【第五話】森の入り口で見つけたもの
翌朝。
まだ太陽が昇りきらないうちに、エルバの里の広場には数人の男たちが集まっていた。
腰に短剣を差した者、手に弓を持つ者、それぞれが簡単な装備に身を包んでいる。
「おう、リク!」
ガルドが手を振りながら駆け寄ってきた。
彼も今日は革のベストを着込み、手には重厚な斧を携えている。
「来てくれて助かるぜ。無理はさせねえ。森の様子をちょっと見て、異常がないか確かめるだけだ」
「わかった」
俺も、昨日村の倉庫から借りた小型のナイフを腰に差している。
今の俺にはこれくらいしか扱えないが、ないよりはずっとマシだ。
ガルドを含めて、今日の調査隊は総勢四人。
ベテランらしい二人と、俺と、ガルド。
少人数だが、静かにまとまった緊張感が漂っていた。
「よし、行くぞ。森の入り口まで、ゆっくりな」
ガルドの掛け声で、一同は森へと向かって歩き出した。
◆ ◆ ◆
エルバの里から森までは、歩いて十五分ほどだった。
昨日、俺が彷徨った深い森とは違い、ここは人の手が多少入っているようで、木々も道も整っている。
それでも、奥に行けば行くほど、鬱蒼とした気配が濃くなっていった。
「……空気が、違うな」
思わず、呟いた。
木々の葉はしっとりと湿っており、土からはどこか甘ったるい匂いが立ち上っている。
耳を澄ませば、虫の羽音すら聞こえない。
森が静かすぎるのだ。
「……何か、いるな」
ガルドが低く言った。
彼の目もまた、真剣そのものだった。
道の脇に、踏み荒らされた草むらがある。
獣道にしては、異様な荒れ方だ。
(《解析》してみよう)
俺はそっと、踏み荒らされた痕跡に手をかざした。
《解析》
――――――――――
【痕跡】中型魔獣「ダスクウルフ」 通過跡
【状態】興奮状態/魔力汚染影響あり
――――――――――
(ダスクウルフ……!)
聞き覚えのない名前だが、"魔獣"という文字だけで十分だった。
普通の動物ではない。危険な存在だ。
「魔獣の痕跡がある。ダスクウルフ……ってやつだ」
俺はすぐにガルドに伝えた。
「……やっぱりか」
ガルドは顔をしかめ、周囲を警戒する。
「リク、その"解析"ってやつ、どのくらい確かなんだ?」
「……細かいことまではわからない。でも、痕跡の種類と、危険な状態だってことは確実にわかる」
俺は真剣に答えた。
ガルドはしばらく考え込んだ末、決断した。
「よし、これ以上森の奥へは行かねえ。ここで一度、村に戻ろう。
適当な装備じゃ、魔獣相手にゃ無茶だ」
他の隊員たちも頷き、慎重に引き返す準備を始めた。
◆ ◆ ◆
村に戻った頃には、太陽が高く昇り、村人たちも集まってきていた。
ガルドが簡単に報告すると、村の雰囲気が一気に緊張に包まれる。
「魔獣……だと?」
「こんな近くに現れるなんて……」
不安の声が広がる中で、ガルドは静かに、しかし力強く言った。
「大丈夫だ。焦るな。
まずは、畑の周囲に簡易の防壁を作る。狩り出しは、その後だ」
村人たちは頷き、ざわめきながらもすぐに動き出した。
俺は、その光景を黙って見ていた。
(これが……この世界の"危機"なんだな)
誰も泣き叫ばない。誰も他人任せにしない。
自分たちの手で、村を守ろうとする。
俺も、何かできるだろうか。
この世界で、ただ生き延びるだけじゃなくて。
そう思ったとき、ガルドがこちらに顔を向けた。
「リク、お前も頼りにしてるからな」
その一言に、胸が熱くなった。
(……ああ、俺も、この村の一員なんだ)
静かに、しかし確かに、そう実感した。
──戦いの気配が、少しずつ、近づいている。




