とは限らない。


 「……目指すのは、地図の記された“灰の裂谷”。ただの地形名か、あるいは――」


 「魔源体に関係ある場所、かも」


 メイが静かに言葉を継ぐ。


 彼女はこの道中、いつも以上に無言だったが、顔を上げた時の目だけは鋭く、何かを探っているようだった。


 登山道に差し掛かると、地形は一変した。

 草はまばらになり、岩と土がむき出しになる。踏みしめる足元から、かすかに鉄と硫黄のような匂いが立ち昇っていた。


 「……火山性の地盤かな。魔素の流れも、ちょっと荒れてる」


 リクが魔素流を感知しながら進む。山の内側では、魔力は常に流動していて、場所によっては制御しきれない乱流が発生する。そこに足を踏み入れれば、最悪、術式の暴走に繋がることもある。


 「メイ、どう?」


 「安定範囲、まだ維持可能。でも、注意必要。深部に進むほど環境変化が急激になる」


 リクは小さく頷いた。


 空はさらに暗く、霧の層が低く垂れている。太陽の位置さえ曖昧で、まるで時間の感覚が失われていくようだった。


 そんな中、ミナがふと足を止めた。


 「……ねぇ、あれ。見える?」


 霧の向こうに、岩肌に張り付くような“建物”の輪郭が浮かび上がっていた。

 かつての監視塔か、廃れた観測拠点か。少なくとも、人工物であることは間違いなかった。


 リクは一歩前へ進み、《解析:構造素性》《感知:残留魔素》を発動する。


 「……これ、百年以上前の建築だ。かなり崩れてるけど、地下に通じる道があるかも」


 「何か、痕跡が残ってるといいけど……」


 ミナがそっと呟いた。


 「――気をつけて。……ここ、“記憶”が濃い」


 メイの言葉に、リクも思わず息を呑んだ。


 確かに、この建物の周囲には微細な魔素残滓――それも、強い“想念”を含んだものが漂っていた。怒り、恐怖、そして断絶。


 まるでここで、“何かが終わった”かのような痕跡。


 リクは深く呼吸を整え、地下への入口を見つめた。


 「……行ってみよう。何があった場所なのか、知る必要がある」


 ミナとメイも、無言でうなずいた。


 そして三人は、灰の山の裂け目へと――足を踏み入れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ