表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/289

【第六話】防壁と最初の異変

 朝靄が晴れきらないうちから、村は慌ただしく動き出していた。


 男たちは木材を運び、女たちは食料と水をまとめ、子どもたちは指示に従って荷物を運んでいる。

 小さな村なのに、こういう時の団結力は驚くほどだ。


 俺も、ガルドたちと一緒に、防壁作りに加わった。


 


◆ ◆ ◆


 


「リク、そっち持ってくれ!」


「ああ!」


 ガルドが指差したのは、切り倒された太い丸太だった。

 俺は全力で押し、二人でそれを畑の周囲へと運ぶ。


 呼吸が荒くなる。

 体力には自信がなかった。現世でも、デスクワークばかりで鍛えた覚えはない。


(……でも、ここでは、動かなきゃ生きていけない)


 俺は歯を食いしばり、丸太を引きずる。

 手のひらが痛みで熱を持ち、汗が目に滲む。


「よし、そのまま押し込め!」


 ガルドの号令と同時に、丸太を地面に立てる。

 ズズン、と鈍い音が響き、簡易的な防壁がまた一つ増えた。


「ははっ、いい腕してんじゃねえか!」


 ガルドが笑って肩を叩く。


 俺も、苦笑しながら頷いた。


(こんな汗のかき方……いつ以来だろうな)


 現世で、空調の効いた部屋に座りっぱなしだった日々を思い出す。

 苦しい。でも、今ここにある"生きている実感"は、あの頃とは比べものにならない。


 


◆ ◆ ◆


 


 防壁作りは、夕方まで続いた。


 簡素ではあるが、畑をぐるりと囲む高さ二メートルほどの木壁が完成する。


 村人たちの表情にも、少しだけ安堵の色が見えた。

 それでも、まだ気は抜けない。

 魔獣は夜に動くことが多いと、ガルドは言っていた。


「今夜は見張りを立てる。交代でな。

 リク、悪いが、お前にも頼む。夜明け前の最後の見張りだ」


「わかった」


 少しでも役に立てるなら、それでいい。


 こうして、俺は村での初めての"夜の仕事"に就くことになった。


 


◆ ◆ ◆


 


 深夜。


 焚き火の小さな火が、パチパチと音を立てている。

 空は雲に覆われ、星も月も見えない。

 あたりは、まるで息を潜めたように静かだった。


 俺は防壁の外れに立ち、じっと森を見つめる。

 昼間の疲れはあったが、不思議と眠くはなかった。


(この静けさ……)


 胸騒ぎがする。


 何かが近づいている。

 そんな、根拠のない確信。


 ──カサリ。


 わずかな、草を踏む音。


 俺は、腰のナイフに手をかけた。

 目を凝らす。


 暗闇の中、何かが動いた。


 四つ足の、獣の影。

 いや、違う。


 影の輪郭は、何か不自然に歪んでいた。

 まるで、煙が生き物の形を取ったような、異様な存在。


(《解析》だ!)


 瞬間的に、スキルを発動する。


《解析》


――――――――――

【名称】ダスクウルフ(魔力異常体)

【状態】高濃度魔力汚染/異常興奮/危険度:中

――――――――――


(間違いない……昨日のやつだ)


 しかも、より危険な状態になっている。


 冷たい汗が背中を流れた。


 すぐに、背後の見張り台へ駆け寄る。


「ガルド! 起きろ! 来る!」


「……!?」


 ガルドが飛び起き、斧を手に取る。


「魔獣か!?」


「間違いない。ダスクウルフ、魔力にやられてる!」


 その瞬間、村のあちこちから緊急の鐘が打ち鳴らされた。

 子どもたちを避難させ、戦える者たちが防壁の内側に集まってくる。


 防壁の向こう、暗闇の中で、何かが吠えた。


 喉を引き裂くような、異様な咆哮。

 それは、村の夜を裂き、誰もが息を呑むような緊張を生んだ。


(……俺も、戦うのか)


 ナイフを握る手に、力を込めた。


 震えは、ない。


 恐怖も、ある。でも、それ以上に──


(ここを、守りたい)


 ただ、その想いだけが胸にあった。


 


──村の運命を賭けた、初めての夜が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ