8 革命前夜
輸送艦から逃げ出した俺とジンは、ただがむしゃらに泳いだ。
右も左もわからない。
これからのことなんかわかるはずがない。
それでももう後戻りはできない。
振り返ることもなくひたすら泳いだ。
人生とはうまくいかないようにできているらしい。
日が落ち始め、夜になると共に風が吹き荒れた。
強く海面を叩きつける豪雨。
鳴り響く雷鳴。
俺たちはなすすべもなく荒れ狂う波に揉まれた。
流される波の中で、俺はジンの手を必死で掴んだ。
「目が覚めたか。」
知らない女性の声で俺は目をあけた。
「単身で敵陣に乗り込むとは見上げた根性だ。」
手慣れの女兵士が俺を見下ろしていた。
女兵士は敵国の軍服を着ていた。
勲章が彼女の階級が高いことを示す。
彼女はからっとした笑顔を見せる。
「王国軍第8隊隊長レベッカだ。よろしく頼むよ、捕虜一号くん。」
俺を荒波から掬い上げたのは敵国の戦艦だったのだ。
「ジンは、どこにいる。」
海水を飲み込みがらがらになった喉で必死に尋ねた。
レベッカと名乗った女は「無理するな、水を飲め。」と俺に水を差し出し、「捕虜二号はそこに寝かせてる。」と後ろを指差した。
「ジン!」
震える膝を引きずって駆け寄ると、ジンは目を開けて「アリ?」と俺の名を呼んだ。
「感動の再会のところ悪いが、君たちを国に返してやるわけにはいかないんだ。君たちには私たちの基地へ来てもらう。」
虫の息の俺とジンに、再び荒波を泳ぐ体力は残されてなかった。
俺たちはレベッカに連れられ、敵国の基地となっている孤島へ上陸させられた。
「レベッカ隊長、彼らはどうしたのですか?」
島につくとすぐ、駐屯地に似合わぬ高価な服を見にまとった縦にばかりひょろ長い男がレベッカに声をかけた。
「ルーカス殿。この者たちは海で溺れているところをうちの隊員に発見されたのです。捕虜として捉え、こちらへ連れて参りました。」
隊長であるレベッカが敬った態度を取るということは、ルーカスと呼ばれた男は身分が高いらしい。
「この者たちを私に任せていただけないでしょうか?」
レベッカはルーカスの申し出を了承し、俺とジンはルーカスに屋敷へと連れて行かれた。
ルーカスは屋敷の応接室へ俺たちを通すと、俺たちに座るよういった。
「そう警戒なさらないで。私はあなたちを歓迎しているんです。」
ルーカスは胡散臭い笑顔を浮かべる。
「私はあなたたちを殺すつもりはないのです。ただ一つ、お願いを聞いて欲しいのです。」
妙に丁寧な言い回しが嫌味たらしい。
痺れを切らしたジンが低い声を出す。
「回りくどい言い方をするな。俺たちに何をさせるつもりだ。」
「あなたたちには、この戦争を終わらせる手伝いをして欲しいのです。」




