【第八話】生きるために
夜が明け、朝日が村の屋根を照らし始めたころ──
俺たちは、ダスクウルフの亡骸とともに村へ戻ってきた。
その姿を見て、村人たちはざわついた。
「倒したのか……?」
「リクが一緒に?」
「ガルドが怪我してないってことは、うまく連携できたってことか……」
驚きと、安堵。
そして、微かな尊敬が、俺に向けられているのを感じた。
(昨日までは、完全によそ者だったのに……)
人は、結果に正直だ。
信頼は、言葉じゃなく行動で築くものなのだと、思い知らされる。
◆ ◆ ◆
その日、村の食堂ではちょっとした騒ぎになっていた。
「リク、こっち座りなって!」
「ほら、これ昨日の余りだけどな。肉、食って元気つけろ!」
厚めのスープ、ちぎったパン、焼いた干し肉。
どれも素朴だけれど、あたたかい。
差し出される皿や言葉が、今の俺には何より嬉しかった。
「……ありがとう」
短く礼を言うと、逆に場が少し静かになった。
「おお……今、笑ったか? リクが?」
「おい、貴重だぞ、これ!」
笑い声が、ぽつぽつと広がっていく。
(不思議だな……俺、ここで……少しずつ居場所を得てる)
◆ ◆ ◆
しかし。
──その一方で、心に引っかかっていることがあった。
(《解析》……あの戦いの時、ただ名前と状態がわかっただけ。それだけで、勝てたのは運が良かっただけだ)
魔獣の性質、動き、弱点──
もっと深く読み取れれば、戦いを有利に進められるはず。
(あのスキル、もっと使いこなせないか?)
◆ ◆ ◆
夕方。
村人たちが休み始めるころ、俺はひとり、裏の小さな丘へと向かった。
ここは人の気配が少なく、静かに集中できる。
そして、地面に落ちていた折れた獣骨を拾い、《解析》を発動する。
《解析》
――――――――――
【名称】不明(骨片)
【素材】ダスクウルフ属
【状態】魔力汚染残留(微)/剥離劣化中
【用途推定】素材変質による呪毒派生の可能性:低
――――――――――
(……おい、すごい情報量じゃないか)
対象が死んでいても、部位によっては状態や性質が読み取れる。
しかも、《用途》まで推定されている……?
俺はさらに、木の枝、石、刃こぼれしたナイフ、服の布片……次々と《解析》を試した。
《解析》
【木の枝】
・湿度あり
・熱による脆化可能
・持続時間:約17分(火種として使用した場合)
《解析》
【ナイフ(鉄製)】
・鋼鉄比率低/刃耐久:低
・弱点部位(継ぎ目)あり:打撃で折損しやすい
(これ、戦闘だけじゃない……環境、装備、戦術判断にも使える……!)
俺の心がざわめいた。
(これが、チートってやつか……いや、でもまだ"ただの調査ツール"でしかない)
──だったら。
(これを"戦術"に昇華させてやる)
◆ ◆ ◆
帰り道。
俺はぼんやりと空を見上げた。
夜空には、異世界独特の青白い月が浮かんでいた。
──この世界で、俺が持てる武器は、腕力でも魔法でもない。
(知識と、観察と、思考……)
それを最大限に活かして、生き抜く。
このスキルは、ただの便利機能じゃない。
生きるための"目"なんだ。
──そう、心に誓った夜だった。




