【第十六話】忘れられた書庫
魔導球を解除してから、しばしの休息を挟み、調査隊は遺跡の奥へと進んだ。
先ほどまでの空間が魔術的な機構で満たされた“罠”だとすれば、今歩いているこの通路は静寂と遺構の重みが支配する、純粋な“記録”の領域だった。
歩くたび、足元の石畳がわずかにきしむ音だけが響く。
壁面には古代語で刻まれた長大な碑文が連なっている。内容は難解で、即座の翻訳は不可能だったが、リクはひとつずつデータとして読み込み、後で解析するための下準備を進めていた。
「おい、リク……これ、見てくれ」
先頭を歩いていた男性隊員が、通路の突き当たりで扉を見つけたらしい。
金属製の重厚な双開きの扉には、魔導文字が円を描くように刻まれており、中央には鍵穴のような凹みがある。
「古い……でも、封印ではなさそうです。単なる機械式の錠前に、魔素の補助が加わってる。たぶん、開けられます」
リクはゆっくりと扉に手を当てた。
“解析”スキルを起動し、鍵の構造と魔素の流れを読み解いていく。
やがて、ガチリと音を立てて扉が緩んだ。
「開いたぞ……!」
扉の先には、広大な空間が広がっていた。
天井の高いその部屋は、整然と並べられた巨大な書棚によって埋め尽くされていた。書棚には無数の本、巻物、石板が収められており、その一つ一つに古代語のタイトルが刻まれている。
「まさか……書庫?」
「信じられん……千年前の大崩壊以前の記録だぞ、これは」
副隊長が思わず呟く。
まるで歴史そのものを保存するために造られたような空間。
「……これは、“忘れられた書庫”と呼ぶにふさわしい」
隊長の声に、場の空気が引き締まった。
「よし、分担して記録と保護を行う。リク、お前は翻訳できそうな文献があれば最優先で確認してくれ」
「了解です」
リクは足早に棚を巡り、表紙の装丁や文字の構成、材質をもとに、魔導理論に関連する文書を選び取っていく。
(……これだ。明らかに、魔導機構の制御体系についての記述)
一冊の厚い本を手に取った瞬間、脳裏に電流のような感覚が走る。
“解析”スキルが自動的に本の構造と言語を読み取り、断片的ながら意味が浮かび上がってきた。
《……魔素構造は、周囲環境と感情因子によって微細に変化する。感応機構を搭載することで、術者の“思考”に応じた魔術の変換が可能となる……》
(思考に応じて、魔法の形を変える……?)
そんな理論、これまでどの学術機関でも公にされていなかった。
それはまるで、「意志を持った魔法」だ。
ページをめくる手が止まらない。
そしてリクは、気づいた。
(これが……俺のスキルの“進化先”かもしれない)
仲間たちが次々と貴重な文献を回収していく中で、リクの内面に芽生えた確かなもの——
それは、単なる生き残りや居場所の確保ではない。
「知ること」そのものへの欲求。そして、「理解したものを形にする力」への渇望だった。
(俺は、もっと深く“解析”したい。すべてを知ってみたいんだ……この世界のことを)




