9 笛吹き
「なぁジン、本当にやるのか?」
ジンは頷く。
「いいのかよ。ルーカスの計画に乗せられるんだぞ。」
「かまうものか。あいつが俺たちを利用するなら、俺たちだってうまくあいつを利用してやれるさ。
俺がこれから仲間に言う言葉にひとつも嘘はないぜ。」
野営地のはじの他よりもみすぼらしいテントへと進む。
テントの前では、前線で戦わされる若い兵士たちが薪を囲んでいた。
顔を上げた同じ部隊の兵士が俺たちを見つけて笑いかける。
「ジン、アリ!お前ら生きてたのか!」
「逃げ出したくせになんで戻ってきた。」
睨みつけてくるのはジョーだ。
ジンはジョーに近づいた。
「船を出る前、俺がジョーに言ったことを覚えているか?」
「あぁ、覚えてるさ。お前は自分で選択したことの責任は取らなきゃだと言ったな、ジン。」
「だから俺は戻ってきたんだ。」
ジンは薪を囲む兵士たちの中心に立ち高らかに叫ぶ。
「俺は何も考えずに従って戦争なんかに参加してしまった。
その責任を今果たす。
俺は戦争を終わらせる。」
薪の炎の弾ける音が響く。
炎に照らされるジンの目は燃えている。
「戦争を終わらせるだと?そんなことできるのかよ。」
疑わしげなジョーにジンはまっすぐな声で答える。
「俺1人ではできない。でも、お前たちが力を貸してくれればあるいはできるかもしれない。兵士がみんないなくなったんじゃ戦えないだろう?」
「ジン、まさかお前俺たちまで巻き込んで逃げるっていうのか?
馬鹿なことを言うな。
俺たちは国を守るために戦う名誉ある兵士だろう。」
「俺たちは人殺しだよ。人殺しに名誉なんかあるものか。」
目を見開くジョーにジンはさらに詰め寄る。
「ジョー、なんでお前は国を守りたいんだ?
お前が人を殺してまで守りたいものはいったいなんだ?」
ジョーはぐっと手に力を込め、「そんなの、みんなおんなじようなものだろ。」と唸る。
「俺は俺を育ててくれたばぁさんと、ばぁさんが住んでる街を守るために戦ってんだ。」
「お前のばぁさんはお前に人を殺させて喜ぶような人じゃないだろう。お前の命と引き換えに街をとる人ではないだろう。そうだろ、ジョー。」
ジョーはジンにつかみかかる。
けれど何も言えず、ゆっくりと手を離した。
「戦争さえなければ、俺たちはもうあの狭い潜水艦に乗らなくて済む。胃がひっくり返るような速度で大きな船に突っ込んで行かなくて済む。あの機械の虫に乗っ取られる心配もしなくていい。
俺はお前たちがもう戦わないで済むようにしてみせる。
俺を信じてくれ。」
炎がジンの影を揺らす。
ジンの声は確かに響いたのだ。
「戦争が終わったら、いつか家に帰れる?」
声をあげたのは、ジンと仲の良かった少年兵だ。
「あぁ、必ずみんなで帰ろう。俺が約束する。」
「おれ、ジンを信じるよ。」
少年兵は立ち上がった。
彼とおなじぐらいの年少の者たちが後に続いて立ち上がる。
「アリ、お前もジンについて行くのか。」
ジョーの言葉に俺は「当然だ。」と答える。
「俺は俺の命もジンの命も国なんかにくれてやるのはごめんだ。」
ジョーは頭を掻きむしって、「あぁクソッ、おれの負けだ。」と悪態をついた。
「おれが間違ってた。おれも戦争を終わらせる方につく。」
驚いた顔を向ける俺の肩にジョーは拳を当てる。
「おれはジンに賭けるんじゃないぞ。おれの選択に賭けるんだ。」
「わかってるさ。」
「なら俺たちも行かなきゃだな。」と同じ部隊の仲間たちが笑いかける。
「さぁ、いこう。」
歩き出すジンに、皆が続いた。
俺たちは野営地を抜け出した。
軽快な口笛の音と共にジンが先頭を進んでゆく。
その後を少年と若者たちが追いかける。
目指す先は、自由と希望に満ち溢れた楽園だ。
そうしていつか故郷に帰れる未来を夢見るのだ。
完結まで残り3話です。




