7 躊躇い
昨日の約束どおり、ルーカスはまたこの13隊基地を訪れた。
ルーカスを部屋に通すと、私はすぐに本題を切り出した。
「すまないが、昨日の話は聞かなかったことにさせてくれ。」
「いったいなぜ。」
ルーカスは驚いた顔をした。年相応に幼く見える。これはルーカスの策略ではなかったのか。
私はまた、疑心暗鬼になっていた。
「昨日の夜、通り魔に我が軍の兵士12名が襲われた。どれも命に関わるような怪我ではないが、確実に我が軍の兵士を狙われた。」
昨夜、港の見張りをしていた兵士全員が襲われた。
通り魔は港にいた漁師たちには目もくれず、やみくもに兵士に切り掛かったという。
執拗に我が軍の兵士のみを襲ったのなら、無差別に人を襲う狂人ではない。
通り魔には我が軍の兵士を襲う理由があるのだ。
「考えすぎかもしれんが、昨日の話が外に漏れたということはないか?」
王国軍は反乱を防ぐために通り魔を使って我が軍の兵力を削っているのではないか。
「私はあなた以外にこの話をしていません。」
「だが可能性はあるだろう。王族の息がかかったものはどこにでもいる。」
王族は民衆が自分たちに背くことを防ぐため、工作員をいたるところに置いているという噂がある。
信憑性のない噂と思っていたが、密会をしたその夜に通り魔がでたとなれば疑いたくもなる。タイミングが良すぎる。
「それは、あなたの部下にも?」
ルーカスの言葉に私は答えられなかった。
黙り込む私に、ルーカスは貼り付けたような笑顔を向ける。
「通り魔の狙いがなんであれ、あなたが今日にも反逆罪で囚われるということはありませんよ。私たちはまだ計画すら立てていない。物的証拠もなく捉えることは王族にもできません。」
ルーカスが言うことももっともだ。私たちはまだ反逆名簿すら作っていない。反乱を企てる者は通常、誓いとして反逆名簿をつくり名前を書く。仲間を裏切らないという意思表明だ。反逆罪はその名簿を物的証拠として立証されることがほとんどだ。
ルーカスと私が面会した、というだけでは反逆罪はなりたたないだろう。
「ともかく、兵士が危険にさらされ、さらに兵力が削られる可能性がある以上君の計画に乗ることはできない。」
ルーカスは少し考えたあと、笑顔をつくった。
「通り魔は私が解決しましょう。あなたに信用していただくために。」