11 狡猾なる勇者
「こんばんは、レベッカ隊長。」
ルーカスは私に爽やかに微笑みを向ける。
ラジオから流れる報せが歴史を変えようとしているというのに、この男は涼しい顔をしている。
「あなたの手腕はまったく見事なものですね、ルーカス殿。」
ルーカスは素知らぬ顔で肩をすくめてみせた。
「終戦に導いたのは弟ですよ。」
皇太子リオン殿下は、一滴の血も流させずに敵国の首都へ参上した。
皇太子が取った手段は武力行使ではなく交渉だ。
今後一切敵国へ侵攻しないことを約束し、神の地を譲り受けた。
皇太子は、敵国が築いた彼らの信じる月の女神の神殿を存続を認めた。敵国の民の神の地内での行動の自由を保障した。
皇太子は神の地奪還と終戦を実現したのだ。
その輝かしい活躍の裏に、この男がいる。
皇太子の交渉が成立したのは敵国の内乱に乗じたからである。
内乱を裏で糸を引いていたのがルーカスだ。
「ルーカス殿は抜け目がないのですね。敵軍の重役たちが病に倒れたのも、あなたの仕業でしょう。」
ルーカスは「買いかぶりすぎですよ。」と首を振る。
「あの病は敵国では発見されたことがなかったと聞きました。」
「我が国から逃げて敵軍に通じていた反乱者が病をもたらしたのですよ。彼女の親しい者が感染者でしたから。」
「早くから敵軍に病がもたらされることがわかっていたから、より情勢が乱れる状況を作り出したのですね。」
ルーカスは得意げに口角を引き上げた。
いたずらを仕掛けたときの息子の顔とよく似ている。
「これだけの力がありながら、ルーカス殿はなぜ皇太子に従うことを選んだのですか?」
ルーカスはへらりと笑った。
「おかしな事を聞きますね。弟に刃向かったら俺を始末するのはレベッカ隊長の仕事になるでしょう?」
戦争が終わったのだから戦艦は撤退するが、未だ敵国の情勢は不安定なためこの島の防衛を緩めるのは危険だ。
今後は我が第8隊の兵がこの島の警護を担当し、周辺を見張ることが決まっていた。
それは外敵からの攻撃から国を守ると同時に、領主たるルーカスを監視することを意味する。
「俺はきっとこの島からでることはできないでしょう。
けれどそれは、弟に従う限り島の中での生活が保証されるということでもある。
飼い慣らされているといわれればそれまでですが、今の俺にとって仲間たちと平穏に生きること以上に望むものはないんです。」
皇太子がルーカスが裏切らないことを確信していたのは、皇太子はルーカスを手なずけることが出来ていたからなのだ。
従順な限り仲間の安全を保証するとは、裏を返せば仲間を人質にとっているようなものだ。
それでもルーカスは「これでよかったのですよ。」と笑う。
「俺はこれまで命じられるままに何人もの人を暗殺しました。
この島に囚われることは、生きるために誰かの命を奪ったことへの罰なんだと思います。」
「自分の選んだものを守るために誰かを犠牲にすることを厭わない者は、英雄にはなれません。
しかし愛するもののために手段を選ばず闘いぬく者は、狡猾な勇者だと私は思うのです。」
私の言葉にルーカスは目を見開いた。
「狡猾な勇者ですか。
俺もそうなれるでしょうか。」
「老婆心ながらひとつご忠告をさせてください。
誰かを守ると決めたのならば、最後まで守り通さなければなりません。自らの命を無駄にし、守るべきものを放り出すようなことがあってはなりません。」
ルーカスは、「ありがたいご忠告です。肝に銘じます。」と笑った。




